第351話 星条旗

「魔法書発見ッス」


 アリスは引き出しから慎重に本を取り出した。乱暴に扱えば先程のように崩れるかも知れない。


 机の上に置いて慎重に表紙をめくった。更にページをぺりぺりと音を立てて捲るが今にも破れそう……というより紙が折れそうと表現したほうが良さそうな状況だ。


 ようやくページをめくり終えると何かタイトルや目次のようなものが書かれている。この本の文字は明らかに古代文字で書かれていることは刀夜にも分かった。


「何て書いてあるんだ?」


 刀夜が訪ねながら視線を横に向けるとアリスの目がこれでもかと輝いていた。


「これは雷撃系の魔法書ッスよ!」


「攻撃魔法か?」


「むしろ全般ッスよ。雷力を使った技術の宝庫ッス」


「例えばどんなのがあるんだ?」


「えーと、体の一部に2極間を挟んで雷力を流して血行をよくする……」


「電気マッサージか!!」


 後3つほど概要を聞いたが内容は誰得な突っ込みどころ満載な魔法であった。だがアリスは興味は尽きない。彼女にしてみればこのために危険な帝都に赴いたのだから。


「分かってないッスね。これはまだ未発見の貴重な魔法ッスよ」


 そういいながらアリスはご機嫌で、リュックから取り出した風呂敷に魔法書を大事に包みだす。後に判明するがこの魔法書の最後の方に攻撃魔法が3つほど掲載されいた。


 その他の雷系魔法についても他の賢者や魔術師ギルドとって非常に貴重な資料となった。


 刀夜は引き出しにまだ何かまだあることに気がつき、それをそっと取り出してみる。


「なんスか?」


「写真だ」


「写真ってなんスか? 絵じゃなくて?」


 だがこの写真も風化により色褪せていてはっきりとはよく分からない。中央に家族らしい人々が四人写っているようだが顔ははっきりとしない。


 着ている服は洋服らしく正装しているようだ。そして彼らの後ろの隅に……


「カーテン? 旗か…………」


 刀夜は目をすぼめてなんとか見ようと試みる。


「……え?……まさか、これは星条旗? アメリカの国旗じゃないか!?」


 刀夜は驚きを隠せなかった。このような所にこんなものがあるということはこの部屋に泊まっていた人物はゾルディの話にあった転送されてきた人物ということだ。


 その内の一人に違いないが、少なくともマリュークスではない。彼ははおそらく日本人だからだ。そして日本人以外にもアメリカ人もきていたということになる。


 ――星条旗に英語の筆記体、疑いようもない。だがしかし……


『確かアメリカの建国は丁度400前ぐらいだったはず。しかし、そのような頃から星条旗はあったのだろうか?』


 刀夜の記憶ではそこまで詳しくは覚えてなどいなかった。事実、アメリカの独立宣言は1776年であり、国旗の制定日は1960年である。


 刀夜は間違えて覚えていたが、そもそも他国の記念日などそうそう覚えている者は少ない。


 それに加えて写真の人物が着ていた服はもっと現代風だったように見えた。日本人以外の人物がこの世界にきている。それは構わない。あってもおかしくはない。


 だが時代だけが理屈に合わないのだ……


「どういうことだ? 少なくもと彼らは現代に近い時代から来ていないと辻褄が合わなくなる」


 刀夜はどうしてもはまらないパズルのピースを苦々しく思った。そしてなぜこうも当てはまらないのかと思ったとき刀夜はある可能性を思いつく。


「アリス、人類が絶滅して本当に400年経っているのか? 本当は数十年しか経っていない可能性はないか?」


「えぇー。突拍子もないッスね。でも400年前ってのは本当ッスよ!」


「どうしてそう言い切れる? マリュークスが嘘を言っている可能性もあるだろ」


「それは歴史の書物ッス。私たちの祖先が積みあげてきた歴史をマリュークスが書き換えるなんて無理ッスよ……」


「う……そ、それもそうか……」


 マリュークスが年代を偽っているかと疑ってみたが確かにアリスの言うとおり積み上げてきた歴史をマリュークスが書き換えるのは無理がある。ましてや彼は長い間ボドルドに拘束されていたのだからなお無理だ。


 アリスに軽く論破された刀夜は彼女の意見がもっともだと引き下がった。しかし、そうなるとパズルのピースははまらなくなってしまい、この問題は解けそうになくなってしまった。


 さらに疑問はまだある。彼らはどうやってこの世界にやって来たのかだ。ゾルディの話によれば彼らを転送したのは帝国ではないように思える。


 ではでどうやって元の世界から転送されてきてというのだろうか?


 現象から推測するにこれには魔法が必要不可欠と思われるからだ。地球に魔法などないはずである。科学だけで瞬時に宇宙を越えてくるなど不可能だとしか思えなかった。


「くそう! 訳が分からん!! 仕方がない。この件は置いておいて他を探そう」


 その後、他の部屋に残されていた物品から調べて分かったことと言えばこの地にやってきたのは日本人とアメリカ人以外にも数ヵ国からやってきていることが分かった。


 残念なことにどこの国の人なのかまでは分からない。だが使われていた部屋の数は24であることから、一人一部屋としても最低限24名ほど、ここに居たこととなる。


 刀夜達はさらに上に登って調査を進めてゆくと、まるで王様と謁見でもするような場所へとでた。


 と言ってもファンタジーな謁見の間とは大きく違い、壁や床、柱に至るまでつるつるとした白乳頭色した素材でできている。どちらかと言えばSF色のほうが強い。


 刀夜達はその世界観に圧倒される。


「ここはやはり謁見の間かな……」


「そうなんスか……?」


 謁見の間と言われてもそれを知らないアリスにはピンとこない。二人は辺りを見回してみるここには左右にさらに部屋があるらしくいくつか扉があった。


「王様の謁見の間と言えば召喚陣だな……」


「はい?」


「アリスさん。ここにポータルゲートを作ってみてはどうだろう」


「そうッスね。それいいッスね」


 アリスは早速荷物を下ろしてポータルゲートを描き始める。その間に刀夜は昼飯の準備を始めた。


「よし、できたッス」


 刀夜はアリスを労おうとして近寄ってみると、アリスはポータルゲートを2つ描いていた。


「2つ?」


「そうッスよ。あの階段を登ったり降りたりするのはもう後免こうむりたいッスから」


「なるほど確かに登るだけでも1日作業だったな。ご苦労様。昼飯にしよう」


 刀夜はアリスを労って喜んだ彼女は用意してあった昼飯にかぶりついた。


◇◇◇◇◇


 昼食を終えた刀夜たちは再び調査を再開する。謁見の間に隣接している部屋を一つ一つ調べてゆく。


 中は主に待合室と思われるような部屋ばかりであったがその中の一つに……刀夜はついにゾルディのいう真実を一端を見つけた。


 それは刀夜にとってもアリスにとっても唐突で全く予想だにしえなかった事実だった。

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