第395話 マリュークスの襲撃

 広い洞窟内に銃声がいくつも轟く。激しい銃撃戦による硝煙が充満して衣服に染みついた。


 人工的な通路は途中から鍾乳石を含む洞窟へと変わり、龍児達は通路よりさらに広い空間へと躍り出ていた。


 辺りには水晶のようなものが淡く輝いてるため通路同様に周囲が照らされている。


 しかし舗装されていた通路と異なり、足場は悪く道幅は広いとはいえない。その道を踏み外せば崖となっていた。


 崖の底は4、5メートルほどなので落ちても死ぬことはないだろうが、そこから這い上がるのは骨が折れそうな斜面となっている。


 龍児達はガーディアンに追われつつも洞窟を進んでゆく。刀夜の作った拳銃はその威力を発揮してガーディアンを寄せ付けない。ガーディアンの強固な甲殻ですら弾丸は貫通してくれる。


 しかしガーディアンは一発や二発程度では怯むことがないので何発も撃ち込まなくてはならず、リボルバーだけでは敵の数を抑えきれない。


「クソ! なんだってんだよ。わらわらとキリがねぇよ」


「ぼやくなよ」


「まだショットガンで対処できるから俺たちはマシだよ」


 ここまでこれたのは対モンスター用の弾丸を使用したショットガンがあったためだ。これならばほぼ一撃で倒すことが可能である。


「自警団の人達大丈夫かしら?」


「追いつかれても困るけど」


 通路に大量に沸いたガーディアンは途中までは追っかけてきたものの洞窟に入ってからは徐々にその数を減らしている。


 このまま行けばなんとか振り切れる。そう確信したときリリアは唐突に嫌な悪寒に襲われて振り向いた。


 ガーディアン達のさらに後方から呪文の詠唱が聞こえたような気がする。立ち止まり、耳を研ぎ澄ませば誰かが呪文を唱えている。


 聞いたこともない長い呪文のフレーズに嫌な予感はさらに高まった。


「プロテクションウォール!!」


 リリアは杖をかざして仲間とガーディアンの間に魔法防壁を築いた。その瞬間、激しく光る雷球がガーディアンの背後を襲う。


 雷球はガーディアンの間を通り抜けてプロテクションウォールに激突すると魔法壁を砕いて破裂した。


 鼓膜が破れるかと思われた音と衝撃。爆発と同時に放たれた高電圧の雷撃は魔法壁に近いガーディアン達に直撃してバタバタと倒れた。


「な、なんだ!?」


 放たれた雷球は龍児たちを狙ったものだ。リリアの機転で直撃は避けられた……と皆がそう思い込んだ。


 だが咄嗟に展開したプロテクションウォールは11名を防御できるほど大きくはない。一番端にいた颯太は漏れた雷撃の直撃を受けしまった。


 全身に雷を受けたかのような衝撃に見舞われた颯太は意識を失って白目を剥く。ゆらりと体が揺れると彼は崖側へと倒れようとふらついた。


「颯太ァ!!」


 すぐに気がついた龍児が手を伸ばしたが離れいた彼が間に合うハズもなく颯太は洞窟の崖下へと滑り落ちてゆく。


 颯太が滑り落ちて行く崖は斜面となっており、下に岩などは無いが意識を失っている颯太は受け身を取れず全身を打ち付けた。


 すぐに治療しなくては彼の命が危険であることには違いない。


「リリア! 颯太の治療を!」


 龍児はリリアに助けを求めて振り向くとリリアは辛そうな表情で杖にもたれかかり、立っているのがやっとといった状態となっている。


 その様子に龍児は一体何が起きたのかと唖然とする。リリアの目は半分閉じており、今にも意識を失いかけていた。


「に、逃げて下さい……」


 リリアが意識を失って倒れようとしたとき、彼女の後ろに空から何者かが舞い降りてリリアを抱き抱えた。その者はリリアの腕を自分の肩で担ぎ、腰に手を回して彼女を支える。


 リリアは完全に意識を失うと全身の力を失い、手にしていた杖を床に落とした。


 そのようなリリアを抱き抱えていたのはティレスだ。彼女は不適な笑みを龍児たちに投げかける。


「マリュークスは君たちに任せたよ。代わりにボクはリリアを頂いてゆくよ」


「なんだと!? リリア!」


 龍児が呼べど当のリリアは意識を失ったままだ。


「無駄無駄。抵抗されたら面倒だからね。リリアには寝てもらったよ」


 リリアにスリープの魔法を施したのは彼女である。背後から隙をつかれたため、リリアは抵抗することもできなかった。


「お前、なんのつもりだ!」


 怒り心頭の龍児ではあったが、ティレスは余裕の表情で答える。


「こっちを気にしてていいのかな? ほら奴がくるよ?」


 龍児が振り返ってみれば立ち上がる土煙の向こうには白いローブを纏う魔術師マリュークスが立っている。


「ふふふ……ようやく追い付いたわ……丁度よい。皆揃っておるではないか」


 マリュークスは勝ち誇ったかのような目を龍児達に向けた。彼にとってこれは非常に好都合な状況である。


 最もマリュークスにしてみればこれはある程度狙ったものである。世界崩壊のキーマンである彼ら一同が会するこの機会を虎視眈々と狙っていたのだ。


「これで奴の所までいかずとも念願が達成できるというもの。手間が省けたわ」


 龍児に冷や汗が流れた。もしここでマリュークスにやられれば彼の思惑どおり世界が崩壊する可能性がある。なにがなんでも皆を守らなければならないと必死に思考を巡らせた。


 鍾乳石に隠れても先程の魔法の威力から逃げるのは難しいだろう。もし勝機があるとすれば詠唱よりも早く奴を攻撃することだがあまりにも距離がありすぎた。


 龍児があれこれ考えていると背後から突風が吹いた。振り返ると先程までいたリリアとティレスが姿を消しており、彼女の杖だけが落ちていた。


 上から気配を感じ取った龍児は見上げるとティレスがリリアを抱えて空を飛んでいる。


「ばああーい」


 ティレスは龍児達を挑発するかのように笑みを浮かべて脇道へとふらふらと飛んでゆく。リリアを担いでいるので飛ぶのが難しいのだろう。不安定に飛ぶその姿はやや滑稽ではあるが、事態は笑える状況などではない。


 ティレスが逃げた先は龍児達が向かおうとしていた道とは異なり、それは3つある内のもう1つルートへと繋がる道だ。


 一番最短ルートではあるが刀夜の書いた地図によれば途中に丸い部屋があり、赤くバツ印が入っている。明らかに通るなと言っているようなものだ。


 だがリリアを抱えたティレスはその方向へと飛んでいってしまった。

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