第394話 ガーディアン

 マリュークスを筆頭に地下へと雪崩こんだ自警団。マリュークスは本当に400歳を超える老人なのかと疑いたくなるほど若々しい動きを見せた。


 自警団の中でも未だに彼が伝説の大賢者マリュークスだと信じていない者は多い。確かに博識な知識、そして魔術ギルドの魔術師すら驚かせた古代魔法は大賢者の名にふさわしいものであった。


 そして彼が400年以上も生きてきた理由として魔法石を見せつけたことによりようやく信じる者がでた。というより信じたかったといったほうがよい。


 彼と同じく伝説の人物である世界を滅ぼしたボドルドが生きているのだ。彼を崇拝する教団の撲滅だけでもあれだけの被害を被った。


 帝国を滅ぼすほどの相手と直接対決するとなればまた大きな被害を受けるかも知れない。だからといって放置もできない。


 ゆえにマリュークスならボドルドに対抗できると、力のある者にしがみつきたくなるのは仕方のないことなのかも知れない。


 だが、そんな彼の心は壊れており、世界の滅亡を望んでいることを知らずに手を貸してたなどと、後に振り返ったときに滑稽であったと揶揄されるだろう。


 ――ビーッ! ビーッ!


 突如警報音が通路中に鳴り響いた。まさしくそれは侵入者に対する警告である。


 自警団の面々が何ごとかと立ち止まり、音の出所を探すものの音はどこから鳴っているなかさっぱり分からない。この広い通路では音が反響して至るところから聞こえてくるように思えた。


 なにか恐ろしいことが起こりそうだ。団員達の間に言い知れぬ不安と恐怖が走ると冷や汗が流れる。


 やがて音は静まるとガコッと何かが外れるような音が聞こえてきた。廊下の両側の壁がすうっと消えるとその奥は漆黒の闇だ。


 その中からガシャリガシャリと複数の金属音が聞こえてくる。


「全員、抜刀!!」


 自警団の団長であるジョンから命令が発せられた。各々武器を構えて通路の左右を警戒する。


 やがて闇の中から鎧のモンスターがゾロゾロと姿を表した。


 だが漆黒の鎧かと思われたそれは甲冑などではなく、まるで昆虫のような甲殻である。いかにも固そうなそれを全身に覆っているが、モンスターは剣や斧などの武具も装備しており、それらが金属音を奏でていた。


 堅そうな甲殻の隙間からは黒い毛が生えており、顔はゴリラのような面構えをしている。


 特徴でいえば岩のようなモンスター、ゴルゾンと同系統のようにも見える。だがゴルゾンはいかにも岩といった感じであるがこの漆黒のモンスターはどちらかといえば鎧を装着した猿人である。


 2メートルもある身長に明らかに人間が作ったものと思われる剣などの武器を所有されてはその威圧感に驚異を感じ得ずにはいられなかった。


「魔術師を中心に左右に防御陣を展開! 各隊長の指示のもと対応せよ! 魔術師は防御壁展開!!」


 驚異を感じつつも訓練されたとおりに命令が実行されゆく。シールド持ちが壁となって一列に展開されると、モンスターが雄叫びを上げて襲いかかってきた。


 その速度は明らかにゴルゾンよりも早く、あっという間に距離を詰められた。降りかざされた武器を盾で受けるとあまりの重さに体が吹き飛ばされそうになる。


 モンスターが使用している武器は自警団や傭兵達の間で使われているものと同じである。にも関わらずそれ以上の威力を発揮しているということはこのモンスターのパワーが見た目どおり人間以上ということだ。


 一対一で戦ってはいけない!


 攻撃を受けた側も、その後ろで攻撃を構えていた者もとっさにそう感じた。


 後衛のクロスボウガンを構えていた兵がシールダー達の間から矢を放った。だが矢は分厚く硬い表皮に矢じりが少し刺さるだけでダメージとなり得ない。


 即座に矢はダメだと判断した者は近接武器に変える。だが腕に覚えのある者はそれを見て硬い表皮ない顔を狙うと、矢は見事顔を貫いて大ダメージを与えた。


 しかし激しく動き回るモンスターの顔を狙うのは弓の腕に覚えがあるものでも難しく、ほとんどの者は近接武器へと切り替えて戦場は乱戦と移り変わってゆく……


◇◇◇◇◇


「あれがガーディアンか」


 自警団の戦いの様子を伺っていた刀夜が呟いた。罠が発動するとモンスターがでるとはきいていたがどのようなモンスターがでてくるなかまでは知らなかった。


 見た感じ岩モンスターのゴルゾンと黒い獣アーグを掛け合わせたようなモンスターだ。刀夜は一目で厄介だと感じ、それを相手にしなくてはならない自警団に憐みを感じた。


「見たところ制御できるモンスターがいないようだが……」


 モンスターをコントロールするにはその能力を持ったモンスターと人を融合させた合成獣が必要なのだがそのモンスターが見当たらなかった。


「ガーディアンは同一種のモンスターだけで構成されておるからの。あれはテリトリーを犯す別種に対して攻撃するモンスターじゃ。ゆえにこのような防御戦であれば制御は不要じゃ。最も連中を元の場所に戻すには制御が必要じゃが……」


「使い捨てならそれも不要というわけか」


 刀夜は戦況を確認するがある違和感に気がつく。


「ん? いない……マリュークスが見当たらないぞ」


 マリュークスは先程まで先頭を歩いて自警団を引率していはずがモンスターの出現と同時に姿を眩ませていた。


「奴ならどさくさに紛れてすでに離脱しておるわ……」


「まさか龍児たちのほうに向かったのか!?」


 龍児たちは銃を持っているとはいえ魔法と遠距離戦なった場合、分が悪いのは銃のほうであった。その事を一番よく知っているのは作った本人である刀夜自身だ。


 なんと言っても射程と命中率が決定的に違う。ショットガンのように数で勝負するにしても、弾丸というモノは基本的には真っ直ぐしか飛ばない。


 対して魔法には範囲攻撃ができるものがある。さらに魔法によっては岩影に隠れて攻撃することも可能なものもあるのだ。


 そしてリリアは攻撃魔法を持ち合わせてはいない。

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