第413話 役者集結

「こ、これは?」


 緊張感漂う龍児と刀夜の雰囲気に拓真はまた喧嘩しているのかと呆れかえる。


「拓真!」


 龍児が拓真に声をかける。彼に背負われている男の様態が気になったからだ。


「颯太!」


 颯太は拓真に背負われた状態でだらんとしており、ちゃんと生きているのかと不安に駆られた。


 そんな龍児の声が届いたのか、颯太はゆっくりと頭を持ち上げて辛そうな顔を向けた。気丈にも指を持ち上げて大丈夫だとばかりにピースサインを送ってくる。


 とりあえず生きていた。その事に龍児は安堵はした。だが颯太は一人では身動きがまだできないようで本当に大丈夫なのかと心配は尽きない。


 拓真が治癒魔法を彼に施したが懸念していたとおり颯太は内臓をやられており、依然として容態は芳しくない。


 拓真は彼を背負ったまま龍児の元へと近寄る。その後を舞衣、由美、晴樹、梨沙、葵、そして美紀と彼女と手を繋いでいるエイミーがついて行く。


 エイミーはリリアを見つけると表示を明るくして彼女の元に駆け寄った。


「ママーっ!」


「エイミー」


 駆けつけてくる彼女をリリアは屈んで迎えると、エイミーはリリア首元に抱きつく。自分の頬をリリアの頬に何度も擦りつける。まるで相手の存在確かめるかのように。


 二人が離ればなれになったのは僅かな時間だが、連れ去られたとあってはエイミーにとっては不安で仕方がなかった。


「刀夜!」

「刀夜くん」


 晴樹と舞衣は丘の上に立っている刀夜に声をかけた。


 危険な帝都に向かったまま一ヶ月以上も音沙汰なしでは何かあったのではないかと心配になるのは当然である。連絡の一つくらいよこしてくれても良いではないかと文句を言いたい気分だ。


「全員無事にたどりつけて何よりだ……」


「若干一名死にかけがいるけどね」


 晴樹は眉を潜めて無念さを露にした。できることなら全員、五体満足でここへきたかった。


「刀夜くん、そちらの人は?」


 ずいっと晴樹の前にでた由美はボドルドに冷たい視線を向けながら訪ねる。その相手が誰なのか、おおよそは察しているが念のため尋ねたのだ。


「こちらが世界の破壊者にして皆の嫌われ者のボドルド氏だ」


「酷い紹介じゃの……」


「あんたのせいで皆が酷い目にあったんだ。当然だ」


「そうだ!! 分かってんならそこをどけ!」


 龍児が再び剣先をボドルドのほうに向けるが、剣は重すぎて地面を引きずるようにしてするのが精一杯である。


「龍児、もう時間がないといっているだろう。お前一人の自尊心のために皆の帰還チャンスをふいにする気か?」


「一人だと?」


 龍児はその言葉にはっとして拓真たちへと視線を向ける。皆は困惑した顔を向けているか、視線を合わせないよう顔を反らてしまった。


 誰も分かっているのだ。龍児の気持ちも理解できるし、帰りたい気持ちもある。だがその両方を選ぶことはできはしない。むしろ選択肢は無いも同然である。


 ボドルドを敵にまわすようなことをすれば帰れなくなるだろう。悔しくはあるが最優先すべきは刀夜のいうとおり帰還を選ぶのは正しい。


「……くそっ!」


 龍児は以前に工場にて一度、帰還について刀夜に説得されたものの、元凶を目の前にするとどうにも我慢ならなかった。


 龍児の脳裏には智恵美先生と咲那の死の姿がいまだちらついて離れていない。


 イラつく龍児の背後からまたもや木の軋む音がした。音の元は龍児とリリアが入ってきた扉であり、誰かが部屋に入ってきた。


 全員が注目する中、部屋に入ってきたのは老人と女の子の魔法使いの二人組……マウロウとティレスだ。


 ティレスはマウロウからの治療を受けて折れていた足は元に戻っており、普通に歩るけるようになっていた。治癒魔法と異なって痛みも伴っていない。


 あれほど重傷だったはずの彼女の怪我は完璧に元に戻っていることにリリアは脅かされる。マウロウからはなんとかなるといっていたが一般的な治癒魔法では、たとえ直せたとしてもこのような短時間では無理な怪我だったはずである。


「ティレスちゃん足!」


「……もう何ともないよ」


「……良かった」


 リリアは今にも泣きそうな顔を見せるとティレスは恥ずかしそうに顔を背けた。正直いってもうダメだと諦めていた自分が今ごろになって恥ずかしく思えてきたからだ。


「ど、どうしてここに師匠が?」


 困惑の声を張り上げたのは拓真だ。マウロウ師匠は用事があるからといって出かけていたはずである。なのに……よりにもよって彼はボドルドの拠点に現れのだ。


「どうしてここにいるのですか?」


「…………すまぬ」


 返ってきた答えは説明にはなっていなかった。何に対して謝っているのだろうか?


 困惑する拓真、それ以上答えようとしないマウロウに変わって刀夜が答えた。


「拓真、奴も俺たちをこの世界につれてきた張本人の一人だ」


「ええっ!?」


 拓真は驚きのあまり、空いた口が塞がらない。彼の知っている範囲では自分たちをこの世界に連れてきたのはボドルド個人だと思っていた。


 それはそれで間違ってはいないのだが彼は単独犯行と思っていたし、そもそも師匠も絡んでいたなどと信じがたい話だ。


「ここにある装置だけでは転送は不可能だ。複数からなる魔法を駆使してようやく転送が可能となる。とりわけマウロウそいつしか使えない魔法は転移の要となる」


 刀夜のいうことが正しいのであればマウロウもボドルドと同じ400年前にこの世界にきた地球人ということになる。


 ――ずっと騙され続けたのだろうか?


 だがこの人に助けられたことも、ずっと世話になってきたことも確かだ。拓真がその期間中、マウロウからはそのような素振りも話もなかった。


 師匠が何を考えているのか拓真には分からなくなってしまった。

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