第425話 龍児は語る2
――確める
そう言われてもまさか今からセレモニー会場へ向かうわけにはいかない。行ったところで招待状もないのだから入れるはずもなし。
だがそんなとき、テレビから速報が入った。
『番組の途中ですが緊急速報です……』
テレビに写されたのはニューススタジオで背景にテレビスタッフが慌ただしくしている姿が映りだされ、ニュースキャスターが原稿を受け取っている。
『本日XX市にて開催されていた国際科学技術センターによる新しい研究施設セレモニー式にて事故が起こったもようです――』
テレビを見ていた面々が唖然とする。龍児の言ったとおり報道されたのだ。それも悪いほうで。
だが驚いたのは龍児も同じだった。この事故の予言は龍児が考えたものではない。刀夜から聞かされていただけに過ぎなかったため、本当に起こるのかと不安であったのだ。
「ほ、本当におこりやがった……卵が先か、親が先か? これはどっちなんだ刀夜……」
テレビを睨み付けている龍児は小声で呟いた。
その言葉はテレビに釘付けとなる皆には聞こえていなかったが、晴樹だけには聞こえていた。
「龍児くん、これ……」
まさかと問う舞衣だが目はテレビから離せない。やがてテレビの映像は現場付近の中継へと変わった。
映っているのは事故現場から離れた住宅街のようで、その周辺は警察により侵入禁止の処置がとられている。
レポーターの周りには警察のみならず消防車や救急車も駆けつけており、封鎖整備や負傷者の運搬を行っている。
住宅の窓ガラスが軒並み割れており、事故の凄まじさを表していた。
「衝撃波の影響だな。潰れている建物もあるだろう……」
龍児はそういつつリモコンを手にしてチャンネルを変えてみた。どのチャンネルもこの事故の速報をやっており、事故の大きさを物語っている。
龍児はある映像を見つけるとチャンネルを変えるのを止めた。その映像とは報道ヘリからの現場上空からの映像であった。
研究所のあった場所は、まるでアイスクリームディッシャーですくわれたかのように円弧状の穴が開いて地中が剥き出しとなっている。
「こ、この光景って……本当に転送されたのか……」
驚きの声をあげたのは颯太だった。
「ええ、そうよ。これは転送だわ。ここにあったものは転送されたのよ」
今度は由美が確信して答えた。彼女は刀夜が転送された校舎を調査して完全な球体状でえぐられていると答えていたのを覚えていた。拓真のいた研究所はまさにその形で消失している。
「これはまた向こうからの干渉なのかしら?」
舞衣は口に手を当てる仕草をしつつ、その理由を考えてみた。だがその結論を得る前に先に龍児が答える。
「いや、これはこちら側から飛んだんだ。飛ばしたのは拓真とその仲間さ」
皆は驚きの内容に一瞬言葉が出なかった。
なぜ、あの拓真がこんなことをしたのか?
そもそも向こうに行って何がしたいのか?
だが、龍児の説明には根本的な問題が含まれており、由美はそのことを指摘した。
「でも龍児くん。どうやってこちら側から向こうへ飛ぶの? 確か転送には魔法が必要だったのでしょ? 地球にはマナはないし、拓真くんだってそんな魔法を知っているとは思えないわ……それにここの研究所の装置は粒子加速器と言ったわね。どうしてそんなものが転送装置になるの?」
由美は龍児の意見を否定してみるも、現実にテレビに現場が映されており、それは間違いなく転送後だと確信していた。だがこの疑問が解けないかぎり龍児の話を完全に信じることができない。
「原理については俺も突っ込まれれば詳しく答えられないが……粒子加速器を使った微小ブラックホールの生成という論文がある」
「え? ちょっと待ってくれよ。ブラックホールってあのブラックホール?」
颯太が血相を変えて聞き直した。当然だ。ブラックホールといえばすべてを飲み込む恐ろしい天体であり、それは宇宙に疎い者ですら知っている有名なものだ。
もしそのようなものが地上で産みだされれば地球はあっという間にブラックホールによって潰されてしまうだろう。
それどころか太陽系でさえ重力の影響で星系として維持できなくなるかも知れないのだ。
「そうだが『微小』がつく。論文によればすぐに消えてしまい。地球や機器への影響はないほどらしい」
「いや、それにしたってブラックホールだぜ……」
颯太は納得いかない様子だがそれは皆も同意見だ。そもそも本当にブラックホールなどできるのかと半信半疑である。
しかしながら彼らは科学者でもないのでその点について議論しても
「転送にはこのブラックホールを利用して俺たちが飛ばされたあの星へとワームホールを作り、そこを通って移動するらしい」
するらしいと曖昧に答えたのはこの点に関しては龍児も理解できず聞いた話を伝えるしかできなかった。
そもそも龍児のこの知識は刀夜から教えられたものであり、龍児にとっては理解するよりも覚えきれるかのほうが切実だった。
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