第405話 ティレスのみた悪夢2
半年後、彼女たちはこの大陸における辺境の地の街で商品として出されることになる。ティレスやアンリのように若い娘の行く先はリリアと同じ運命だ。
鎖に繋がれて裸同然の姿で競り会場に立たされ、嫌悪感しか抱かないような輩の視線に晒された。
ティレスとアンリが最も不幸だったのは彼女達がプラプティの出身だということがバレて魔法が使えるということを知られてしまったことだ。
その為、魔術ギルドの影響力の弱い辺境の地の街で売られてしまったのだ。
プラプティ出身の者はその街の特性上、程度の差はあれどマナの影響により、魔法使いとしての資質を全員が持っている。
殆どの者が聖堂院に通うため簡単な魔法が使え、その中でも貴重なのは回復魔法が使える者達である。つまり奴隷としては使用用途が広く、若い娘としてその方面で使うのであればかなり乱暴な使い方もできるということだ。
「ふふふ、今回は上玉揃いではないか」
二人は一人の金持ちの商人に競り落とされた。不必要にごてごてと金銀財宝のアクセサリーを身に着けて醜くブクブクと太った容姿。金と権力と色事に溺れたような性格を絵にしたような年配の男。
だが、たった一人の男が二人も性奴隷を買うようなことは異例である。大抵は他の客とトラブルとならないよう一人を買った時点で降りるのがセオリーだ。
だがこの男は躊躇なく彼女達を買った。それはつまりこの男にとって他の者と協調する必要性がないことを示す。
他のものを寄せ付けない圧倒的な権力をもつ闇の商人。それがこの男の正体なのだ。
彼はこの街では最も強力な力を持っているが、表には出てこずに裏から議会や自警団の中枢を握って動かしている。そのため誰も逆らえないでいた。
以来、二人は去勢を受けて主人の相手ばかりか彼のもつコネクションの相手までさせられた。議員など権力者は立場上そのような奴隷を手にするのは良くないため、商人が遊び場を提供していたのだ。
無論それは見返りとして便宜を計らってもらうためであるが、実態はこの商人に逆らえないでいる。また商人にとっては相手の弱味を増やす目的もあるが、連中の中にはもう開き直っているものも少なくはない。
そのような輩を相手に乱暴な扱いを受けても回復魔法があるので傷は直ぐに癒える。二人はそんな酷い扱いを受けた。
「そんな……」
リリアは二人の境遇に涙した。自分を競り落とそうとしたカリウスも酷いほうだと思っていたが、二人の主人は自身の権力道具として扱うなど最悪である。
少なくともカリウスは自分が楽しみたいだけの男であった。とは言え、持っている権力が違うだけで買っている時点で同類ではあるが。
二人と大きく異なるのは自分は刀夜に助けられたということだ。マリュークスによって作られた巡り合わせだったとしても彼との出会いはリリアにとって幸運であった。
リリアはそんな自分に後ろめたさを感じた。二人と違って自分だけが難を逃れてしまっていることになる。そう思うとティレスの顔をまともには見れなくなった。
「ごめんなさい……」
「何で謝るのよ?」
「……二人に比べれば私は……」
その先は答えれなかった、強い視線でまっすぐ見つめてくるティレスはまるで怒っているかのように見えた。
「何よ……リリアがボク達と同じ目にあわずに済んだのはいいことじゃいか」
「ティレスちゃん……」
「あんな目にあうのはボク達だけで十分だ」
ティレスはリリアのことを妬んではいなかった。例え、言葉使いが変わったとしてもティレスはティレスのままだとリリアはそう思いこんだ。
だが……ティレスの表情は重く険しくなった。
「そう、もうあんな思いをするのはボク達だけで十分だ。だから世界を変えなきゃいけないんだ!」
リリアはティレスの言葉に青ざめる。
「ダメ、そんなのダメだよ……」
そんなことをすればティレスは世界中から、いや人類の敵として見られてしまう。すでにボドルドの弟子という位置づけで見られているのだ。
「何でそんなこというのよ!」
「そんなことしたら取り返しのつかないことになっちゃうよ」
「リリア、あんたはアンリの最後を知らないからそんなことを言えるんだよ」
「……アンリ……ちゃん?」
「アンリはね……」
アンリはそのような境遇に耐えられず精神を病でしまった。呆然とする彼女の目の光は失われて独り言をいうようになった。さらに悪くなると徘徊するようにもなった。
そんな彼女の不幸は時折元に戻ってしまうことだ。彼女は心が元に戻るたびに自分のおかれた境遇に耐えられず泣き、喚き、悲鳴を上げた。
取り乱す彼女にティレスはしがみついて彼女の衝動が収まるまで耐えた。そのような彼女を見ていると正直いって壊れたままのほうが楽だったのかも知れないとさえ思える。
ある日、ベッドの上でティレスが目を覚ますと隣で一緒に寝ていたはずのアンリの姿がなかった。
「アンリ……?」
寝ぼけ眼を擦りながらティレスはアンリを探した。上半身を起こして振り返ったとき、ティレスの瞳に映っていたのは、宙に浮いていた素足だった。
ティレスの裸体にどっと冷や汗が流れる。頭かから血の気を失って眩冒を起こしそうになった。
彼女はゆっくりと心の中で「ありえない。ありえない」と何度も唱えながら、視線を上げて足の主を確認した。
――彼女は天井から首を吊っていた……
「いやあああああっ!!」
このときティレスの中で殺意が芽生えた。
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