第387話 厄介ごと
「くそう! 厄介なことになった!」
刀夜の家で龍児が叫んだ。街が騒がしくなったと思えば雪がちらつき、何が起きたのかと龍児は様子を見に行った。そして帰ってくるなり彼は荒れたのだ。
「龍児君、一体何があったの?」
「マリュークスだ。マリュークスが現れてボドルドの居場所を教えた挙げ句に自警団を焚き付けやがった」
「焚き付けたって……まさか自警団が館に向かうってこと?」
「そうだ。これじゃあ館の罠が作動してしまう」
館の罠はモンスターが沸くタイプだと刀夜からは聞かされている。龍児達がボドルドの場所にたどり着く前に罠が作動すれば巻き添えをこうのは目に見えている。
モンスターとの戦闘は避けられなくなるし、もし自警団が龍児達の邪魔をするようであれば彼らとの戦いもあるかも知れないのだ。親しみ深い人達と剣を交えるのは御免被りたい。
「なぁ。別に罠が作動しても館に入っちまえば大丈夫なんじゃねーの? ボドルドもいるんだからよ」
颯太はリビングに腰かけてテーブルに肘を付きながら気楽そうに尋ねたがその疑問は事情を知らない他のメンバーも同じであった。だが実際はそんな簡単なことではない。
「そうじゃねぇ。館は単なる入り口でしかねぇんだよ。実際にボドルドがいる場所はもっと離れていているらしい」
「じゃあ罠はその間に仕かけてあるってこと?」
「刀夜の言い分ではそう考えるべきだろうな」
実際、そのとおりで転送装置は巨大なために館に置くのは不可能となっている。装置自体は湖畔の近くの浅い地下に存在しており、そこに行くためには館の入り口から地下道を通る必要があった。
「じゃあ戦闘になる可能性は大いにあるんだね……」
顎に手を当てて考え込んでいた晴樹が立ち上がる。
「ちょっと皆。こっちに来てくれるかい?」
晴樹は皆に手招きしながら工房の扉を開けた。皆はよく分からないまま言われたとおり晴樹に着いてゆく。
晴樹はさらに奥の扉を開けて倉庫へと入ると一番奥にある金庫へと向かった。金庫の扉は屈めば人が余裕で入れるほどの大きさがあり、中は四畳ほどある大きなものだ。
大きめのボタンを押してガチガチと機械音を立てながら晴樹は暗証番号を入力した。バルブのようなハンドルを回して重い扉を開けるとギイーと金属の擦れる嫌な音を立てた。
金庫の肉厚はかのりのもので簡単には穴を開けたりはできないだろう。
刀夜からは火薬を管理するための金庫であると皆には聞かされており、実際に火薬とその原材料が格納されている。だが晴樹が中から持ち出したのは長方形の形をした木箱だ。
木箱を作業台の上に置くとズシリと重そうな音を立てた。蓋をあけると皆が何なのかと覗きこむ。
そこにはリボルバー拳銃とショットガンが大量に整然と並んでいた。
「こ、これは……」
「拳銃!」
「こんなに沢山……」
晴樹はガサガサと音を立てて木箱に入っている拳銃を取り出す。リボルバーは8丁、ショットガンは3丁ある。
さらに新たに取り出した小さい木箱からは無数の弾丸やダイナマイトもどきが出てきた。
「あいつは戦争でもする気かよ!」
「まさか、いくら強力な兵器とはいえ一人で戦争はできないよ」
梨沙の驚きはもっともでこの世界で火薬兵器はあまりにも強力すぎる代物だ。
刀夜からも絶対に公言してはならないと口を酸っぱく言われていた。ゆえにこれ程数をそろえていたなどとは思いもよらなかった。
「これはこの世界で生き延びるため、またはこの世界から脱出する際の切り札として刀夜が用意しておいたものだよ。館に行くだけなら不要かと思ったけど、龍児の話からすればあったほうがいいだろう」
「ひゃほう。マジか。スゲェ」
このようなものに目がない颯太は早速飛びついてショットガンを手にした。
「お?」
それはズシリと重く颯太の予想をはるかに上回る重量であった。
「な、なんでこんなに重いんだ?」
「それは軽量素材が手に入らないからね。強度を考慮すればどうしてもその重量になるらしいよ」
晴樹はショットガンができたときに刀夜に同じ疑問を投げかけていた。だが実際には素材の問題よりも刀夜が軽量になるよう設計できていないが原因である。
残念ながら刀夜にはそこまでの知識がなかったためだ。大まかな構造の記憶と試行錯誤によってできている。
「ふーん」
颯太は納得しつつもショットガンを構えてみる。重量は長時間構えるのは辛いかも知れないが運んだり撃ったりする分にはさほど苦労することはないようだ。
むしろ銃の威力を考慮すれば十分我慢できるどころかお釣りがでるほどだ。
「でも、これがありゃこれまでの戦いはもっと楽だったんじゃねぇの?」
颯太はじろりと晴樹を睨みつけた。モンスター工場での戦いは熾烈だったと龍児から聞いている。戦死者の数もこれまでにない数に登っており龍児の言葉を裏付けていた。
「そうだね。もっと多くの人が助かったかも知れない。だけどその先は? この武器が流通して人類同士がやりあったらそれ以上に人が死ぬよ?」
「う……」
歴史で習った人類の悲劇。体験していなくともそれが悲惨なものであることは重々承知しているだけに反論はできなかった。
「今はそんな歴史の勉強をしている場合じゃねえ。ともかく時間がねぇんだ。自警団が館に乗り込む前に先にたどり着かなきゃならねえ」
龍児達が安全に確実に行くには自警団よりも早く出発する必要があった。
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