第433話 龍児と刀夜の反撃2
広い部屋に銃声が轟いた。
剣を振り上げたボドルドの手から血が飛び散る。
「ぐおぁ!?」
突如手に激痛が走り、ボドルドは手にしていた剣を落とした。
痛む手を反対の手で押さえて傷跡を確認すると親指の付け根に銃痕ができている。傷は時間魔法によってみるみる治ってはゆくがボドルドの心は『まさか』と焦った。
響いた音に傷跡の形、間違いなくこれは銃で攻撃されたものだ。銃を扱う者など異世界メンバーしかおらぬはずだとボドルドの思考が囁いた。
ボドルドは『あり得ぬ』と恐る恐る音のしたほうを振り返れば、制御装置の裏から姿を表した誰かが銃をこちらに向けて立っていた。
「ば、ばかな……」
遅れてリリアも銃声元へと視線を向ければ、そこにはよく見知った顔の男が立っている。黒い瞳とボサボサの髪。特徴的な前髪は顔半分を覆い被さっているほど長い。その顔には大きな傷跡が額から鼻、鼻から口元へと刻まれていた。
リリアは信じられないといった赴きでその者から目が離せなくなかった。
「なぜだ? ど、どうしてお前がここにいるのだ!?」
予想外の展開にボドルドは軽くパニックへと陥った。
「リリアに手をだすことは俺が許さん」
男はドスの効いた声でボドルドを威嚇する。
「刀夜……様……」
死んだと聞かされた男が生きている。
それも元の世界に帰ったはずの彼が目の前にいる!
リリアは狂おしいほどの感情に次々と襲われ、大粒の涙を零すと止まらなくなった。
「刀夜様!!」
居ても立っても居られなくなったリリアはたまらず刀夜の元へと駆け出すと彼の胸へと飛び込んだ。
抱きついた彼の体には厚みがあった。服ごしでも彼の体温が伝わってくる。胸に顔を埋めれれば彼の心臓の鼓動が聞こえた。
「生きていて……くれたのですね……」
リリアにとって、ただただそれだけで嬉しかった。
「心配をかけさせてすまない」
ボドルドを陥れるには罠であることを知る者を最小限に止めておく必要がある。例え仲間であるリリアと言えど刀夜が無事であること知ればリリアの言動よりばれてしまう可能性がある。
すべての不安要素を排除しなければならなかった。
リリアにおいていかれたエイミーは慌てて彼女を追って二人の足に抱きついてリリアの真似をする。
「さて、ボドルドことモハンマド。そして拓真。二人には自警団が来るまでここでおとなしくしてもらおうか」
刀夜は再び銃をボドルドへと向けた。
冗談ではない……
自警団に捕まれば拷問を受けた挙げ句死刑になることは間違いない。しかし逃げようとすれば死なない体を良いことに刀夜は容赦なく撃ってくるだろう。口惜しくも刀夜は平然とそれをやってのけるような相手で逃げるのは難しい。
だが、そのことよりも腹立たしいのは……
「た、拓真! 貴様! 刀夜が死んだという話は嘘か!」
ボドルドは刀夜の殺害現場を見たわけではない。拓真から聞かされた話がすべてだ。拓真が嘘をついていなければ手立てを講じることは可能だった。ボドルドは刀夜と結託していたのかと疑った。
だが驚いているのは拓真ことマウロウも同じだ。刀夜は確かに自分の目の前で殺されたはずである。まるで狐につかまされたかのような表情でマウロウはボドルドの言葉に首を振った。
そもそも刀夜は転送されて元の世界に帰ったはずである。ボドルドはそのようなことも忘れるほど混乱をきたしている。
「なぜだ!? どうやって生きている? どうしてここにいる!?」
パニックになるボドルドに対し、刀夜は呆れかえった。
「ボドルド……あんたの敗因は周りの人々に興味を持たなかったことだ」
だがそう言われてもボドルドには今一ピンと来ない。刀夜のいう興味とは一体誰のことを言っているのかと。
「自分の研究のことばかり考えて、お前の作り上げた教団が何をしていたか、ちゃんと把握していないだろ?」
教団のルーツはボドルドの研究を手伝うための存在であった。だが人材が次々と増えて研究所の開発が一段落つくと彼らが邪魔になった。
多すぎる人材を切り捨てなくてはならないのだが、ボドルドはそれすら面倒となると彼らを放置するようになる。
そして見捨てられた彼らはボドルドを教祖として崇める宗教団体のように変貌してしまう。
そんな連中をボドルドはうざたく感じてますます関わらないようになってしまった。潰してもよかったが時折彼らを利用したいときもあるため、なかなか踏ん切りがつかずに今に至った。
「だからなんじゃというのだ?」
彼らを放置したことがこの事態を招いたことへと繋がりが見い出だせない。
「お前の教団は本部を潰す原因となったリリアに復讐するために俺を罠にかけたことは知ってるか?」
ボドルドはそのようなような事件があったことを知らなかった。だが正確には忘れていたといったほうが正しい。
この事件はまだ地球にいたときに拓真から少しだけ話題にでていた。拓真の残した手帳にも記されている。
しかし人のことなどまったく興味のないボドルドはそんな話のことなど耳から耳へと素通りにしていた。刀夜の顔の傷がどうしてできたのかすら彼に尋ねたことすらない。
「地球に帰ったのはその時に使われた俺のクローンのほうだ!」
「!!」
刀夜のクローンなど作られていたなどボドルドは知らなかった。ボドルドはようやく刀夜の無頓着という言葉の意味を理解する。
だが帰還したのが刀夜のクローンであることは間違いないとは思いつつも理に合わないところがある。その質問を先に投げかけてきたのはマウロウだ。
「刀夜、確かその時のクローンは自警団に捕まって隔離されていたはずだ。一体どうやって入れ替わったのだ?」
刀夜はモンスター工場でボドルドと合流してからずっと彼の側にいたはずである。最初っからクローンであるハズがない。
「へへーん。その理由はこの私どぇーす」
突如、刀夜と同様に転送機の制御盤の裏から背の高い女性が現れた。
「お、お前は……」
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