第417話 転送装置2
「サイレンス!」
マウロウの魔法によりマリュークス周辺の大気は振動しなくなり、マリュークスの声は力を失う。
「!!?!」
声を封じられて暴れるもののアースバインドの鎖にて封じられた彼はその場から身動きもできない。
「おとなしくそこで見ておれ。ティレス、念のためじゃ奴を抑えておいてくれ」
ボドルドはマウロウの側にいたティレスに指示を出した。だがティレスは返事もせずにプイっと顔を背けると指示されたとおりにマリュークスの元で不服そうに彼を見張った。
「?」
なぜ彼女が返事もしないのかと疑問に感じた。むしろ反感の目を向けられていたような気がしたがとんと検討がつかない。
彼女の態度が変わったのは龍児たちへと赴いてからだ。考えられる可能性を思案すると……ボドルドはじろりとマウロウを睨んだ。
「何かしたか?」
「彼女にはすべて教えた」
「な、なんじゃと? まさかプラプティのこともか?」
ボドルドは焦る。何しろティレスの生まれ故郷を滅ぼしたのは彼だ。親も兄弟も友達も。知られればもう彼女を利用できなくなる。それどころか報復ものだ。
「そのことなら彼女はもうすでに知っておったよ……」
「なんじゃと?」
ではなぜ彼女はいまだ自分の命令に従っているのだろうかと疑問が沸いた。
マウロウは彼女にすべてを聞かせたと言った。それはつまり刀夜達が帰らないとどうなってしまうかも知ったという事になる。
彼女の望みはこんな世界を作った奴への報復だ。そして奴隷制度などない誰もが幸せな世界の再構築である。世界の滅亡は彼女の望むところではないのだ。
であれば彼女は少なくとも転送が終わるまでは手出しはしてこないことになる。そしてもし彼女が転送後に反逆を行ったとしても、転送後ならば対処する方法はあるとボドルドはほくそ笑みを浮かべた。
ボドルドは勝ち誇った視線をマリュークスに投げつけると、彼は悔し涙を浮かべて睨み返した。
そのような四人のやり取りを横目で見ていた刀夜は危機を乗り越えたと安堵し、部屋へと入ってゆく。
「刀夜様!」
リリアはガラス窓へと駆け寄ると刀夜が部屋の中心へと向かっている後ろ姿を眺めた。
「さ、はよゆけ」
ボドルドの言葉に背を押されて他のメンバーも部屋へと入ってゆく。
舞衣は部屋に入る瞬間に振り向いてリリアの様子を伺うが彼女の視線は刀夜に釘付けとなっている。泣きそうになっているのを気丈にも我慢しているのが誰の目もわかってしまう。
龍児は最後に入った。
中は緩やかなすり鉢状となっている。階段を降りつつ振り向くと窓の外にはボドルドとマウロウがこちらを見ている。間に挟まる形でリリアが不安そうな顔でこちらを、いや刀夜をずっと見ていた。
視線を戻せば刀夜は振り向きもせずただ中央へと向かっている。その事に龍児の腸は煮えかえりそうだった。
一体だれのお陰でここまでこれたというのか?
奴の抱えていたトラウマを誰が救ってくれたのか?
どうしてそんなに冷たくできるのか?
あの海での出来事以来、ちょっとマシになったかと思われたことは単なる勘違いだったのか?
龍児は腹立たしさを感じると再び唇を噛みしめ、血が滲みだした。
部屋の中は球場ドームのようになっている。辺り一面は芝で緩やかな斜面に沿って階段が中心へと続いていた。
球場に例えて客席に相当する位置から続くその階段を進むと、徐々に辺りから装置の駆動音が鈍く響き渡ってくる。
美紀は音の出所を探ると辺りをキョロキョロとすると見覚えのあるものを発見する。
「ねえ、あれって学校の回りにあったチューブじゃない?」
彼女の指し示した先は円形状となっている部屋の天井隅だ。そこにはこの世界に転送された際に教室の回りを取り囲んでいた金属チューブと同じものが部屋全体を取り囲んでいた。
教室を囲んでいたチューブは爆発したような痕跡があったが、ここにあるチューブは壊れておらず綺麗な状態で新品のようである。
「あのときのが転送装置だったんだね」
「じゃあ、さっきから見えている部屋の中央に並んでいるのは、あのときの石柱?」
葵は転送された教室の周りを囲んでいたチューブの手前に石柱が均等に並んでいたのを覚えていた。
だがここの石柱は部屋の中央でストーンヘンジのように狭い間隔で並んでおり、教室で見たものより狭い。
皆の疑問に刀夜が答えた。
「天井の装置は地球へと繋ぐ通路を開くための鍵となるものだ。それを魔法で強化して通路を開く。石柱に見えるものは巨大な魔石で帝国文字で何の魔術が発動するのかメモ書きされている。施されている魔法は開いた通路から俺達を無事に運ぶ空間を作り出すものだ。通路は生身では生きてゆけない空間だからな。教室が丸くくり抜かれたようになっていたのが保護空間の跡だ」
「刀夜くん、あなたはもう何もかも知っているのね」
その言葉には由美が嫌みを込めていた。あまりにも自分勝手に動いたあげく、多くの情報を得ているにも関わらずそれを報告しないことに腹をたてている。
由美は話してくれればもっと皆で強力できるはずだと思っていた。だが肝心の情報を握っている刀夜は、情報を集めるにしても実行するにしても仲間には頼ろうとはしなかった。
「無事に帰還できたらすべてを話してもらうわよ……」
「…………」
由美はジロリと刀夜に冷たい視線を送った。由美は刀夜がまだ何かを隠していると睨んでいた。
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