第382話 帰還に向けて1
「リリアちゃん辛いわね……」
「あぁ、そうだな……」
舞衣はリリアの心境を察して心配した。彼女に何かしてやれないものかと。しかし、何かしてあげたいとしても彼女が最も喜ぶであろう刀夜はここにはいない。
「龍児君」
龍児に声をかけてきたのは拓真だ。前回に会ったときより綺麗になった魔術師のローブを着ているので一瞬誰なのかと問いそうになりそうだった。
「なんだ?」
「アリス
龍児にとってその件も刀夜から言伝てを頼まれていたが正直いってこちらの話も重い。
「ええっと……その……彼女は……亡くなったそうだ……」
「え?」
「ヤツが守れなくて申し訳ないと謝っていた」
あのアリスが亡くなった。死んだ。拓真は頭をハンマーで叩かれたような衝撃を受けた。溺れて死にかけた自分を助けてもらい、色々と面倒を見てくれた
自分がマウロウの弟子入りしてからはベタベタとしてきて遊び半分、色々誘惑されてその反応を見てからかわれた。魔術の勉強の邪魔になるので思わず邪険に扱ってしまったが彼女を嫌っていたわけではない。
ただ青春真っ盛りの男子にとって彼女の誘惑は毒過ぎた。命を助けてくれた智恵美先生のためにもやらなくてはならないことが多い中、彼女の冗談に付き合えるほど心に余裕はない。
ある程度落ち着いたら彼女にお礼を言おうとずっと思っていたのだ。だがその
どうしてこんなことになってしまったのかと拓真は後悔した。もっと早くお礼を言えば良かった。邪険にするべきではなかったと……
「ど、どうしてそんな事に……」
龍児は申し訳なさそうに刀夜に聞いたとおりの内容を拓真に伝えた。彼女の最後はモンスターに多勢に無勢となってやられたのだと刀夜から聞かされている。
無論龍児がそれを見たわけではない。時間がなくて刀夜からも詳しく話は聞けなかった。ゆえに聞いたとおりそのまま伝えるしかなかった。
「なぜなんだ!」
納得いかない拓真が龍児の胸元を掴んで迫る。そんな拓真の腕を由美が押さえた。
「龍児君に詰め寄っても。彼がその場を見ていたわけではないのよ」
確かに由美のいうとおりなのだと拓真は冷静に戻った。連れ出したのは刀夜なのだから龍児を責めるのは違うだろうと。
拓真としては理由を知りたかっただけなのだがいささ冷静を見失ったようだと反省した。
「…………そ、そうだな。すまない龍児くん」
「かまわねぇよ。気持ちは分からないでもない」
時間の都合もあったが人一人亡くなっての刀夜の言い様はアッサリしすぎていた。あたかもどうでも良い、二の次ともとれる感じであり、正直いって気にくわない。
海の一件以来、人間味らしさを感じたような気がしたが、研究所で会ったときの刀夜は初めの頃の冷血な刀夜そのものだ。
「気に入らねな……」龍児がぼそり呟く。
「ん? 何か言ったかい?」
「いや、なにも」
その時だ再び玄関の扉がガラリと開いた。
「あ、やっぱり龍児くんだ。無事帰ってこれたんだね」
声をかけてきたのはエイミィと手を繋いで帰ってきた美紀だ。リリアのいない間はエイミィの面倒を美紀がずっとみていた。
子供の相手がうまいこともあってエイミィは美紀になついており、今日も近くにある広場へと遊びにいっていたところだ。
そこは子供達の遊び場となっていて エイミィのお気に入りとなっている。美紀は龍児をみても彼が帰ってくるのが当たり前かのような反応を見せた。
「できればもう少し嬉しそうにしてくれると生きて帰ってきたのだと実感できるんだかな……」
龍児は目頭を押さえて残念そうにする。
「ねぇ、ママは帰ってきたの?」
エイミィが繋いでいる美紀の手を引っ張って訪ねてきた。エイミィにとってはリリアとの再開は二か月ぶりとなる。それは5歳の彼女にとっては非常に長く待ち遠しいものであった。
「リリアなら部屋に行ったぜ」
龍児は刀夜の部屋を指を指して答える。正直いっていまのリリアにエイミィを会わせても大丈夫だろうかと戸惑いはした。
余計に刀夜を思い出してしまうのではないか、またはエイミィと会うことで気が紛れるだろうかと。願わくは後者であって欲しいと祈るしかない。
「それにしても4日後とは随分急ね」
「実質2日よ。3日目の朝には出発しなくては間に合わないわ」
「お世話になった師匠にお別れをいう暇もないな……」
賢者マウロウはいまだ隠れ家には戻っておらず、出かけた先も分からない。散々世話になっておいてお礼も言えないのは不躾極まりないようで心苦しかった。だがこの機会を逃せばいつ帰れるか分かったものではない。
また刀夜からは強く言われており、失敗すれば二度目がないどころか大変なことになると脅されている。別れを言えない心苦しさは拓真のみならず皆が感じていたことだ。
刀夜組は店に顔を出してくれる顔馴染みとなった客、美紀と梨沙はプルシ村のブランキや村長達。自警団組は自警団で世話になった人々。特に自警団を斡旋してくれてレイラには感謝しきれないほどである。
だが自警団の面々には帰ることを伝えるわけにはいかなかった。彼らの向かう先はボドルドの居場所に他ならない。そのような場所があると分かれば、今度こそ逃がさないと即座になだれ込むのは目に見えていた。
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