第418話 さよなら異世界1
刀夜を含めて全員が部屋の中央へと移動した。彼らの回りには石柱が均等にならんでおり、はるか上にある天井には直径が人の身長ほどある太い金属チューブが部屋全体を囲んでいる。
彼らを見届けたボドルドは端末装置のスイッチを入れると入口の扉がプシューと音を立てて自動で閉じた。
彼はさらに大きなレバーを引く。するとどこからとなくガコガコと大きな機械の駆動音が聞こえてくると、転送装置の天井に縦一列に大きな隙間が開く。
それは音と共に徐々に広がってゆき、まぶしい光が差し込んできた。
天井が開いてゆくに連れて光は和らぎ、はるか上空には雲が流れている青空が見えた。地上から見れば湖畔の隣に大きな大穴が空いたように見えていることだろう。
「では始めるぞ!」
天井が開ききるとボドルドはコンソールパネルにあるスイッチを次々とオンにしてゆく。
「刀夜様!」
リリアはたまらず声をあげて窓にへばりついた。せめて最後にこちらを見て欲しい。振り向いて欲しい!
だがそんな願いを他所に刀夜は振り返るどころかリリアとは反対の方向を、部屋の隅を見つめている。そこに何かあるわけでもない。皆は空を見上げているが刀夜だけがそっぽを向いていた。
いや、皆とは違う行動をしているものがもう一人いた。龍児が刀夜の背を鋭く睨み付けている。
ボドルドはコンソールの回転つまみを次々とマックスにまで回してゆくとジリジリと音を立てていた天井の装置は激しく音をたててゆく。
「電力最大! 冷却水注入開始!」
ボドルドは楽しそうにパネルを操作していた。無数に並ぶアナログチックな針が次々とレッドゾーンへと叩き込まれゆく。
パーン!
龍児たちのいる部屋の真上で一閃、光が走った。何か重圧な力が上から降りてきたような気がする。
「なにか……頭が重くなったような……」
拓真は不安を感じ始める。本当に無事に帰れるのだろうか?
ここは地球のある天ノ川銀河のどこかの星であることは聞かされている。ということは地球に帰るためには何光年、いや下手をすれば何万光年もの距離を移動しなければならない。
実際に飛んできたのだからここにいるのだろうが、その実感はまるでないのだ。そんな不安を抱いたのは拓真だけではない他のものたちも同様であった。
「マウロウ! やるぞ!」
「わかった」
ボドルドの掛け声と同時に二人は杖をかざして呪文の詠唱に入った。彼らの口から聞こえてくる呪文がリリアの耳に入ってくる。
しかし、それは全く聞いたこともない発音の呪文だ。おそらく帝国語なのだろうとリリアはとっさに判断した。
彼らの持つ杖にはリリアのグレイトフルワンドの魔法石より大きなものがついている。大量のマナを消費するのだろうとリリアはふんだ。
それは事実であり、空高くに巨大な魔方陣が形成された。直径は刀夜たちのいる部屋より大きい、そして何重にも折り重なると複雑な紋様を描いた。
さらに龍児たちのいる場所にも魔方陣が形成されていた。彼らを囲むように複数の魔方陣が球状に彼らを囲んでいる。
ビシッ! ビシッ! ビシッ!
何度も稲妻の閃光が異世界組の頭上を走る。空はいつの間にか暗雲が立ち込めて辺りが暗くなった。
ビシッ! ビシッ! ビシッ!
稲妻の閃光がどんどん増えてゆく。だがよく見れば稲妻は空を走っているわけではない。それを放っているのは天井を囲んでいる金属チューブから放たれている。その閃光は稲妻ではなくプラズマだ。
チューブから放たれたプラズマをよく見てみるとそれは部屋の中心へと集まっている。中心には極めて小さい黒球がありそこにプラズマが吸いこまれていた。
プラズマが黒球に吸い込まれるたびに強いプレッシャーに襲われた。まるで周りの空気の圧力で龍児たちは押し潰されそうだと感じた。
黒球に吸い込まれているのはプラズマだけではない。周りの空気もチリも吸い寄せられてまるで嵐のようになっている。
「お、おい! 本当にこれ大丈夫なのかよ?」
身の危険を感じた颯太が刀夜に訪ねたが彼は無言を貫いたまま微動だにしない。直後、耳鳴りに襲われた。微かだが頭痛を感じ始める者も現れて颯太の懸念は皆も感じ始めた。
そんなとき龍児たちを包んでいた魔方陣が光ると彼らはガラス球のようなものにつつまれる。すると先程まで感じていた耳鳴りや頭痛から解放された。彼らはこれが防御してくれているのだと即座に理解する。
ガラスのような球体は石柱の手前までで形成されており、恐らく教室が丸くえぐられていたのと関係しているような気がした。
「ねぇ見て! 空が!」
空の異変に気がついた美紀が指を差した。彼らの真上には巨大な魔方陣が描かれていたが、その中心に向かうほど不自然に空間が湾曲している。まるでその中心が天空に向かって引っ張られるかのように。
先程まで晴天であった空はオレンジ色となっており、中心に向かうほど紫、そして漆黒へと変化している。
まるで分厚い雲かと思われたそれは空間が揺らいで光の屈折によって引き起こされていた。漆黒となっている部分には光輝く星が見えたが、その星星も吸い寄せられかのよう中心へと落ち込んでゆく。
プラズマと大気を吸い込んでいた球体はいつの間にか大きくなっており、まるでブラックホールのごとく辺りをものを吸い込んでその威力がどんどん大きくなってゆく。
それはリリアたちのいる場所にまで影響を及ぼし、まるで世界の終焉に向かっているのではと不安に見舞われた。エイミーも驚怖を感じ取り、リリアの足にしがみついて目を閉じて耐えている。
「ゆけ! 元の世界へ、地球へ帰れぇ!!」
ボドルドが叫んだ瞬間、辺りに爆風のような圧力に襲われて空を貫くように黒い柱が現れた。
そこからは一瞬の出来事であった。
黒い柱が消えたと同時に空をおおっていた雲のようなものも消え去って元の青空が広がっていた。
刀夜たちのいた部屋からは黒い球が消え去り、彼らの立っていた場所は半球状にえぐられて地面ごと消え去っていた。
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