第375話 魔石の使い方

 龍児は巨人の腕鎧を弾き飛ばした刃を返して、むき出しとなった巨人の腕を狙う。


 だが眼前の腕が突然ズームアップされると龍児は巨人の腕が差し迫ったことを理解よりも本能で感知する。


 ――まずい!


 しかしすでに攻撃のモーションに入った体を止めて回避行動に出るのはもう無理だ。


「このぉ!」


 まるで蚊を叩き潰すかのように巨人は手と腰で龍児を挟むように叩いた。


「ほら見なさい。調子こいているからそうなるのよ。帝国人ですら叶わない相手なのよ。所詮は人間ごときの叶う相手ではないのよ」


 ティレスはざまぁないといった見下した面を潰された龍児へと向ける。彼女にしてみれば自警団も議会の連中も、そして見てみぬふりをする街の連中もすべてが敵である。


 だが突如、龍児を押し潰したはずの巨人の指が数本切り飛ばされて宙を舞った。ティレスは唖然とした顔で何が起きたのかと状況が理解できなかった。


 目の前に斬り落とされた指が転がってくる。


 巨人の手の隙間から龍児が這い出てくる。大した怪我もなく床をごろごろと転がり、体勢を立て直して剣を構えた。


「うそ……」


 ティレスは目が点となって龍児が生きている事実に驚かされた。巨人の握力も腕力も桁外れである。いくら龍児が怪力の持ち主で魔法で強化さていようと耐えれるものではない。


 しかし実際は腕の鎧を吹き飛ばした段階で巨人の腕は大きな損傷を負っていたため龍児は救われたのだった。


 龍児は上段の構えから大きく踏み込むとその腕を真上から振り下ろす。真っ赤な灼熱のような剣の先から火花が散って魔法が発動する。


 大きく刃全体に炎を纏うと巨人の腕を皮と骨を叩き折った。ぐしゃりと乾いた音と共に巨人の腕は歪に曲がった。


「ぐおおおおおおおッ!!」


 まるで痛みを感じたかのような雄叫びを巨人があげると上半身を天高く立たせ、まるで天井を喰らうかのように大きな口をあけた。


 そしておもむろに龍児を噛みつこうと襲った。


「同じ手を二度も喰らうかッ!!」


 だが龍児はすでにそれを予測しており、すでに迎撃体勢に入っていた。体をねじり混むように体を縦に回転を加えて魔法剣を振り上げると落ちてくる巨人の顎を捉えた。


 再び発動した魔法の衝撃により顎が砕かれて千切れ飛ぶ。そしてあまりの威力に巨人の首がぐるりと回った。


 前回はこの意表をつかれたこの攻撃に身動きができなかったが同じ轍を踏むわけにはいかなかった。


 してやったりと龍児はニタリと笑うがその笑顔はすぐさまひきつった。頭と体で死角となっていた位置から左手のダガーが現れた。


 完全に剣を振り切ってしまった龍児はこの攻撃を受けることも流すこともできない。強引な体制でその場から飛び退いた。


 というより、遠心力のかかった剣に引っ張られて『転げた』といったほうがしっくりくる。


 龍児は機転を効かせてその体制から飛び退き、ダガーの直撃を避ける。


 しかし、ダガーから発生した衝撃波はどうにもならない。龍児は覚悟を決めて防御体勢に入るものの直撃を受ける。


 防御体制をとったおかげで四肢がもげるのは回避できただが再び鼓膜が悲鳴をあげて、皮膚は切り裂かれるようだった。


「龍児様! ヒール!!」


 リリアがとっさに龍児に回復魔法を施した。切り裂かれた皮膚は回復して聴覚も復帰すると吹き飛ばされた体の体制を立て直した。


◇◇◇◇◇


「ふおーッ! なかなかどうして五分五分の面白い展開ではないか!!」


 興奮する爺を横目に冷やかな視線を送る刀夜は疑問を投げかけた。


「顎を吹き飛ばされたのになぜ巨人は反撃できたのだ?」


 普通顎を強打されれば三半規管や脳が揺さぶられてまともに動けなくなるものだ。だが巨人はまるでそれらが別々の生き物かのように動いていたことに刀夜は違和感を覚えた。


「知りたいか?」


 ボドルドの顔はその言葉とは裏腹に意地悪そうな目をしている。素直に答える気はないのだと刀夜は見透かす。


「…………」


「…………」


「勿体ぶらないで欲しいな。本当は喋りたいのだろう?」


「やれやれ……もう少し素直になれんのか?」


「教えてください。お願いします」


「棒読みじゃな……」


 ボドルドは呆れ顔を当夜に向けつつ説明を始める。


「先ほど魔石の話をしたじゃろ」


「魔法剣の話だな」


「そう。魔石には色々な使い方ができるのだ。龍児の魔剣は魔力の蓄積、炎焼効果と衝撃波を生み出す魔術式と発動条件式だ。分かるか?」


「電池とプログラムみたいなものか?」


「そうじゃ、ならば巨人はどうかの?」


「……もしかして脳で動いているわけではない? 魔石のプログラムで動いているのか」


「そう、魔石はプログラム次第で使い方は大きく異なる。そしてその使い方の一つがこれじゃ……」


 ボドルドは着ているガウンを両手で開いてみせた。彼の胸には青い魔石が肉体の内側から覗かせており、まるで木の根が這っているかのような跡が胸に広がっていた。


「それが400年も生き延びていた秘密か……」


「そうだこの魔石には肉体年齢を固定する時間術式が込められいる」


 それを聞いたとき刀夜の目が鋭く光った。

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