第352話 真実の一端
「と、刀夜っち、こ、これ一体何なんスか?」
アリスは震えるような声で刀夜に答えを求めた。だが刀夜もその光景に必死に理解しょうと脳を回転させており、彼女の声など聞こえてなどいない。
「ねえ! これは何なんスか!!」
アリスは自分達が何者なのか疑問を抱き、その返ってくるであろう答えに恐怖していた。頭で理解しているわけではない。それをみた瞬間知ってはいけないと本能が叫んでいた。
「――だ、騙された……そういうことか……」
刀夜の姿はみるみる怒りで溢れていた。握りしめた拳が今にも爆発しそうになる。
「刀夜っち……」
「何が人類は滅んだだ! 何が文明ロストだ! 何が人類の救世主大賢者様だ!! ペテン師野郎め!!」
吐き捨てるように怒鳴った。無論その相手とは大賢者マリュークスのことだ。
「一人で納得しないで説明して欲しいッス!」
刀夜は息を整えながら内から沸き起こる激情を取り押さえた。大きく呼吸をして刀夜はアリスの質問に答える。
「ここにあるのは大きな写真だ。写真とは……」
刀夜は写真のことを説明した。
刀夜とアリスが目撃したのは巨大な写真パネルだった。写真表面は何かコーティングしてあり、恐らく風化防止剤であろう。
先ほど下の部屋で見た写真に比べてあまりボロボロになってはいない。だがそれでも全体的にひび割れており、下手に触ると崩れ落ちそうである。
そんな写真には白衣を着た人たちが12人写っていた。日本人、中国人、インド人、そして恐らくアメリカや欧州の国の人々だ。
だが使用されていた部屋の数を思えばこれで全員ではないだろう。
そして彼らの前や間にはトカゲ人間ともいうべき姿の生物が数匹写っていた。
それの身なりは人間のように服を着ており、顔はトカゲようだが後頭部はタコように大きい。身長は人間の胸の辺りまでしかなく、人と互いに手を取り合っていた。
「刀夜っち……この生物何なんスか」
「彼らが本当の帝国人だ」
恐る恐る訪ねるアリスに対し刀夜はキッパリと答えた。それは彼女の知っている歴史とは違う。
彼女達の祖先は帝国人の生き残りの人類であるはずだった。この星に生まれ命を育まれた生命のはずであった。
「じゃあ……じゃあ、あたし達は一体なんなんッスか!?」
訴えかけるアリスに刀夜はしっかりと目をあわせて答えた。
「あなたは俺と同じ地球人であり、恐らく彼らのクローン……つまり複製されたものから発生した種だ」
刀夜の指は写真の人達を指していた。アリスは腰が抜けたのかへたりこんでしまい、呆然とした。
彼女の信じていた歴史が覆されてしまったのだ。もはや何を信じて良いのか分からないのであろう。無理もないと刀夜は彼女の心境を察した。
「これまでのゾルディの話と今までの事実を組み合わせれば、恐らく真実はこうだ」
刀夜の話によれば元々この星を支配していたのは彼らトカゲのような姿をした帝国人だ。そこに地球から地球人が転送されてきた。帝国人は難民となった彼らを受け入れて魔法を教え、代わりに科学を教わった。
やがて人類側に帰る派と残る派が生まれ、いざこざが起きた。帰る派はどこかへと消え去り、残る派だけが帝国に残った。
そして残る派は帝国人と問題を起こした。互いに戦争状態となり、帝国はボドルドの率いるモンスター軍団と巨人兵に皆殺しにあった。
帝国人のいなくなったこの地にマリュークスはクローンを使ってどんどん人口を増やした。だがクローンの知力は赤子レベルだ。そこに地球の知識を詰め込ませた。
「それを文明ロストということで済ませたということッスか……」
「きっとそうだ」
そして一気に人口が増えればあとは放置していてもどんどん増えてゆく。何しろ魔法のお陰で怪我や病気で死ぬことはない。したがって人口は増える一方だ。
「その過程で嘘の歴史を刷り込めば君たちのできあがりというわけだ」
「帰る派の人達はどうなったっスか?」
「これはあくまでも俺の推測だが、彼らは帰りたくとも帰れなかった。だからこの地を第二の地球にすることで寂しさを解消しょうとしたのだと思う」
「クローンってアレっスよね偽物事件の……」
「そうだ。人間を複製する技術だ」
「クローンは本当に作られたんスか?」
「でなければたった400年でこれだけの人口を増やすのは無理だ」
写真に写っていた人物は若そうな者でも40代であり、大半は子供を作れるような年齢とは思えなかった。しかも女性の数も少なかった。
彼らだけで自然な形で出産して人口を増やすのは不可能なのだ。
「酷いッス、あたし達は何なんスか!」
「人間だよ。例え元がクローンだったとしても、母親の体内で命を授かり生まれてきたのだから。哀れなのは帝国人の人達だ。ゾルディが恨むのも当然だ!」
「過去に戻ってやり直して欲しいッスよ。帝国人を滅ぼすなんて必要ないじゃないッスか!」
確かに帝国人を絶滅させてしまうなどやり過ぎにも程がある。過去に戻ってやり直したい気持ちも分からないでもない。
しかし過去に戻ることなどできはしないのだから、この先をどうすのか考えるほうが建設的である。
「過去になんて……………………過去!?」
「どうしたッスか?」
「まだだ、まだ解いてない謎がある。いやむしろこっちが重要だ」
「?」
アリスは刀夜の言っていることが分からず不安げな表情を向けた。すでにショッキングな内容に心を大きく傷つけられたというのに、まだ何かあるのかと彼女は怯えた。
「アリス行こう」
「どこへ行くッスか?」
「ドームだ。この写真が撮られたのは背景から推測するに恐らくドームだ。きっとそこにも何かある」
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