第423話 彼らの見た刀夜の最後

 ヘルメット片手にレザー姿の龍児は顔を会わせると一部を除く者がぎこちなく挨拶をしてみせた。だが彼のしでかしたことを思えば、そんな軽い挨拶などバカにしてるのかと思われても仕方がない。


 案の定、場の雰囲気は凍りついてしまい、さすがにこれはまずいと颯太が助け船を出した。


「りゅ、龍児ぃ……あー……そうだ、バイクの調子は良さそうだな……」


 颯太はひきつった顔で他愛ない会話から入ろうとした。この雰囲気の中でいきなり本題に入れば即ブチ切れて大暴れしそうな奴がいるからだ。


「あ、あぁ、調子いいぜ。留守中お前に預けておいて正解だったな……」


 龍児も空気の悪さに察してかぎこちなく答える。


 龍児はもっぱら海外を飛び回っているので住んでいたアパートから全ての荷物を払い下げて実家に戻っていた。


 しかしバイクだけは捨てるには忍びなかったため颯太に預けている。龍児は一度、海外に出向くと数年は帰ってこないので、颯太はそんな龍児のバイクを預かってきっちりとメンテナンスしていた。


「確かNGOだったっけ?」


 二人を援護するかのように晴樹が声をかけた。


「そうそう、龍児は難民キャンプを転々として困ってる人を助けてるんだよな」


 颯太もさらにフォローを入れるがそんな情報はすでに皆の知るとこだ。


 龍児は皆と疎遠になった後、勉学に励んで大学も卒業した。その後は職を転々することになるが彼の目標はぶれてはいない。


 『世界で困ってる人たちを救いたい』それが彼の新しい目標であった。


 龍児は伝手つてから伝手つてを得てNGOを経由して難民支援組織に所属することができた。現地職員となればほとんど日本にはいられない。


 龍児は日本には戻らない覚悟で旅立ったのだが、今日という日だけはどうしても日本に戻らなくてはならなかった。それは彼との約束を果たさなくてはならないためである。


 龍児は二人の話に返事もせず皆の輪の中に入ると……


「すまねぇ!!」と深々と頭を下げた。


 同時にバンっと強く机が叩かれる。机を叩いたのは葵で彼女は涙目となり怒り心頭である。


「何よ……何よ今さら……25年も経って今頃自分の過ちに気づいたっていうの? もう刀夜は帰ってこないわよ!」


 葵の涙の訴えに美紀も梨沙も涙を溢しそうなる。


「拓真から聞いたわ。私怨だそうね。それはリリアちゃんのこと? それとも手柄? どちらだって殺すほどの事じゃないわ。あなたなら一発殴れば済むことじゃない。それなにどうして刀夜は殺されなきゃならなかったの? それもあんな……あんなやり方って……」


 葵はとうとう堪えられなくなり、机に伏して泣き出してしまった。


 彼女の見た刀夜の最後は……


◇◇◇◇◇


 梨沙が見つけた富士の山。


 誰もが地球に帰ってきたのだと、日本に帰ってきたのだと確信した。だがそんな彼らの視界に入ったのは刀夜の殺害シーンだ。


 龍児は刀夜の背後からショートソードを突き上げるかのように勢いよく剣を突き立てた。背中から勢いよく迫ったため体当たりをかます形となって二人は激突する。


 龍児の剣は簡単に刀夜を貫いた。そして龍児の体当たりを喰らうとダンプカーに跳ねられたかのように刀夜の体は前へと吹き飛ばされる。


 緩やかな斜面を転がる刀夜。龍児は弾き飛ばす瞬間に剣から手を離したため、刀夜の背中には剣が刺さったままだ。


「龍児! 何をするんだ!!」


 晴樹が血相を変えて龍児を止めようとする。しかし晴樹に片手を掴まれたが龍児は難なく彼を片腕で弾き飛ばした。


 そして龍児は腰のポーチから手袋を取り出して右手にはめる。


「あ、あれは!?」


 いち早くその手袋が何か見破った拓真は驚く。龍児のはめた手袋には甲の部分に大きな魔法石と小さな魔法石が組み込まれていたのだ。


「魔法アイテム!」


 龍児は手袋をはめた右手を刀夜へと向け、明らかに攻撃の意思を示していた。


「や、やめるんだ龍児君!!」


 拓真の抑止の言葉も空しく龍児は魔法を唱える。


「燃え尽きろ! ファイヤーストーム!!」


 手袋の魔法石が光り、倒れている刀夜の元に魔方陣が描かれる。


「あれは機械術式による自動詠唱!」


 それは魔法石にあらかじめ呪文が組み込まれ、魔法名を唱えるだけで魔法が発動するする魔法アイテムである。このアイテムの最大の特徴は魔法の発動に必要なものすべてが魔法石に組み込まれているため誰にでも扱えることにある。


 ゆえに非常に貴重な品であり、かなり高額な品だ。どうしてそんなものを龍児が持っていたのか?


 その答えは晴樹が知っていた。この手袋はかつて刀夜がグレイトフルワンドを購入する際にボナミザ商会でまとめ買いしたものだ。だがどうして龍児がそれを持っているのかまでは知るよしもない。


 倒れている刀夜の地面に描かれた魔方陣から炎の柱が立った。うねりをあげて、まるで生き物のように蠢く炎の竜巻の温度は一万度を越える。


「刀夜!」


「うわ、あち!」


 あまりの高熱に周りにいたものですら火傷を負いそうである。現に延焼時間がもう少し長ければ周りにいた者たちも火傷を負っただろう。


 炎の柱が消えさった後に刀夜の姿はない。地面には黒い影が刀夜が倒れていた証として残っているのみ。そして刀夜を突き刺していた剣は溶けてその原型を留めていなかった。

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