第350話 もどかしい手掛かり?
「刀夜っち! 刀夜っち!」
「あぁ、なんだ……うるさい目覚ましだ……」
「寝ぼけてないでコレ、ほどいて欲しいッス!」
アリスが目を覚ませば毛布です巻きにされて、ロープで縛られていた。アリスは家を失ったミノムシのごとくじたばたとして拘束に抵抗を試みたが、かなりキツく縛られているためびくともしない。
「これはいくらなんでも酷いッス!」
「寝ぼけて俺の服を脱がそうとするからだ」
刀夜は上半身を起こすとアリスを拘束しているロープをほどいた。
「うう、酷い目にあった。もう二度と刀夜っちとは寝ないッス」
「そうか、それは助かる」
しれっと答える刀夜に何やら敗北感を感じたアリスはさらに言い返さずにはいられなくなってしまった。
「刀夜っちて女の子にモテないッスね」
「モテたいなど思わん」
それは嘘だが、この場ではそういうことにしておく。
「そんなことだとリリアちゃんにも愛想つかされるッスよ……」
「いちいちリリアを引き合いに出すな! 彼女は関係ないだろ!」
刀夜はリリアと龍児の一件を思いだして急に腹立たしくなる。モヤモヤとした感情が心のそこから沸き上がると果てしなく気分が悪くなる。
正直いって自己暗示をかけたくなる衝動に刈られるが、発作が起きるわけでもないので使いたくはなかった。そもそもこのような場面で使うのは違うように感じていた。
「な、なんスか……本当は好きあってるくせに。何で素直になれないッスか」
「違う! お、俺は別にリリアの事なんか…………」
刀夜は拳を震わせて何かを耐えている。それを見たアリスは非常にまずいと感じた。彼女が思っている以上に早く刀夜の中で沸き起こるリリアへのわだかまりが強くなっていると感じた。
こうなる気がしたから出かける前に和解するよう勧めたのだが彼はごまかしてそれをしなかった。とはいえ、さすがに抱き合っているシーンに出くわすとはアリスも予想外であった。
――悪魔のイタズラか?
刀夜のような頑固者は特に意固地になる志向が強いことをアリスは人生経験で理解している。そしてこうなると和解も非常に難しいことも……
「はぁー……」アリスは大きくため息をついた。
『こうなると何かきっかけできるまで様子見しかないッスね……とはいえ長引くと傷が深くなるし……』
気まずい沈黙の中で二人は朝食を済ませた。アリスが用を足しに出ている間、刀夜はテラスに出て周りの様子を伺っていた。
「なんか見えるッスか?」
素っ気ない声で用を済ませたアリスが訪ねる。刀夜はチラリと彼女を見ると冷たい視線を向けられていた。そしてその視線から逃げるように再び外に視線を向ける。
「俺たちが地下水路をたどってきたのは正解みたいだ」
アリスは刀夜の見ている方向に視線を移すとこの城のに続く唯一の入り口の広場に怪獣が二匹もいた。
「か、怪物!?」
羽無しドラゴン、恐竜、ゴジラ……
そう形容しがたいモンスターが徘徊していた。龍児達がシュチトノの街で戦ったドラゴンモドキのベースとなったモンスターである。
魔法は無いものの強力なテイルとブレスは健在である。そして強固な鱗をもつ。
刀夜の持つ拳銃でも対抗できるかどうか。少なくとも鉄鋼弾を数発食らわしても、このモンスターは倒れることはないような気がした。
「あと、アレが気になるな……」
刀夜が視線を変えた先にはドーム球場のような施設が城の横に隣接していた。
「確かになんかありそうッスね……」
こんな異世界に野球をやっているとは思えないし、巨大な温室かも知れない。
「刀夜っち、今日の予定はどうするッスか?」
「そうだな上の階に同じような部屋があったから片っ端からチェックしながら上の階を目指そう」
「了解ッス」
刀夜達は出発の準備を終えると、上の階へと向かった。
◇◇◇◇◇
刀夜達は部屋をいくつか見て回るとついに利用されていたと思われる部屋を見つけた。風化したクローゼット内には同じく風化した衣服がハンガーから落ちている。
机の上に書物が置かれており、それを見つけたアリスが早速興味を持った。しかし、本を手にした瞬間にそれは崩れさってしまう。
「あぁ……貴重な資料が……」
卵であってもそこは賢者。アリスはその書籍に何が書いてあったのか気にしているようだ。崩れた本のページを慎重にめくってみた。
「うーん……なんスか、この文字は読めないッスね……古代文字では無いのは確かのようスけど……」
「なに?」
部屋のなかを物色していた刀夜はアリスの言葉に興味をもった。
「古代文字……帝国文字でない?」
刀夜も近寄ってみてみると文字はかなりかすれていて確かに読めない。アリスによれば古代文字は見つけているだけでも2万字を越えており、解析できている文字は1万字程度らしい。
ゆえにまだ未発見の文字があるかも知れないが、この文字は古代文字とは明らかに字体が異なる。
「そうッス。これは古代文字ではないッス」
刀夜は今にも消え入りそうな文字を目を凝らしてみてみた……
「こ、これは英語の筆記体だ!」
「英語?」
アリスは興味が沸いたらしく、それは何なのかと目を輝かせて尋ねてきた。刀夜は簡単に説明を済ませるが、彼の興味は完全に書物に向いていた。
しかし色褪せて風化している書物の文字を読むのは不可能であった。丁重に保管されていたのならともかく、このように放置されていては仕方のないことである。
「お!」
書物をすっかり刀夜に奪われたアリスは引き出しを物色して面白そうなものを見つけた。
「ど、どした? 何かあったのか?」
刀夜は期待を込めて顔をアリスに向けると、彼女は引き出しから見つけたそれを取り出してニマリと笑った。
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