第410話 ラストバトル
長い通路に二人の駆け足の音が鳴り響く。
通路の天井は高くて広い。
等間隔で並ぶ石柱や壁、床、天井には豪華な装飾が施されていた。
龍児とリリアはいつの間にか洞窟から再び人工的な通路へと躍り出ていた。薄暗い通路はヒンヤリとしていてそれが肌に突き刺さってくる。
「畜生。刀夜のヤツ、地図のスケールとかちゃんと描けよな。本当に最短なのかよ!」
先頭を走っていた龍児はずっと感じていた
約束の時間までまだ余裕があると思っていたが、時計もなければ太陽も見えない地中では時間の感覚が掴めない。
分かっているのは先ほどから腹が何度も鳴っている。もうお昼を過ぎたかもしれない。約束の時間は2時までなので急がないと間に合わなくなってしまう。
龍児はいささか焦りを感じ始めていた。
龍児の後ろから桜色の髪をなびかせるリリアが置いていかれまいとついてゆく。
少し丸めの顔立ちに添えられた小さな唇から甘い息を切らせて。まるで捨てられた子猫のように不安を抱きつつも、彼女のつぶらな瞳は前を走る男のさらに先を見つめている。
長い通路を抜けると大きなドーム状の広間へと出た。そこはまるで観客席のないコロッセオのような部屋のようだ。
刀夜の地図によればここがバツ印が描かれていた場所のはずだ。そしてバツ印の意味を二人はすぐに悟った。
「おいおい、自分の屋敷にこんなモン置くかよフツー」
部屋の奥には隣部屋への扉があり、その手前に黒い
それはあたかも獲物が来るのを待ち構えていたかのようだ。うつむいていた巨人兵は龍児達に気が付くとゆっくりと顔を上げてフェイスガードの奥の目を赤く光らせた。
巨人兵は床から剣を抜くと、まるで相手はお前だと言わんばかりに剣先を龍児に向けて攻撃の体勢へと入る。
「殺る気まんまんじゃねーか。仕方ねぇ、リリア頼む!」
この部屋の守護者たる巨人兵との戦闘は避けられない。
リリアは龍児に言われるまでもなく杖を構えて詠唱に入っていた。彼らには時間がないため、ここで足止めを喰らうわけにはいかない。
「こっちもヤル気十分かよ……」
リリアは龍児への返事の代わりとばかりに呪文を口にした。
「かの者の肉体にマナよ集え、血へと、肉へと転成し力となりて神々の祝福を授けん。デバィンボディ!」
龍児の体から黄金の粒子が放たれ輝く。全身に力がみなぎるのを感じとると彼は背中の剣を抜いた。本来なら両手で持つべき重たい剣も身体強化の魔法により軽々と片手で扱えるようになる。
リリアは続けて龍児に強化呪文の詠唱に入った。
「かの者の理への
龍児の体にさらに魔力が宿り目から赤い光を放つ。脳の処理能力を加速されて、あらゆるものをスローのように感じさせる。
巨人兵は特大の剣を二人に向けて
加速された龍児にとって巨人の
巨人のもつ武器は魔法の力を有している。何度か対戦した経験上、衝撃波で体勢を崩されると間違いなく巨人はそこを狙ってくる。
龍児はすばやい動きで衝撃波の発生しない手元へと潜り込むと頭上を巨人の腕が
「オラアァァァアッ!!」
気合を入れて魔法剣を振りかざすと剣先から炎が吹き上がる。その剣で龍児は巨人の足を狙う。巨人はその身長ゆえ一歩前、一歩下がるだけでも大きな距離を取られる。それは小さな人間からすれば厄介な代物なので封じる必要があった。
剣の炎は巨人の魔法鎧から放つ絶対物理障壁に干渉すると四散する。と、同時にガラスが割れるかのように障壁は耐久の限界を越えて砕け散った。
龍児の剣は巨人の
返す刃で剥き出しになった足を斬りつける。
肉の感触はなく、いきなり骨に当たる衝撃が龍児の腕を走る。だが龍児はお構いなしに力任せに振り切った。
巨人の骨を打ち砕くと同時に剣の炎が吹き出して傷口を焦がす。
足の骨を打ち砕かれて、体を支えきれなくなった巨人兵は崩れて地に手をついた。尻餅をつくと同時に部屋に激しい振動を引き起こす。
調子を上げた龍児は次々と手慣れた様子で厄介な巨人の鎧を潰して剥がしにかかった。地についた手を破壊し、落ちた腰を砕くとついに巨人の肉体は横に倒れた。
倒れた巨人に龍児は
巨人の体を足場にして跳躍すると宙を舞った兜ごと地面に
経験上、巨人との戦いにおいて時間をかけるのは危険きわまりないことを龍児はよく知っている。加えて強化魔法にはタイムリミットがある。
そして殺るときは徹底的に破壊しなければならない。でなければ思わぬ逆襲を喰らうこともよく知っている。それは初めて対戦したときの苦い経験だ。
魔法効果が切れると龍児はさすがに疲れたのか肩で息を切らせた。
「龍児様、大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だ」
心配するリリアに龍児は親指を立ててみせる。
「それにしても凄いですね。あの巨人兵をこうも簡単に倒してしまわれるなんて……」
リリアは巨人兵の頭を杖で突っつき、魔力が完全に失われたのを確認した。巨人兵はまるで凶暴な竜巻にでも巻き込まれたかのように無数の傷を負ってぼろ雑巾のように変わり果てて横たわっている。
「ふん、この武器とリリアの援護のお陰だ」
「ご謙遜なさらなくとも龍児様の戦いぶりを見れば、そうでは無いことは一目瞭然ですよ」
リリアは龍児の戦いぶりを称賛しつつもその表情は不安げであった。それは彼女の心はここに無く焦っていた為である。
「ふふ、おだてるな」
そう言いつつも龍児の顔は自慢気だ。
「さっさと先へ進もうぜ」
龍児の言葉にリリアは
巨人が座り込んでいた場所の奥には大きな扉があり、二人はその扉の前に立った。
龍児の身長の2倍ほどあろうか、両開きの扉はこれまで通ってきた鋼鉄の扉と異なってる。木製の扉は青銅色の唐草模様と金色の唐草模様が混じりあって溶け込むような豪華な装飾が施されている。
龍児がノブの無い扉に近づいて片手で軽く触れると、扉は木が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます