第390話 リセボ村脱出
リセボ村方面へ繋がる東門にくるとその広場にはすでに自警団の馬車の一団が揃っていた。だが団員の数はまばらで出動までには時間がかかりそうだった。
龍児を含む自警団組は一応念のため荷物の影に隠れた。異世界組は自警団内でも特に顔が知られているので仕事をサボってここにいることを知られては厄介ごとになりかねないからだ。
門の守衛にてあたかもシュチトノへ商売に行く振りをして街を後にする。
リセボ村とシュチトノへの街道ではモンスターがでることはない。そこに至る街道に出現するモンスターは見つけたそばから退治されており、かつリセボ村が新たなモンスターの侵入を阻止するよう警戒を行っている。
龍児達は夕方にはそのリセボ村の門を潜った。そしてシュチトノと繋がっている門の近くに停泊して今日はここで野宿となる。
村の規模程度では宿の数は限られているため空き部屋がなかったのである。ただでさえ少ないところにシュチトノと往来している商人や傭兵部隊でほとんど埋められていた。
龍児と由美はこの村では有名人なため他のメンバーのように身動きができない。馬車の中で隠れるようにして外にでることはできなかった。
そして自警団の討伐隊が到着すると颯太と葵も表を歩くことはできなくなり、龍児達同様馬車内に引きこもることとなった。
「なぁ、龍児」
「なんだ颯太?」
「どうして俺たちスシュ村のある東門じゃなくてシュチトノ方面の南門で待機しているんだ?」
マリュークスの館はスシュ村へと通じる街道の途中から隠し道を通る必要がある。よって近いのは東門側のはずであった。
「東門は開くことがないからだ」
東門から向かう先はスシュ村と教団施設の2つしかない。どちらも教団と関連しているため一般の者がそちらへ向かう用事はない。
ゆえに門はほとんど閉ざされており、その方面に向かうとなれば怪しまれてしまう。
「それにこちらなら門は朝早くから開くからな。村をでたところで迂回してて館へと向かう」
「ふーん。なるほどね」
龍児の意見に納得する颯太だが今度は由美が疑問を抱いた。
「でも門をでたところで街道からそれるような行動を取れば怪しまれるわよ?」
そうなれば村の自警団に追われる羽目になりかねない。
「そんときゃ逃げればいい」
いかにも龍児らしい後先考えない考えだと由美は肩を落とした。
逃げればいいと言うがこちらは足の遅い馬車なのだ馬で追われたら逃げ切れないのではないかと。何かしら一計を案じなくてはならないのでないかと由美は頭をひねった。
やがて夜もふけてくると龍児達は明日に備えて早めに就寝につく。自警団の連中は酒を片手にまだ騒いでいた。
◇◇◇◇◇
夜明けの直前、龍児達は早めに起床する。ここで自警団と大きく差を空けなければ館の罠に巻き込まれる可能性がある。
朝日も昇らない内から馬車を移動させて南門へとやってくる。まだ門は閉まっているが守衛所には衛兵が待機しており、丁度夜勤組と交代したところであった。
「ご苦労様です」
舞衣が衛兵に声をかける。
「なんだ? えらく早いじゃないか」
「ええ、急いでいますので。開けてもらえますか?」
「ああ、いいぜ。ちょっと待ってな」
男は守衛室にいる仲間に手を上げて指示をした。ガラガラと音を立てて門が開く。規定時間より少し早いだけなので門番の男はとりわけ不振には思わなかった。それはシュチトノ攻略戦以来よくあることだった。
門が開くと舞衣はいくつかの食べ物を男に渡した。干し芋を独自に味付けしたものなのでこの世界の人には珍しい味付けで好評な代物だ。
「どうぞ皆で召し上がって下さい」
そういって手渡された食べ物の間に銀貨が数枚挟まれており、男がそれに気がつくと頬の筋肉を緩めた。
「悪いな。頂いておくぜ」
そういって男は守衛室へと向かう。同時に晴樹が馬に鞭を入れて馬車を走らせた。
馬車は街道をまっすぐ進む。龍児が荷台から顔を出して門から人影が消えたのを確認した。
「よし、今だ!」
晴樹は手綱を引っ張って馬の向きを替えた。数々の畑が広がる中で農道をガラガラと音を立てながら馬車を飛ばす。
「はっ! はっ!」
さらに鞭をいれて加速させた。空がしらみ始めて少し明るくなると農道ははっきりと見えてくるようになる。
「よーしよーし。奴ら気づいてないな」
龍児は再び後ろを振り返って変化がないことを確認した。
「うまくいったわね」
「さすが由美! ナイスだぜ」
颯太が由美を褒め称えた。差し入れ作戦は由美の発案だ。朝一番の交代は引き継ぎなどで非常に忙しい。加えて差し入れで門番を下がらせればノーマークとなるとふんだのだ。
「でもさぁ、門番が二人いたらどうするつもりだったの?」
葵の素朴な疑問だ。
「包みをもう一つ渡すだけよ」
「それでも部屋にもどらなかったら?」
「その時は……逃げるだけよ」
結局最後の手段は龍児と変わらなかったことに葵は腹を抱えて笑った。
「ともかくここまでくればこっちのものだ。晴樹、急いでくれよ」
「わかっているよ」
今日の2時までにボドルドの元にいかなくては彼らは帰る手だてが無くなってしまうのだ。たった一回こっきりのチャンスであると誰もが肝に命じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます