第421話 時を経て彼らは再び集結する1
「う、嘘です……そんなの嘘です! 龍児様がそんなことするハズがありません!」
リリアはマウロウの話を力強く否定してみせた。そのような話など信じられるわけがない。
確かに龍児と刀夜は仲が悪くてよくケンカをしていた。だが共に帰りたいという目的意識は同じである。そのような二人が殺し合うなどとは到底思えない。
特に龍児は人殺しを仕方がないからだとか、戦だからといって簡単に人を殺めるタイプではない。現に彼は山賊のアジト襲撃のときも教団の拠点襲撃のときもモンスター工場攻略でも人だけは不殺を貫いていた。
そして何より龍児が刀夜を殺す理由など思い当たらない。
「龍児はな……嫉妬したのじゃよ」
「嫉妬?」
「嫉妬は人を狂わせる」
「龍児様が何に対して嫉妬したというのですか?」
「一つは帰還の手柄をすべて奴に奪われたこと……」
「一つ?」
「そう、そしてもう一つはお主に横恋慕していたことじゃ」
龍児が自分に気があった?
リリアにしてみれば龍児が自分にそのような態度をとっていたという記憶はない。
だが龍児はいつも優しく、気を使ってくれたりもした。それが気があったと言うことなのだろうか?
もしかしたら自分だけが気がついていなかっただけなのかも知れない。リリアはそう考えるとさらに記憶の糸を
心当たりがありそうなのはシュチトノでの一件だ。刀夜があれほど怒ったのは裏切られからだと思っていた。だがもし、それだけで無かったとしたら?
彼がもし、龍児が自分に気があることを知っていたとしたら? そのうえ自分がさらに誤解を与えるようなことをしたからあれほど怒ったのかも知れない。
そう考えればボドルドのいうことも完全には否定できない。だがモンスター工場で刀夜と出会ったとき龍児はちゃんと誤解を解いていたはずだ。
本当に龍児が自分に好意を抱いていたのか?
……それはおかしい。
「それは工場で刀夜様とお会いしたときに否定したと聞いています」
「表向きはな……じゃが本音は違う。お主の気持ちを知っておったからこそ奴はそれを表にできなかった。そして帰還においてお主の扱いに対する刀夜の態度に怒りを爆発させてしまったのじゃ」
リリアはボドルドの説明に対して、彼らの言い分には大きな矛盾があると感じた。
「納得できません。そもそも貴方がどうしてそれを知っているのですか? 帰還した刀夜様や龍児様のその後を。貴方が知る術などないはずです!」
そうなのだ。帰還した彼らのその後のことなど、こちらの世界の人間に分かるはずなどないのだ。
――騙されるものか!
「……そうじゃな。確かにワシはその現場を見た分けでもない……」
ボドルドの言葉にリリアは「やはり」と確信した。しかしながら、なぜボドルドはこうもあっさりと認めたのだろうかという疑問が沸く。そもそも何のためにそんな事を言ったのか分からなくなってしまった。だかボドルドの話には続きがあった。
「じゃが―― それを目の前で見た者なら……ホレ、そこにおる」
リリアは振り向いてボドルドが顎で示す相手を見る。彼が指し示したのはマウロウだ。マウロウは心苦しいのか、うつ向いて黙り込んでいた。
「なぁ……そうであろう? マウロウ……いや、我が親友、河内拓真よ」
◇◇◇◇◇
――西暦2045年……
龍児たちが帰還して25年の月日が経った。彼らは帰還後、異変の調査にでた警察に保護された。
珍妙な服装に剣や銃で武装をしていたが彼らは二年前に失踪した天岡高校の生徒であった。
当然、この事は大きな話題となりマスメディアの注目の
しかし、それを証明してみせたのは拓真であった。
彼は杖に残されていたマナを使って魔法を使ってみせたのだ。このことにより、世間はともかく警察や政府関係者は彼らの話を建前上信じることで解放された。
幾度となく説明を求められて魔法を披露するが、地球上にはマナは存在しないため拓真の魔法もやがて尽きて使えなくなった。
すると騒ぎも徐々に収まりだして一年もすれば世間の話題から彼らは消えることになった。
帰還後に亡くなった刀夜は警察が来たとき、彼らの間で大揉めとなっていたが肝心の遺体は見当たらず、龍児の殺人罪は証拠不十分で不起訴となる。
だがこの事件がきっかけで龍児とほかのメンバーとの間には大きな溝ができてしまい、龍児は颯太以外の彼らとは疎遠になってしまう。
だが颯太を除けば拓真だけは龍児のことを気にしてくれており、何度か会って彼と言葉を交わす。しかし刀夜殺害に関しては何度聞いても私怨であるとだけしか答えなかった。
◇◇◇◇◇
東京青山にあるビルの一角の喫茶店――
こじんまりとした小さな喫茶店だがアンティークに包まれた内装は落ち着いた雰囲気を演出し、年配のかたから親しまれていた。
その喫茶店の入り口の扉には『本日貸し切り』とプレートが掲げられている。
2つの人影がその扉を開けるとチリンチリンと澄みきった音色が来客をつげた。
「あら、いらっしゃい」
女性の声が来客を出迎える。
「やっほー舞衣、元気してた?」
元気な声で挨拶を受けた舞衣は店のカウンターでバーテンダーの姿でコーヒーを入れている。ここは昼間は喫茶店であるが夜はバーとして営業している。
彼女は事件後、進学して大学を卒業すると就職を転々とする。やがてフリーターとなり、バイト先で今の旦那と出会った。結婚して二人の子供を授かり、旦那は脱サラして譲り受けたこの喫茶店を二人で運営することになった。
「葵、美紀、二人とも相変わらず仲がいいのね」
店に入ってきたのは葵と美紀だ。
舞衣は声をかけつつも二人の相反する服装にどうしても目を奪われずにはいられない。美紀は涼しげなワンピースをメインに上から下まできっちりコーディネートしているのに対して葵はジャージなのだ……
「葵、あなたそんな格好でくるなんて……もしかして普段からその格好なの?」
「そうよ、いくら友達とはいえ。こんな格好はないわ。だから着替えましょうと言ったのに」
「し、仕方ないじゃない。あいつら今日は用があるつってんのに朝練したいからって無理矢理……」
「それでそのまま来たの? 呆れるわね」
葵は今は中学の体育教員でバスケの顧問をしていた。早朝から生徒に叩き起こされ、朝練に付き合わされて不機嫌になっている。
「あたしだって恥ずかしかったんだからね!」
青山でジャージ姿で歩けばさすがに周りから冷たい視線に晒された。同じ目で見られたくない美紀からも距離を取られてしまう始末。
「まぁ、コーヒーでも飲んで落ち着きなさい。その点美紀はさすがね」
舞衣が誉めると美紀はえへへと笑った。自慢の服の裾を持ち上げてどうだとばかりに自慢してみる。
「それ、美紀が作ったの?」
「そうよ、いいでしょう」
誉められると有頂天になったのか、さらに見てみてと言わんばかりに服をヒラヒラさせる。
「デザイナーの仕事は順調?」
「もちろんバッチリよ。こんどショーにも何点かだすんだ」
美紀はファッションデザイナーとして有名な先生の元で働いているが近々一人立ちしようとしているところだった。
「そう、それはすばらしいわ。今度話を聞かせてね」
「もちろんよ!」
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