第345話 リアルトレイン
リビッツとの戦闘を回避し、迂回して城のような建物を目指す刀夜とアリス。広い通りには身を隠す場所がないため家の残骸などを利用しつつ城へと進んだ。
しかし、そこは逆に言えば刀夜達からも視界の悪い場所でもある。瓦礫の影、窓、横通路、どこからモンスターと遭遇するか分かったものではない。
刀夜はみようみまねで警察の特殊部隊かのように遮蔽物を利用して機敏に身を隠しながら慎重に進んだ。
そうそうモンスターと出くわすことはないのだが、かといって油断したころに出くわしてしまうことなどあるあるだ。
またモンスターのコロニーに道を阻まれるので何度も迂回を余儀なくされる。そして今まさにまたモンスターのコロニーに出くわしてしまった。
「そこの家に入って裏から出ていこう」
「了解ッス……」
正直なところなかなか進まないことにアリスは苛立ってきた。刀夜としてはかなりハイペースで進んでいるつもりだ。だが街の敷地が大きすぎて城が遠すぎるのだ。
瓦礫に隣接している円筒形をした建物に入る。入り口は壊れており、中も荒れて酷い。天井に大穴、壁も大穴、全体にひび割れを起こしており早くここから退散したほうがいいだろう。
しかし、中に足を踏み入れたアリスはその足を止めていた。
「ん? どうかしたのか?」
アリスは目を輝かせてその光景に魅了されていた。部屋のなかは長細いテーブルや棚があり、どうもショーケースのようだ。
そこに数々の宝石が散乱しており、アリスはそれに釘付けとなっていた。その表情はご馳走を目の前にした犬のようで、この後の展開が読めた刀夜は嫌そうな顔をした。
さっさとこの場を離れたいがこうなってはきっと彼女は動かないだろう。
「手短にしてくれよ……」
諦め気味に早くするよう促した。
「いいの? やーりぃー」
彼女は素早く背負っていたリュックを降ろし蓋を開けて掻き込むように宝石を入れた。刀夜は先ほどのコロニーのモンスターがやってこないかと入口で見張る。
「刀夜っちは取らないんスか?」
「――興味ない」
素っ気なく答える刀夜にアリスが白い目を送り付けてきた。
「刀夜っちに興味はなくとも、リリアちゃんや家の人に送ってあげないんスか?」
「…………」
「あーダメダメっスね。こゆーチャンスこそ皆に何かしてあげないなんて。普段から沢山お世話になってるのに、気が利かない男は嫌われるッスよ」
「…………」
確かにアリスのいうことも最もではあるが、モンスターの巣窟のど真ん中でそんなこと考えているほうもどうかと刀夜は思う。
しかし確かに色々と手伝ってくれる皆に何かお返しをしたことはあっただろうかと記憶を辿るが何かしてあげた覚えはない。
リリアにも何もしていないなと刀夜はため息をついた。あれだけ自分のために身を粉にして尽くしてくれていたのに、自分は薄情な人間なのだろかと真剣に悩んだ。
――だから見切られた? だから龍児に乗り換えた?
龍児にはリリアを頼むとお願いをした。きっとアイツはその約束を守るだろう。身を呈して守ってくれるその姿はヒーローそのものだ。
女の子にしてみれば王子様のような存在となるだろう。
「ちくしょう!」
刀夜はテーブルにおいてあった宝石を無造作に掴んでポケットに突っ込んだ。
急に龍児に対して嫉妬心が沸き起こるとイライラが止まらなくなってしまう。刀夜は自分でもなぜこんなにイラつくのかと理解できなかった。リリアが龍児と抱きついていた姿を思い出すとますます気分が悪くなる。
アリスはそんな刀夜を横目に彼のイラつき具合を見て良くない傾向だと心配になる。多少はフォローを入れておいたが完全に拭うにはちゃんとリリアと話をしなければならない。なのに彼はそれを怖がっているようだと感じた。
アリスはやれやれといった感じで大きくため息をついた。
そんなときだ刀夜がハッとして振り向くと先ほどのコロニーにいたモンスターが壊れた裏口からこちらを見ていることに気がついた。
一見カピバラのような見た目をしているが鋭そうな前歯は大きく伸びている。確か先ほどリビッツどもが食べていた獲物と同じである。
となれば恐らく強くはないだろうが問題はこのモンスターのコロニーがすぐその裏手にあることだ。
ここに現れたのはその中の一匹だけである。互いに目が合うとモンスターの目つきが変わり刀夜に襲いかかってきた。
慌ててショットガンの引き金を引くと激しい銃声と共にモンスターは吹き飛んだ。壁に叩きつけられ血まみれとなり、ただの肉塊と化とする。
「し、しまった! サイレントの魔法が……」
刀夜は銃に施してあったサイレントの魔法が切れていることに気づかず撃ってしまったことに青ざめた。
「と、刀夜っち……」
アリスもそれはマズイだろうと硬直して宝石を盗んでいた手を止めた。
「くッ、反対から逃げるぞ!!」
「ええー!?」
部屋の中にある宝石はまだまだ山積みであり、これを置いて行くのは勿体ないとアリスは
「命あってのものだのみだろ!」
それはそうだがと未練たらたらの彼女は泣きそうな顔をするが事態に一刻の猶予はなかった。刀夜は愚図るアリスの背を強引に押して出口に向かう。
出口で彼女を押し出すと腰のバックから発煙筒サイズの赤い筒を出した。そして厚紙でできたキャップをポンと外すと、キャップの表を筒の先端にあてがえて身を構える。
元々入ってきた裏口の方からゾゾゾと何かが差し迫る音が地鳴りのように聴こえてくる。そして壊れた裏口から一斉に茶色い物体が土石流の如くなだれ込んできた。
先ほどのモンスターの群衆が雪崩れ込んできたのだ。
刀夜は手にした筒をマッチを擦るようすると筒の先端から火が立ち起こり、発煙筒のように火と煙が立ち上がる。それを敵の集団に投げ捨てた。
「走れ! 全力だ!!」
刀夜とアリスは瓦礫の散乱する表道路を全力で走って逃げた。その直後、背後で凄まじい爆発が起こって爆圧を背中で感じた。
刀夜が投げた爆弾は先ほどの建物をモンスターごと爆破した。ついでに宝石も……
「あうううう……」
いまだ未練が残るアリスが泣きそうな顔をする。だがまだ危険を回避したわけではない。銃声より酷い爆発音は周辺のコロニーのモンスターにはさぞ良く聞こえただろう。
生き延びたカピバラのようなモンスターは怒ったのか執拗に刀夜達を追ってきた。刀夜は追い付かれそうになるとショットガンを放ち蹴散らすが、その度に銃声を上げたしまう。
「ぎゃああああ!!」
アリスが雄叫びを上げた先には猪頭のポークのコロニーが……
「さ、最悪だ……」
当然そのモンスターは敵意剥き出しで刀夜達に迫ってくる。二人は慌てて方向を変えて逃げた!
全力で走るとさすがに全身の痛みを感じずにはいられない。きごちない走りは時折転けそうになるが、命がかかっているので必死に堪えて逃げた。
だがいかに刀夜が頑張ってもモンスターとの距離はどんどん縮まる一方だ。例え刀夜の体に問題がなくともモンスターの速度には敵わない。
刀夜は腰のバックから再び爆弾を取り出して追ってくるポークへと投げつける。轟音と共に空に瓦礫の残骸とモンスターの骸が飛び散る。
「ひいいいいいい!」
「今のうちだ、急げ!」
だがそれはまたモンスターを引き付ける羽目となってしまい、刀夜は次々とモンスターの集団に終われることとなった。
「だずげでぇぇぇぇ!!」
廃墟の帝国都市にアリスの泣き声と爆発音を上げまくり、二人は終わりのない悪夢にさらされることとなった。
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