第374話 超人龍児の反撃

「ふぉッ! そう来たか!!」


 ボドルドはまるでヒーローアニメでも見てる少年のごとく身を乗り出して目を輝かせて龍児の登場に一喜一憂する。


 刀夜はそんな老人の傍らで冷たい視線を送りつつ冷静に分析する。刀夜たちは彼らの用意しているシナリオを歩まなければならない。


 しかし、今の反応から彼らのシナリオは細部は決まってなどおらずにポイントを抑えているだけのもののように感じた。


 つまり、先の一件でリリアは死んでから龍児が現れる可能性もあったことになる。そうなれば龍児はその後に巨人に殺されることとなるだろう。


 もし刀夜が彼らを助けに向かえば巻き添えとなり、重要ポイントである『帰る日』を伝える者がいなくなってしまう。


 したがってボドルドは刀夜を止めたのではないか……


 リリアや龍児がどうなろうと行かせるわけにはいかなかったに違いない。刀夜はそう予測したがこれはおおむね当たりであった。


 違いは龍児と刀夜は生き残っていてくれたほうがボドルドにとって都合がよい点にある。


「あれはフレイム・オブ・ゴッデスじゃな。龍児め、随分と懐かしいものを引っ張り出してきたものよな……」


「フレイム・オブ・ゴッデス?」


「さよう。魔法剣として開発したのじゃがコストがかかりすぎて量産を断念したんじゃ」


 ボドルドは懐かしそうに、そして嬉しそうに語りだした。まるで少年が工作をうまくできたことを親や友達に自慢したがるように。


「余っていた高純度の魔法石を使用して、大きく振りかぶることで二つの魔法が発動するようになっておる。一つは破壊力強化、もう一つは摂氏八千度を越える高熱じゃ。じゃが……」


 先程まで嬉しそうに話していたボドルドの顔色がここで急に曇った。


「だが?」


「あれは重たすぎるのでモンスター用なんじゃよ……」


 つまり人間用に作ったつもりだったのに人間が扱える領域を越えてしまったのでモンスター用にしたということだ。とどのつまり失敗作である。


 ――漫画かよ!


 刀夜は心のかで突っ込みを入れる。しかしボドルドはマジメに人間に扱える代物として開発していたのである。ゆえに大きさで言えば限界ギリギリ人の扱えるサイズとなっている。


 彼が失敗作してしまったのは密度だった。体積あたりの重さが予想を越えてしまったため超重量武器となってしまった。


「……なら、対して変わり得るまい」


「ふぉふぉふぉふぉ、なるほどな。確かに違いはない」


 ボドルドは高笑いをあげるとのけ反る勢いで椅子の背もたれに背中を預けた。


◇◇◇◇◇


「リリア! 頼む!!」


「はい!」


 リリアは杖を龍児に向けると呪文を詠唱し始める。


「かの者の肉体にマナよ集え、血へと、肉へと転成し力となりて神々の祝福を授けん。デバィンボディ!」


 龍児の体が輝くと黄金の粒子が放たれて、全身に力がみなぎるのを感じとった。両手で構えるのも難しい炎の剣が身体強化の魔法により軽々と片手で扱えるようになる。リリアは続けて龍児に強化呪文の詠唱に入った。


「かの者の理への浸蝕しんしょくを許したへ、我は時の理を書き換えたもうなんじを加速せよ。クロックアップ!」


 龍児の体にさらに魔力が宿り目から赤い光を放つ。脳の処理能力を加速されて、あらゆるものをスローのように感じさせる。


 龍児ほどの怪力の持ち主が魔法剣を得たとしても直接対峙で勝つのは極めて厳しい。一時的に超人へと変貌できるこの魔法セットはもはや対巨人の定番化となった。


 強化魔法は両手で構えるのも難しいほど重い魔法剣を片手であしらえるほどになる。龍児は魔法効果を確かめるように魔法剣を軽く振り回した。


「行くぜ!」


 倒れていた巨人兵は立ち上がろうと上半身を引き起こそうとしていた。


 右腕と体の間を突き進む龍児を感知した巨人兵は即座に迎撃体勢に入る。


 体を支えていない左手のダガーで龍児を襲う。龍児はスタンスを大きく取ると得意の薙ぎ払い体勢に入った。そして頭上から襲ってくるダガーにまるで狙ってフライをあげるバッターのように剣を振り上げる。


 剣と剣が激しく衝突する。そしてダガーからは衝撃波が発生する。


 だが龍児の魔法剣からも衝撃波が発せられると互いに干渉して四散した。


「くう……」


 行き場の無くなった衝撃波は突風となってリリアたちを襲った。押し寄せる風に抵抗して耐えるも片目で龍児の行く末をしっかりと見つめる。


 力は均衡した……かのように見えた瞬間、弾き飛ばされたのは巨人兵のダガーのほうだ。龍児のほうが地に足をつけているために分があった。逆に巨人兵は無理な体制からの攻撃があだとなった。


 最も龍児は押し潰されないかと内心ヒヤヒヤものではあった。だが、このことにより確かな力を感じた龍児のエンジンはマックスへと回転数をあげる。


 龍児が目をつけたのは体を支えている右手だ。右手の鎧は肩から手の先まで鎧を着けている。つまり絶対物理障壁で守られている。


 だがそんな事など龍児はお構いなしに魔法剣をフルパワーで振るった。一見すれば只の脳筋行為に見えるが龍児は肌で感じていた。


 鎧を装着するための結び目である裏側は障壁が薄いことを。まるで大木に斧を立てる木こりのように突き立てた剣は再び吹き上げた炎を四散させた。


 同時に障壁を破壊して腕の鎧を吹き飛ばした。バラバラとなった鎧は空中で回転して床へと散乱する。


「な、なんなのよあの男! 身体強化したとはいえたった一人で巨人兵に立ち向かうなんて頭おかしいんじゃないの?」


「龍児様は以前にも巨人と対峙して勝ってます」


 だがそれはアリスの支援があったからこそではあるが、それでもティレスのいうとおり一人で立ち向かうなど無謀もよいところだ。

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