第376話 決着!巨人兵

「むおおおおお! 動けぇッ!!」


 龍児は体中に走る痛みを気合いで押さえ込む。


 体の傷はリリアが治してくれたのだから動くはずと自身に言い聞かせた。強化魔法が切れる前に決着をつけなければ勝つ方法はもうない。


 龍児は地に足がついているのを感じ取ると魔法剣を肩に担ぐような体制で巨人へと走りだした。


 巨人兵は立ち向かってくる龍児に左腕のダガーで突き刺しにくると龍児はそれをジャンプして空中へと逃れる。


 身体強化の魔法により人間離れした跳躍は軽々と巨人の左腕を越え、へし折れた側である右腕の二の腕へと着地する。


 一気に顔にめがけて腕を駆けあがる龍児に対し腕がクロス状態となって防御ができなくなった巨人の反応は鈍い。


「これで終わりだ! いっけえええええッ!」


 不安定となりだした巨人の体を大きく蹴りあげると巨人の顔をめがけて飛び込んだ。気合いを込めた突きを繰り出すと魔法剣の先端に火花が散って刃に炎が宿る。


 炎の剣は巨人の窪んだ目の中で怪しく輝く赤い光点に深々と刺さる。


 そして衝撃波が発せられると剣の炎と共に巨人の頭の中で爆散した。頭の穴という穴から炎と煙、そして焼けた何かが飛び散る。


 完全に制御を失った巨人は起こしていた上半身が後ろに倒れだした。


 龍児は振り落とされそうになると突き立てた剣にしがみついてこれに耐える。ズシンと重い音と共にほこりを立てて巨人は床に倒れた。


「龍児様……」


「嘘でしょ? あれをマジでたった一人で倒したの?」


 ティレスは信じられないものを見たといった感じで目を丸くした。巨人の体から降りてきた龍児から黄金の粒子が消えていく。


「ふうー。何とかギリギリ間に合ったぜ」


 先ほどの一撃を決めれなければもはや龍児に勝機はなくなっていただろう。


「リリア。援護サンキューな。体は大丈夫か?」


「はい。ちょっと痛いだけです」


 リリアは笑顔を向けつつもそのの額にはにじみ汗が浮いていた。かなり痛いくせに心配させまいと気を使っているのが見え見えだ。


 龍児はティレスのほうへと顔を向けると彼女を見つめる。


「な、なによ?」


 龍児の行為にティレスは不快感をいだいて警戒した。


「リリアを助けてくれたことに感謝する」


 そういいつつも龍児には彼女がなぜ助けたのかと疑念を抱かずにはいられなかった。


「感謝なんてされる必要はないわ。あんたと私は敵同士であることにはかわりないのだから」


 ティレスは敵意を剥き出して近づいてくる龍児に杖を向けると、それに答えるかのように龍児は足を止めた。


「だが、それでもリリアを助けてくれた」


「り、リリアは私の親友なんだから当然よ!! それに私はあんたたちからリリアを取り戻すために来たんだからね」


「俺から取り戻す?」


 取り戻すとはまた穏やかな話ではないと龍児は感じた。龍児はリリアを拘束するようなことはしていない。


「そうよ 、リリアを奴隷として好き勝手やったんでしょ? あんたみたいな奴許しておける訳ないでしよ! そしてリリアはあたしが助けるわ!!」


 龍児の目が点となった。彼女は龍児がリリアの主、つまりリリアを奴隷商人から買った者だと誤解されているのだと。


 道理で話が噛み合いわけだ……


 たがこのままでは本気で力を振るわれかねないし、女の子に剣を向ける術など龍児の中にはない。


「お、おいちょっと待て、なんか誤解してるぞ」


「うるさい! 外道! 覚悟なさい」


 彼女の目は本気であった。ティレスの体にマナの流れかを感知したリリアは彼女にしがみついて止める。


「待ってティレスちゃん。龍児様は違うの!」


「そうだ俺はリリアの主人じゃねえ……」


「えぇ?」


 思わぬ指摘に今度はティレスか驚く。リリアはこの男と常に行動をとっていたのでてっきりこの男が主人なのだと思い込んでいた。


「だって……『様』って」


「リリアは誰にだって『様』つけで呼ぶぞ」


「い、言わせてるんでしょう! 白々しい!」


「たがら俺はリリアの護衛であって主人じゃねえ!」


「ほ、本当なのよ。何度も命助けてもらってるの」


「ううー」


 リリアの話が本当なら龍児は命の恩人ということになる。しかし龍児の着ている鎧は自警団のものだ。


 それはつまり龍児は自警団であり、彼女の粛正対象であった。


「ふ、ふん。じゃあいいわ。見逃してあげる。でも私の邪魔をしたら、ぶっ殺すわよ」


「女の子が殺すとかそんなこというもんじゃねーよ」


「うるさいわね! あんたにあたしが受けた仕打ちや屈辱がどんなものかも知らないくせに!!」


 ティレスは涙目で龍児の言葉に噛みついた。確かに龍児は彼女がどのような運命に巻き込まれたのかは知らない。これほど恨んでいるのだよほどのことがあったのだろう。


 リリアは彼女の腕に刻まれた奴隷の証を思い出すとティレスが怒る理由も少しは分かる。分かっているつもりとなった。


「龍児様、先に行ってください」


「おい、リリア」


「私、ティレスと少し話したいと思います」


「いいのか? 刀夜と合う機会を失うかも知れないんだぞ」


「できるだけ早く追いかけますので……」


「……わかった」


 龍児はちらりとティレスの様子を伺ったが彼女は睨み付けたままだ。リリアを頼まれている身として彼女を置いてきぼりにするのは気が引ける。しかしこれはその彼女の希望なのだ。


「時間は稼いでおく。必ず来いよ」


 龍児はそう言葉を残して先へと急いだ。

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