第355話 皆の懸念
その頃、刀夜家では留守組が苛立っていた。刀夜が出かけて15日が過ぎたが彼は一向に帰ってこない。
倉庫にはアリスの作ったポータルゲートが設置してあり、向こうでゲートを設置できたのならノータイムで帰ってこれるはずである。それだけに何か事故があったのかと不安が募った。
何しろ帝国はモンスターの巣窟といわれている場所なのだから。いくら真実が欲しいからと言ってそのような場所に足を運ぶと考える当たり頭のネジが飛んでいるとしか思えない。
さらに以前に刀夜から彼の資産の引き出す権利を渡されたり、自警団の計画に付き合わされたりしたために余計に不安が増長されていた。
その時も思ったが、刀夜が居なくなるようなことをあらかじめ知っていたのではないかと不吉な妄想を余儀なくされる。まるで死期を悟った猫が飼い主の元からひっそりと消えるように。
「でもぉー、アリスさんも一緒してるんでしょ」
皆の不安を拭うかのように美紀がなぜか膨れた面で口を開いた。美紀としてはアリスが刀夜にべたべたしているのが気に入らなかった。
アリスの事だからお遊びなのだろうが、あの刀夜がモテてるような印象を受けるのが気にくわないのである。自分には彼氏がいないのに……と。
「そ、そうよね。彼女もいるのだから、いくら刀夜君でも無茶はしないわよね」
舞衣は美紀の発言に便乗して皆を励まそうと考えたのだが、美紀の意見は別の意味であり噛み合っていなかった。
さらに刀夜の場合、相手の年齢や性別など関係なく安全性を考慮するとは思えなかった。だが美紀の言っている問題なのはそんな事ではない。
「15日間もあのアリスさんとずっと一緒なのよ! これってヤバくない!?」
「は?」
思わぬ美紀の言葉に舞衣は話が噛み合ってないと気づくと開いた口が閉まらなかった。心配はそちらなのかと。美紀らしいと言えば美紀らしいが。
「だって、あんなにバインバインなのよ! 刀夜ってああ見えて結構ムツリスケベじゃない。攻められたらイチコロよね。ねぇ、晴樹くん!」
「え?、そ、そうかな……」
晴樹はそっとなぜ自分に振るのかと美紀から視線をそらした。そう、刀夜はポーカーフェイスでストイックぽく見せているが結構ムッツリだ。
晴樹と一緒になってよく裏サイトとなどく見ていたりしていた。したがって晴樹は同罪なだけに美紀の意見には同意したくなかった。
そんな晴樹に梨沙の視線が鋭く突き刺さる……
「でも拓真くん情報によればアリスさんって結構○○○なんでしょ? あんなぼよんぼよんで迫られたら男の子なんてイチコロよね!? ねぇ、晴樹くん!!」
「だ、だから、なんで僕に振るかなぁー……」
晴樹は痛いほどの梨沙からの視線を感じとると顔を反らした。梨沙は晴樹が大きいモノ好きであると肌で感じ取っていた。
したがって自分のモノに関してややコンプレックスを感じている。最も葵のコンプレックスに比べれば微々たるものではあるが好きな男の好みではないと知れれば気になって仕方が無い。
「だって男子は晴樹くんしかいないじゃん。男子って好きだよね。ぼいんぼいん」
晴樹としてはそれを梨沙のいる前ではなぜいうのかと言っているのだが。そのような話を聞いて梨沙が良い顔をするわけがない。
――わざとか? わざとだな!?
美紀はにやにやと笑みを浮かべていたので間違いないだろう。しかし当の梨沙は自分の胸に手を当てて涙目なっていた。アリスと比べれば自分のなど相手にもならないレベルだ。
「あぁ!? だ、大丈夫だよ、梨沙は梨沙だからね。それに梨沙のは標準だよ普通だよ! アリスさんが異常なだけだよ!」
標準とか普通だとか何を? 誰を基準にしているのか……
晴樹はドツボを踏んだ。
「んんー晴樹くぅん。どうして梨沙の胸の大きさを知っているのかなぁー」
美紀がしてやったりといわんばかりに、いやらしそうに突っ込みを入れてくる。
「え?」晴樹は美紀の突っ込みにギクリとする。
そんな彼の反応に青ざめたは舞衣だ。
「え? え? あ、あなたたち、まさか……」
「さてはやったのね!!」
美紀はさも嬉しそうに指をさして興奮している。そんな二人に差し迫られて晴樹と梨沙は互いに手を取り合って必死に首を降って否定した。二人はさすがにそれはマズイと自重はしている。
「プ、プールで見たからじゃないか……」
無論梨沙のビキニ姿の事を言っている。
「本当にやってないのね?」
「や、やってないわよ! そんな恥ずかしいこと聞かないでよ!」
梨沙は恥ずかしながらも必死に否定すると舞衣はようやく安心して落ち着いたようだ。そして美紀はつまらなそうにする。
「好きあっているのに、やったらダメなの?」
「あ、当たり前でしょ。万が一できちゃたら帰れなくなるのよ! 赤ちゃん抱えてあの嵐に耐えれると思って?」
「あ、そっか……」
舞衣の危惧にようやく美紀は理解したようだ。酸欠に目眩と頭痛、最終的には意識失う、とこちらにきたときの事を思い出した。かなりハードな体験だったことを今でも覚えている。
「ずいぶんと賑やかだね」
突如、玄関から声をかけられた。
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