第393話 トラップ作動
「ほぉ……刀夜よ、連中が着たようじゃぞ」
姿鏡を覗いていたボドルドが嬉しそうにして刀夜に声をかけた。
作業をしていた刀夜は潜っていた装置から這い出てきて油まみれの手袋を脱ぎ去った。そしてボドルドが見ている姿鏡に映る仲間を確認した。だがその中にリリアとエイミィの姿を確認すると刀夜は眉を潜める。
「龍児たちならやってくれるさ……」
「ほう、信頼しておるのか?」
「由美がついているからな……」
刀夜の信頼度で一番高いのは由美である。思慮深くきっちりしている性格の彼女はこういった約束や時間厳守といったことに非常にうるさい。だがそんな刀夜にボドルドは疑わしい目を向けた。
本当は龍児を信用しているくせに口にできないのだと、これが彼のテレ隠しなのではと勘ぐる。
「ツンデレめ……」ぼそりと呟く。
「そんなことより、あんたの指示が無ければ作業ができないのだが、次はどうしたらいいんだ?」
刀夜はボドルドの指示のもと、転送装置の最終準備をしていた。本来ならば教団の連中がやるべきことなのだが壊滅してしまったため代わりに刀夜がメンテナンスを行っていた。
転送装置自体はすでに完成してはいたが、この日の為にずっとここに保管されていた。長年放置されていたためホコリを除去したり駆動部分にオイルを差し込んだりとメンテナンスが必要なのである。
「龍児たちはともかくやっかいなお客もきとるぞ」
「なに?」
刀夜がもうひとつの姿鏡を覗くとそこには館の外で自警団の連中が集結していた。まだ館を取り囲む形たが龍児達の馬車を不振がっている様子だった。
「あれほど連中を連れてくるなと言ったのに……」
刀夜はあきれ果てた。
「龍児達のせいではない。マリュークスの差し金じゃ」
ボドルドは姿鏡に映り込んだ魔術師の姿をした老人を指差した。
「くそっ! 何がなんでもこの世界を潰すつもりか! 自警団まで使いやがって…… 自暴自棄になるなら勝手に一人で死ねばいいだろうが!」
「元々は責任感の強い男であったからな……哀れと言えば哀れじゃ」
マリュークスは元々この世界の住人であった帝国人を滅ぼしてしまったことをずっと後悔していた。正直そこまでするつもりなど無く、どこかで休戦して別々に生きる道をと期待していた。だが勢いにのったボドルドの軍勢はその勢いで帝国人を滅ぼしてしまった。
この世界は地球人のごく数名だけとなってしまうと、地上には無残な戦争の跡だけが残るのみとなった。罪滅ぼしのつもりで地球に帰る派の連中を使い、クローンを量産してこの地に人類を残した。
マリュークスは一つの種を滅ぼした代わりに新しい種を繁栄させることで罪を償うつもりになっていた。だがそれで彼の罪の意識から救われるわけではない。
結局彼は自分のやっていることに違和感を感じ始め、隠そうした罪の意識に押しつぶされてしまう結果となった。そして自暴自棄となった彼の下した結論はすべてを消し去ること。
「まぁ奴を逃がしてしまった時点でこうなることは予想できたことだ」
マリュークスの目的はこの世界の消滅には3つの方法のどれかを達成すれば良い。
一つ目はボドルドの殺害。帝国の一件があるので彼が狙っているのはこれが一番有力候補だ。
二つ目はここの転送装置の破壊。
三つ目はキーパーソンとなるクラスメイト、その人物の殺害もしくは帰還の阻止である。
つまり刀夜達が元の世界に帰ることを妨害できればマリュークスの勝ちとなる。どれか一つを失えばこの世界が崩壊する『可能性』が生れてくる。
だが実際にこの世界が崩壊するかは机上の空論であり誰にも分からないことである。ゆえに刀夜としては身を隠しているマリュークスからボドルドと装置を守る必要があった。
「龍児達は?」
「まだ地下通路の……洞窟より手前あたりじゃな」
「まだそんな所なのか」
もう一つの姿鏡で龍児達の位置を確認した。だがその間に自警団はマリュークスを筆頭に館に入ると、まったく迷いもなく直行しているあたり、彼はこの地下のことを知っていたのだと刀夜は感じた。
「くそ、当然か」
それはある程度予測できていた。ボドルドが何かと先の出来事を知っているのと同様に彼もきっとこの先に何が起きるのか知っているのだ。
マリュークスはゾロゾロと自警団を引き連れて通路を進んでくる。
「お前たちの転送が終わるまで奴らをここに近づけるわけにはいかん」
「おい! まだ龍児達はトラップゾーンを抜けていないんだぞ! ここで罠を発動して死んだらマリュークスの思うツボじゃないのか?」
「だが装置を破壊されたら終わりじゃ。装置は大きいゆえ防御するのは不可能じゃ。なんとしても時間かせぎしなくてはならん。それにモンスターへの対抗手段は持っておるのだろ?」
晴樹が刀夜の話を覚えていてくれたのなら彼らは銃を所持しているはずである。トラップで出没するガーディアンと呼ばれるモンスターならば銃で十分対応可能だ。
ただガーディアンの数は非常に多いため晴樹達は全員で対処しなくてはならない。刀夜組の女子達はあまり殺し合いには慣れていないという懸念もある。
また相手が自警団やマリュークスとなってしまた場合、彼らに人と戦うことができるのだろうか。その意味では確かにボドルドの主張通り連中の足止めが必要である。だが……
「しかしいくら銃があったとしても龍児達の足止めにもなってしまうことには変わらんぞ」
「……やもえぬか……ティレスを護衛にまわそう」
だがその彼女を向かわせたとて不安は残る。彼女は何かとリリアに固執しており、現場でボドルドの命令通り動いてくれるかわかったものではない。
そして今回、そのリリアが付いてきてしまっているのだ。刀夜としては別れは済ませたつもりだし、彼女が暮らしてゆくだけのものは用意できていた。そしてこれ以上危険なことに関わってほしくなかったのだ。
「仕方がないのか……」
刀夜は無念そうに答えるとボドルドはトラップを作動させた。
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