第353話 ドーム

 刀夜とアリスは城の螺旋階段を降りてゆく。時折窓から見えるドームを確認しながら階段から、出る位置を見計らって後にする。


 城の外へと出ると当然といえば当然だが再びモンスターが徘徊している。


 昨日のようなトレインはもう御免だと今度はちゃんとサイレントの魔法を施してある。ショットガンがうっすらと青白く光っているのが効果の証である。


 だがそれを使うのはあくまでも戦闘になってしまった場合のみで、戦いを回避できるのならそれに越したことはない。刀夜は慎重にモンスターのコロニーを迂回しながら戦闘を回避して目的地へと進む。


 入り組む階層と階段に迷いつつも刀夜はドームの前についた。外見はまさしく白いドーム球場といった感じの建物だ。


 モンスターを警戒して物陰に隠れながら入り口へと移動した。ガラスの扉を開けて中へ入ると外と異なる温度に気がついた。


「なんだ? 外より少し温いな……」


 違和感を感じつつもさらに奥へと進む。


 分かっていたことだが野球場ではないのでチケット売り場や改札口といったものはない。床や壁の材質は城と同じで樹脂っぽいため、足元は滑りにくいし、恐らく転倒してもあまり痛くないだろう。


 ほとんど飾りっ毛もなく未来の建物といった感じの通路を進み、階段のある通路を通り抜けるとドームの中へと入った。


 ドーム内はすっぽりと天井に包まれており、破れたり壊れたりしている様子はなかった。


 どうやら暖かいのは密閉されているため空気が暖められて温室のようになっていただけのようだ。とはいえ、別にサウナのように暑いほどでもない。


 中はすり鉢状となっており、球場でいうところの観客席側には人がすっぽり入れそうな筒が斜面に沿って整然と並んでいた。


「これはなんッスか?」


「恐らくクローン製造機だろう。この星の人類の歴史はここから始まったんだ」


 アリスは筒のガラスを覗いてみたが中は空っぽであった。


「1000、いやもっとあるか……」


「あたしたちのご先祖はここで生まれたってことスか?」


「そうなるな」


 気落ちしているアリスの言葉に刀夜はいつも通りに答える。アリスはクローンで生まれてくるというものがどんなもなのかは想像もつかない。


 しかし、それは自然の理に反して『作られたもの』ということは理解している。ゆえにそれが人であると受け止めることができないでいた。


 そしてそのようなものから生まれてきた自分自身が気持ち悪いと感じずにはいられないのである。


 正直いって知りたくなどなかった。そのほうが幸せだった。刀夜が言ってくれた「人間である」との言葉だけが今の自分支えているような気持ちがする。


 刀夜は階段を降りてマウンドのような中心部へと向かう。中央にはなにか壊れた大きな装置の塊が置いてあり、そのとなりに小さなプレハブのような小屋が立っていた。


 彼はまっすぐ装置へと向かった。大小様々な機械がまるでゴミのように集められてちょっとした山のようになっている。


 その中の一際大きい装置に刀夜は近寄ってみた。


 装置は大きく破損しており、金属の表面はボロボロになっている。だが少し叩いてみるとまだ中の金属はしっかりしていた。


 刀夜は食い入るように細分を調べ始めだす。アリスはまだショックから立ち直れず壊れている機材の上に座り込んで呆然と刀夜の様子を伺っていた。


 やがて刀夜は装置に取り付けられているプレートを見つける。ゆっくりとホコリを払い除けると日本の国旗が記されていた。


 さらにその横にアメリカの国旗が出てくる。続いてイギリス、ドイツ、中国、フランス、ロシア、オーストラリアと出てきた。


「先進国のオンパレードだな。国家ぐるみで何かをしていたのか?」


 さらにもっとホコリを払うと何やら英語らしき文字が見えた。しかし文字は掠れおり、読めそうにない。


 手触りからしてまだ下に別のプレートがあることが分かった。刀夜は積もったホコリを取り払ってそれを目にして凍りついた。


「ば、ばかな……あり得ない!」


 刀夜は目にしたものを理解がでずその場でへたり込んでしまう。一人の自分は目にしたものを必死に否定しようとその理由を探し始める。だがもう一人の自分はその可能性と何が起きたのかと理屈を模索し始めた。


 アリスは遠巻きに刀夜を見ていたが、彼の異変に気がつき、歩み寄って尋ねてみる。


「どうしたんスか? これが何なのか分かったんスか?」


 刀夜はフリーズしたままでアリスの質問に答えなかった。だがほどなくして身動きし始めると、ようやく彼女の質問に答える。


「この装置は転移装置の一部だ……だが……」


「だが?」


「まだだ、まだ証拠がいる」


 刀夜は立ち上がり小屋へと向かった。勢いよく扉を開けてズカズカと中へと入った。


 小屋の中は資料らしきものが整理されて整然と棚や机の上に並べ立てられいた。刀夜はその一つを手にしてパラパラと中身をチェックする。


 書類の中身は英語で書かれていたが刀夜は読まずにさらっと目を通すだけの確認をする。目的の書類でないとわかると元に戻して次の書類に手をだした。


 そんな慌てて調べものをしている刀夜を他所目にアリスはゆっくりと部屋に入ってきた。


 辺りを見回すとこの部屋の異変に気がついた。ホコリがあまり積もっていないのだ。加えて書物もあまり風化していなかった。だが誰かが使っていたという形跡もない。


 部屋全体に魔力を感じとるとその発生源を探してみる。すると部屋の片隅に見たことのない装置が置いてあった。その装置には大きな緑色の魔石がいくつも取り付けられて稼働しており、魔力の発生源はこれであった。


 アリスがゴソゴソとしていることに刀夜は気がつくと彼女に尋ねた。


「どうした?」


「刀夜っち、この部屋には魔法が施されているッス」


 彼女の言葉を聞いた刀夜は教団施設の一件を思いだして嫌そうな顔をした。


「まさかトラップか!?」


 刀夜の脳裏には真っ先にそれが過ったのである。

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