第348話 古代貨幣の謎
刀夜はさらに奥に並んでいる製造ラインへと赴いた。そこにはすでにアリスがきており、彼女はつまらなさそうにそこに置いてあったコインを手にしてみている。
刀夜も手に取ってみてみると、それは先ほどの再プレス前の金貨であった。
刀夜は装置のライン奥を見て、どのような製造行程なのかと順番に見て回る。
ここのラインは先ほどの装置とは異なり、色々な行程を経由するらしいことは分かる。そして一番初めの位置にくると金貨の元となる金塊や何かの鉱石がゴロゴロと転がっていた。
「複数の金属を使って金貨を作っていたのか。確か金の含有量は通常の金貨より多かったはずだが……」
確かに他の鉱石と違って金塊は山のように積まれている。
「うひょー」
アリスがその山済みとなっている金塊の光景に驚く。
「どうせ取るなら、こっちの金塊のほうが現金化しやすいですよ」
「ホントっスか!?」
古代金貨は換金するのに時間がかかるうえに色々と難点が多いが金塊ならすぐに換金できる。しかし……
アリスは喜んで金塊を手にするが、それはずしりと重くてとても運搬できるような重量ではなかった。
「あーうー、持ち帰れないッス……」
年甲斐もなく泣くアリス。
金塊はアリスの腕よりも大きく、誰がどう見ても持ち運ぶのに不便をきたすほど大きい。事実、それは一本10キロを軽く越えているのだ。ゆえに誰にでも冗談だと分かりそうなものなのだが彼女は真に受けたようだ。
悔しがるアリスを他所目に刀夜は彼女を無視して他のラインも調べ始めた。
結果、他のラインは銀貨と銅貨のであったのだが、それは古代貨幣ではないほうの硬貨だ。
そして壁一面に綺麗に並んでいる貨幣の山、山、山。ぞんざいに扱われていた先ほどの古代金貨とは随分扱いが異なる。
「もしかして、本来の貨幣はこっちなのか?」
――だがしかし、なぜこのような面倒なことをしていたのか?
「と、いうことは古代貨幣は記念貨幣か何かなのか?」
現時点での情報だけではそのぐらいのことしか想像できない。しかし刀夜の何気ないこの推測は当たっており、顔つき貨幣は記念貨幣なのである。そして本来の帝国での流通貨幣は顔無しのほうであった。
両者の金の含有量は同じである。であるから価値としては同等だ。ただ街の人にとって価値があるのは顔ありとなっているため顔無しを持ち帰ってもどう扱われるかは不明だ。
只の金貨とされるか、はたまた珍しい古代金貨として新たな価値が見いだされるかは誰にも分からない。
しかしながらこれがゾルディが言っていた真実なのだろうか?
こんなものが真実のはずが無い――まだ調査は始まったばかりである。ゾルディのいう真実とは別にあるに違いないと刀夜は考えてこの場を後にすることにした。
◇◇◇◇◇
いくつかの何もない部屋を抜けると上へと昇る階段が見えた。階段は床や壁と同様、樹脂のような素材でできている。
しかもどのような構造なのか天井両脇にあるスリットのようなところから光が差し込んでいるのでここも暗くはない。
「すばらしい技術だな……」
思わず感心してしまい、声に出してしまった。刀夜たちのいる城は外からみたかぎり相当な大きさを誇る建物だ。
世界最大と言われるマルボルグ城(ポーランド)など目ではない。そう、某指輪映画にでてくるミナス・ティリス城を思わせるよな城である。
このような奥の部屋や通路、階段に光を取り入れるのはとても難しい。帝国人の並みならぬ技術を刀夜は感じた。
階段を登り、通路を進むと大きな通路へと出た。
その世界観は急にクラシックな印象を受けた。何もないのっぺりとした近未来のような空間から、近代ヨーロッパの大聖堂を思わせるよな場所にでると急に目に飛び込む情報量が増えた。
「これは凄い……まるで映画の世界だ……」
壁や柱、そして天井に調度品に至るまで細かな装飾が施されている。刀夜は回りを警戒することも忘れて通路へとでると360度ぐるりと見回した。そして見とれつつもどんどんと奥へと進む。
「刀夜っち! 刀夜っち! あれ! あれ!」
アリスに肩を叩かれて彼女が指差す方向を見ると銅像のようなものが立っていた。それは人と同じような服を来たリザードマンの姿をしている彫像だ。
しかし後頭部はタコのような頭をしていて不気味なことこの上ない。このようなものを銅像にして通路に飾るなど帝国人の美的感覚はずれていると刀夜は頭が痛くなった。
通路のデザインが素晴らしいと感じるだけに銅像の違和感が凄まじい。
「なんか、どこかで見たな……これ」
刀夜は銅像のリザードマンがどこかで見たような気がした。確かについ最近のはずだ。
「アレっスよ、泊まった部屋で見つけた人形と同じッス」
「あぁ、あれか……」
エイミーへの土産としてまだ刀夜のリュックに入ったままの人形だ。
「流行っていたのか? 文化が違うと言えばそれまでだが……」
人形はディフォルメされているのでキモ可愛いとも言えなくもないが、こんなリアル等身大で作られれば気持ち悪いことここうえない。
文化が異なれば美的感覚も当然異なるのだろうが、だがそれならば街の様子はどうなるだろうか。刀夜達異世界組から見てもここほどの違和感はない。
おそらくマリュークスによって地球文化の影響が大きく働いているのかも知れない。刀夜はそうのように推測した。
その後も刀夜とアリスはゾルディのいう真実に関しそうなものを探した。しかし、何かしら物が置いてあっても、それが何なのか分からないものが多すぎて判断がつかない。そしてあまりにも広すぎる。
「それにしても……」
「……なんスか?」
「先程から全然モンスターを見ていないな」
「確かに全然見てないッス」
「城内部には入ってこれないのかも知れんな」
「だとしたら凄く助かるんスけどね……」
アリスとしては宝石店のような出来事は生きた心地がしないので後免こうむりたい。
「しかし、このまま順番に部屋を見て回っていては何日あっても足りないな」
「そうッスよ……せめてマジックアイテムか書物でもあれば……」
「……では一度上へと登りきって順に下へと探すか」
「へ!?」
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