第346話 帝都の地下水路

「く、くるんじゃなかったッス……」


「今さらもう遅いですよ。約束通り守りますんで引き続き頼みます」


 真っ暗な水路内で魔法のライトの光を灯して視界を確保した。周りが安全であること確認できた二人は瓦礫を椅子代わりにして体力の回復を待った。


 あれからどれだけのモンスターを引き連れて街の中を逃げ回ったことか。


 とはいえモンスターにも相性や天敵というものがあるらしく新たに現れた敵に刀夜を追いかけていたモンスターは追跡を諦めることも多かった。


 だがそうやっていると残るモンスターはしつこい奴か強敵のモンスターばかりとなる。この街で見たモンスターは見覚えのあるものも多いが見知らぬものも多い。


 しかし、どのようなモンスターであれ生き物であるかぎり銃や爆弾の敵ではない。そう一対一ならば……


「まったく、トレインとはよく言ったものだ……」


 刀夜は以前にオンラインゲーム好きなクラスメイトの話を思い出していた。その内容はまさしく先ほど刀夜の経験した内容と瓜二つであり、もう二度と後免被りたいと思った。


 強力な武器を持っていても、こればかりは生きた心地がしない。リアルトレインなど洒落にならない。


 そんな刀夜たちは陥没していた大穴から地下水路へと逃げこむと爆弾で入り口を吹き飛ばして逃げ切ったのだ。ここなら大きな音を立てても再エンカウントする可能性が低い。


 刀夜は背負いリュックから新しい爆弾を取り出して空っぽになった腰のバッグへと補充する。


 しかし、弾薬は当初の予定より早いペースで消耗しており、このままのペースで使うととてもではないが足りなくなる可能性がでてくる。


 そうなる前に一度帰ったほうか良いだろうかと刀夜は判断に迷う。だが、その場合はこの地下水路にポータルゲートを作る必要があり、さすがにこのような場所に出入口を作るのは御免被りたい。


 それに本格的に捜査入るのはもっと奥にある塔のような城だ。帰還したい度にいちいちここまで戻らなくてはならないのは面倒なことこの上ない。


「折角だ。このまま城に向かおう。運がよけりゃモンスターはいないかも知れないし」


 刀夜は立ち上がってリュックを背負う。


「でも、これじゃどの方向が城なのか分からないッスよ?」


 この地下水路は元々下水である。本来ならそのような場所はメタンガスなどが溜まったりするのだが、400年以上使われていないためその危険はない。


 しかも水はちゃんと流れているので溜まった水やゴミの腐敗臭もさほど酷くはない。


 地下水路は全体的にコンクリートのようなものでできており、よほど頑丈なのか通路はドーム状ではなく四角い形状をしていた。しかも400年も経過している割りにはヒビも入っていない辺り現代より高度な代物なのかも知れない。


 ここにくるまでに見た範囲では複雑な構造ではなさそうだった。複雑な経路をとればその分、水の流れが悪くなるので単純な構造だと刀夜は判断した。


「大丈夫だ。俺の頭の中ではちゃんとマッピングできている。こっちだ。いこう」


 刀夜はアリスの返事も待たずに進もうとする。アリスの魔法、ライトの光がなければすぐに漆黒の闇と化するのに。


「あ、まつッスよ!」


 アリスは慌てた立ち上がり刀夜の後を追った。じっとしていても時間と供にやがて腹は減る。マズイ飯でもこんな所で食事などしたくはなかった。


◇◇◇◇◇


 刀夜の逃げ込んできた地下水路にはモンスターは住み着いていなかった。ネズミのような生き物やゴキブリのような生物は多数存在している。


 だがそのような生物は近寄れば皆逃げてゆく。無用な戦いは行わない。これこそが本来の生物の本能であるがモンスターは異なる。そのように作られたゆえんか闘争本能が強い。


 不利とあらば逃げることもあるが基本的には向こうのほうから敵意を持って襲ってくる。


 どれほど歩いたか……


 複雑な構造はしていなかったが、これだけ長いと刀夜の脳内地図もそろそろ怪しくなってくる。


 それに加えて地上との通風口はあっても登って外に出るところが先ほどから全然無いのである。こうなってくると刀夜も焦りが沸いてきた。


 だがそんな彼の目の前にようやく光明の光が差した。壁に梯子が取り付けられて天井には穴が開いており、どうやらここから登れそうであった。


 刀夜の体感ではすでに城内部、もしくはその周辺のにいるはずである。


 方向さえ間違っていなければだが……


「ここから登れそうだな」


「ふえーやっと出口ッスか~」


 アリスは相当疲れたのか今にもしゃがみこんでしまいそうなぐらい屈んで辛そうにした。


 すでにお昼も過ぎており、彼らは腹ペコである。地下水路のような環境であれば病気になりそうな気がして水筒の水すら飲む気にならなかったのだが、これでようやく昼飯が取れる。


 項垂れるアリスの目の前の壁に何か書いてあるのに彼女は気がついた。


「あり? これなんスか?」


 彼女は首をかしげつつ杖の光を近づけた。それを刀夜が覗きこむと確かに何か書いてある。


「何と書いてあるんだ?」


「え? 刀夜っちも読めるしょ」


「俺は古代語は読めん……」


「これ、古代語じゃなくて一般語ッスよ」


「そうなのか?」


 刀夜は帝国にあるものはすべて古代文字かと思い込んでいた。だがよく見てみれば確かにリリアに習った一般語である。


 しかし直筆で書いたのか文字は畝っており、直ぐには読めなかった。ゆえに帝国語かと思いこんでしまった。


「えー、こ、この……う……え……」


「このうえ造幣局……ケルヒアム」


「造幣局?」


 まどろっこしい読み方にアリスがフォローを入れた、しかし、刀夜はなぜ造幣局なのかと首をかしげるが……


「造幣局!!」


 二人して思い出したようにハモってしまう。そう帝国の造幣局と言えば古代金貨である。


 アリスの目は輝き鼻息を荒立てて、先ほどまでの疲れはどこへいったのかと思うほど力強く登ろうとした。刀夜は慌てて彼女を止める。


「まてまて、ちょっと待て!」


「な、なんスか!?」


「登った先がモンスターのコロニーだったらどうする気だ?」


「あ……」


 この縦穴の通路は一人しか登れない。彼女ではモンスターには対抗できないので、先に刀夜が登る必要がある。


 それに……


「それと、ケルヒアムってのはなんだ?」


「ケルヒアム?」


 アリスは自分で言っておきながら、それはなんだという顔をした。そんな彼女に刀夜は呆れた顔で質問しなおす。

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