第367話 突入、モンスター工場
自警団はついにモンスター工場の施設前を制圧した。今までの尾根道と異なり、大きな広場となっていたので一気に全戦力を投入して勝利を得た。
巨大な門は押してもビクともぜず手動では到底開くことはできそうにない。悩んだ末ジョンが選んだ方法は刀夜と同じ絶壁にある窓からの侵入だ。
だが同じ高さにある近い窓でも15メートルもあったが腕に覚えがあるものが侵入を試みようとした。
しかしそれを教団が指を咥えて見ている道理はなく、弓矢による攻撃を受けると断念せざるを得なかった。
さりとてその間、ジョン団長は手をこまねいている分けでもなく次の手を打っていた。魔術師による解錠を試みていたのである。
だが扉があまりにも大きすぎるため担当していた魔術師がマナ不足で断念してしまった。彼らの魔力では扉全体をカバーできなかった。
そこでリリアがアンロック魔法であっさりと解錠してしまう。グレイトフルワンドに貯蔵されている桁外れなマナの成せる技だ。
しかし鍵が空いたとしてもこの重い扉を開けるのは困難であり、人力では無理があった。ゆえにこれも魔法で開けようとしたのだが、またしても解錠と同じ理由でできなかった。
存在価値を示すことができなかった魔術師たちは無念そうにリリアを見る。視線の集中攻撃を食らったリリアはたじたじとなってこれを拒否した。
なぜなら彼女は物体移動の魔法を習得していなかったからだ。それに加えてあまり目立つことばかりするとまた反感を持たれる可能性がある。
しかしその話を聞いたジョンから「であれば彼女に魔法を教えれば良いでないか」と軽く言われてしまった。
魔術師達からは「そんなに簡単に習得できるなら誰も苦労しない」と剣幕を荒立てるが、命令は命令である。渋々とリリアに物体移動の魔法を教えると彼女は1回の説明で覚えてしまい、軽々と巨大な扉を開けてみせた。
彼ら魔術師たちは深く落ち込み、暫く使い物にならなかったという。
「うぅ……また妬まれる……」
「ははは、そんときゃまた俺が守ってやるぜ」
龍児の高笑いが響いた。どちらにせよこの扉が開かなければ先に行った刀夜には会えないのだ。
リリアは背に腹は変えられないと諦めることにした。早く刀夜に会って誤解を解きたい。謝りたい。そのことのほうが何よりも重要だった。
◇◇◇◇◇
開いた扉より自警団は大挙して内部に突入する。だが彼らが目にしたのは想像を絶する世界だ。
入り口の扉と同様に天井は遥か高く網目状に張られた張りは大聖堂のようだ。部屋は極めて大きく、巨人が30体は余裕で入れるほどの大きさを誇っている。
この部屋のさらに奥にまた部屋があるようだ。
金属とコンクリートできたその部屋の壁端にはガラスの筒が多く並べられて中に見たことのないモンスターが緑や青の薬剤に漬け込まれている。
筒はモンスターの大きさに合わせて大小様々で奥ほど大型のモンスターが入っていた。
「なんだここは……これが工場なのか?」
誰がが皆が感じている疑問を声にした。彼らのイメージと大きく異なるこの世界は工場というより資料館や博物館に近い。
筒に収まっているモンスターは死んでおり、同じ種類のモンスターを見つけるのは困難なほどだ。
「そういえばゾルデアの話じゃここは研究所だったな……」
元々ここは魔法研究が行われていた場所だったが帝国との戦争を予見したボドルドがモンスターを作る工場へと変えたものだ。
龍児の呟きを聞いた団員たちは確かにそれなら納得いくような気がした。
しかし、すんなりと受け入れにくいのはモンスターを納めている装置だ。彼らの知っている技術からは完全に逸脱しており、全く理解できないでいた。
そしてそれは現代世界から来ている龍児や由美にとっても同じで、フアンタジックな世界からいきなりSFの世界に放り出された気分だった。
誰もが息を飲んでその世界に見とれているとき、突如どこからか矢が飛んできて兵士の首に刺さった。
「うっ!」
激痛に続いて吹き出した血で鎧を染めると呼吸困難となって倒れた。
「敵襲!!」
そう叫んだとき、次々と矢が襲ってくる。
「教団だ! 散開して物陰に隠れて応戦しろ!!」
自警団は機械装着や資材に身を隠してクロスボウガンで応戦する。物陰に隠れながら移動しつつ前へと攻めるが限度がある。
すぐに大型タワーシールドを持った兵士が一列横隊にて突撃すると戦場は一気に乱戦となった。しかし力の差は歴然としており、次々と教団員は潰されてゆく。
乱戦となったさなか龍児とリリアは戦場をすり抜けて奥の部屋へと向かった。無論、目指しているのは刀夜の向かった先、ボドルドの元へとである。
しかし龍児達が隣の部屋に入っても教団からの攻撃は一切なく、警戒していた龍児は肩透かしをくらった。最も攻撃を受けないに越したことはないのでそれはそれでありがたいことである。
さらに奥へ奥へと突き進み、部屋も3つ、4つと越えるも教団からの攻撃を受けるばかりか人の一人も見かけないのである。
「おかしいですね。こんな中央を進んでいるのに誰もいないなんて……」
「奴らも人手不足なんじゃねーか。いいっていいって、とっとと先に行こうぜ」
不安に思うリリアではあったが龍児は楽観していた。人を殺したくない龍児にとって不殺で相手するのは殺すよりも疲れるのである。ゆえに相手がいないのは願ったり叶ったりであった。
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