第357話 いざ渓谷侵攻

 自警団はいよいよモンスター工場への侵攻を開始する。輸送の問題があるので侵攻部隊は全部で5部隊に分けられて順次、渓谷はへと投入されてゆく。


 先陣はピエルバルグの第1警団となる。


 団長ジョン・バーラットと第1警団と魔術師達が砦の出口にて整然と並んでいた。


 団長の命令により侵攻部隊は川辺の砦を目指して移動を開始した。今回、馬は連れて行けないので川から先は徒歩となる。川が削ってできた渓谷なのでその斜面はかなり険しい。


 レイラの部隊は馬車に揺られて街から川辺へと向かう。


「龍児様、今回はどうもありがとうございました」


 リリアは龍児を始め、同じ部隊の皆にもお礼を言って頭を下げた。彼女に嫌がらせをしていた魔術師の男が3度目の嫌がらせを行使した再に皆で捕えたのだ。


 龍児は無論彼女を護衛していたが、今回は先方隊の面々が協力してくれたお陰でとうとう捕縛となった。


 男は魔術師としての権力を振りかざそうとしたが、龍児達には魔術師ギルドから許可をすでにとっていた。それでもなお悪態をつく男であったが、ギルドの高官から権利を剥奪されるととうとう観念した。


 彼にはペナルティとして先方隊へ配属されてしまう結末となる。


◇◇◇◇◇


 川辺の砦まではそんなに遠くはない。馬では直ぐに到着するような距離だが荷物が積載されている馬車では1時間ほどかかってしまう。


 しかし、周辺のモンスターはすでに狩り尽くされているので遭遇することもなく砦へと到着した。


 早速荷物を船へと運ぶ。リリアも手伝おうとするが荷物は大きく重いので断られてしまった。


 することがなくなったリリアは川辺のたたずんだ。時間をもて余すと街に現れた魔法使いのことを思い出してしまう。


 突如現れた親友のティレスの腕には奴隷の刻印が刻まれていた。リリアと同い年の彼女が奴隷になるということは家政婦やメイドではない。


 それを知られると逃げるように東の空へと消えていった。すなわち彼女はこの湖のような川を越えた先にあるモンスター工場へと向かったに違いない。


 このまま侵攻すればきっと向こうで会えるかも知れない。彼女には聞きたいことが一杯あった。


 親友のアンリはどうしたのか?


 他の人たちはどうなったのか?


 どうしてボドルドの弟子などと呼ばれているのか?


「リリアー! そろそろ出発だぞー」


「はーい」


 リリアは荷物を船に積み込む作業が終わった龍児から呼ばれた。きっとまた、もうすぐ会える。その時に聞こう。リリアはそう信じてその場を後にした。


◇◇◇◇◇


 自警団を乗せた船の一団は穏やかな湖を進み、渓谷側へとたどり着いた。


 モンスターが待ち構えているかと警戒はしたのだが、それらしいものは現れずに無事に船は渓谷に到着する。そして荷物を下ろした。


 一安心と言いたいたころだが、それはそれで不気味ではある。自警団が攻めてくるのはボドルドも教団も知っているはずてある。なのに川で待ち受けている様子はなかった。


「防衛戦で最も有利なこのタイミングで待ち受けなしか……」


「やっこさん達、よほど自信があるんじゃねーか?」


 レイラの呟きに龍児は反応した。隠れる場所の多い渓谷側陸地と隠れるところがない川の上、これほどのチャンスを逃すなどよほどである。


 こうなると余計に何か罠があるのではないかと懸念を抱かずにはいられなくなる。もしくは戦力を集結して決戦に備えているのか?


 しかし、いくら考えても答えなどでるはずもなし。団長のジョンは荷物の準備が終わると進軍の合図が送られた。


 先方を行くのはレイラの部隊である。辺りは岩肌むき出しで所々雑草が生えている。大きな木は遠くの山には生えているが付近一帯にはない。


 渓谷から流れてくる川は向かって右側に流れており、両側は断崖絶壁である。


 それは奥に行けば行くほど深く高くなっている。ゆえに左側の岩場より侵入するしかないのだが、ここも奥に進めば進むほど険しくなっており、所々クライムが必要と思われる場所もあった。


「うげー、マジあれ登るのか……ほ、本当にこんな所に工場があるのかよ……」


 龍児は思ったままの事を口にしたが、それは他の皆も同じ思いであった。登って進んだがありませんでしたでは洒落にならない。


 しかしゾルディの言っていた場所はこの先であるとことは龍児自身も聞いている。


「ティレス……魔法使いが飛んでいった方向もこっちでした」


 リリアも龍児と同じ疑念はあったが、ティレスは間違いなくこっちに飛んでいったのだ。


「先方隊は先行して状況の確認と侵攻ルートを確保せよ! 残りの部隊は簡易バリケードの作成を急げ!!」


 団長から命令が発せられた。命令に従い各々が作業に入る。


 バリケードは船着き場であるこの地を守るために持ってきた。最も船に積載できる限度があるので無いよりマシ程度の代物である。


 レイラ達先方隊は大きなリュックを背負って山へと向かった。体力のないリリアは自分の食料しか入っていないような小さなリュックを背負う。


 リリアは多くの機材を運ぶ龍児や皆に比べて軽いリュックしか持たないことに申し訳なく思うが、彼らにした見れば当然である。


 彼女の存在は部隊の生存率に関わる大きな問題なのだ、何よりも彼女第一なのである。


 申し訳なさそうにしている彼女に先方隊の皆は大丈夫だとエールを送った。

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