第8章 帰還編
第380話 戦闘終結
自警団のモンスター工場への攻撃はかつてない多大な死傷者をだしながらも自警団の勝利で終わった。
長期かつ各街の合同作戦となった初の作戦は連携の問題など課題はあったものの良好な結果を残した。何よりこれで新種のモンスターの発生は大きく軽減されることが期待できる。
完全な撲滅とはいかなかったのはボドルドを取り逃したことに起因していた。
彼が生きているかぎりまたどこかで研究所が作られてまた新たなモンスターが現れるかも知れない。されど各街で暗躍していた教団は完全に潰すことに成功しているので新たな施設の建設は容易ではないだろう。
今回攻略した工場兼研究所の施設や資材は悉く自警団により破壊することになる。マジックアイテムなどの貴重品は押収となるがこちらは思ったより少なく、すでに持ち去られたようだ。
となるとボドルドの隠れ家や研究所は他にもあるかも知るないという懸念が沸く。しかし生き残った教団員からはその手の話に関しては得ることができなかった。
順調に施設を制圧していた自警団ではあるが巨人の遺体を発見したときは肝を冷やしたという。何しろ対巨人の兵装はなく、このような限定された空間であれば攻めるも隠れるのも難しい状況なのだ。
だが倒された巨人の体には出来て間もない傷があり、つい先程までここで誰かが戦っていたのは明白である。
そして誰もがそのような無謀なことやってのけるバカは一人しか心当たりがないと考えるが、あえてその者の名は口にはしなかった。
乱戦とはいえ勝手に部隊から離れて戦っていたということになり、命令違反の可能性があるからだ。
ゆえに彼らがこのバケモノと戦わずに済んだことを思えば何としてもその者を擁護したくなる。しかし彼は一番乗りでボドルドの部屋へと突入したものの肝心のボドルドは取り逃がしてしまっていた。
アラドとレイラがボドルドの部屋へと突入した際には部屋には龍児とリリアしかおらず、彼らの落ち込む姿を見れば捕まえることができなかったのは一目瞭然であった。
「龍児、念のため聞いておくが奴らは?」
レイラがあえて問いただす。
「逃げられたよ。部屋に入ったときにはもうもぬけの殻だった。どうやら俺たちの戦いをずっと見ていたらしい」
龍児は姿鏡を指差して説明をした。レイラは姿鏡を覗き込んでみたが鏡面にはレイラの顔が写っているだけだ。すでに魔法の力は失せていたので龍児の言葉が正しいかは分からない。
しかし同類の魔法アイテムを知っているだけにレイラはあえて疑ったりはしなかった。
龍児はこの部屋に刀夜がいたことは話さなかった。理由が何であれ刀夜がボドルドと共に行動しているなど知られれば裏切り者と思うものが現れかねない。
この部屋で起きたことはリリアと二人の秘密にしなくてはならなかった。
モンスター工場ことボドルド研究所にして教団本部であるこの施設は自警団により取り壊す予定である。そしてこれにてボドルド信仰教団はついに壊滅した。
「んーっ!」
ボドルド研究所から外にでた龍児は大きく背伸びして体を動かしてみた。身体強化の魔法の影響で身体中がダル痛い疲労感に襲われていた。
以前にも同じようになったが、あのときは回復に3日ほどかかったので今回も同じだろう。
ともかくこれで戦いは終わったのだ。そう思うと緊張は抜け去り、気だるい脱力感に見舞われていた。
龍児の後をとぼとぼとリリアがうつ向いてついてくる。彼はリリアがこれほど落ち込むのは初めて見たような気がした。
好きな人に面と向かって別れを告げられたのだ。そしてもう間もなく二度と会えなくなる。
刀夜によれば異世界組が元の世界へと帰ることをボドルドと約束できたが、残り日数は10日ほどしかない。帰れることは嬉しい。だがリリアの気持ちを考えれば複雑な思いである。
「よぉ! とりあえず戦いは終わった。これからのことは皆の元へ帰ってから考えようや……」
「……龍児様」
正直なところ刀夜が元の世界に帰るのを思いとどませるのは難しいだろう。龍児からは『帰るのをやめろ』とは言えない。刀夜にも帰りたい理由はあるのだから。
リリアは「はい」と返事をすると、とりあえず下を向くのは止めたがその表情は曇ったままであった。
◇◇◇◇◇
自警団が現場を調査しつつ、破壊できるものは破壊しつくすと調査部隊を残して本体は解散となった。
ビスクビエンツ、ピエルバルグ、ヤンタルから派遣された部隊は各々の街へと帰路につく。その帰還部隊の中に龍児、由美、リリアの姿があった。
作戦初期から前線で戦った者から順に帰還員として選ばれたためだ。
戦いを終えてから彼らがピエルバルグの街に帰ってくるまでに6日を要したために帰還までに残された時間は4日しかない。
目的のマリュークスが勾留されていた館に行くにはリセボ村を経由する必要がある。村までは馬による移動訓練にて概ね1日を要したので村で一泊が必要だ。
そこから館へは半日もかからない距離にある。ゆえに逆算すればピエルバルグの街に滞在できる日数は2日がいいとろなのであまり時間がない。
龍児達は街に到着早々、本来であれば戦闘における報告書など書類整理をしなければならないのだが彼はそれ放棄した。そして由美、颯太、葵と共に彼らは自警団本部より姿を消した。
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