第344話 朝っぱらからお約束かッ

「うーーーーん、ち、違うんだ皆、こ、これは浮気じゃない……」


 刀夜は悪夢にうなされて目が覚めた。


 しかし、なんという悪夢か、自分がアリスと浮気したと皆から攻められた挙げ句、リリアまで泣かせてしまうとは……


 ――リリアが泣く? なぜ? 彼女は一人立ちして龍児と仲良くやっているではないか……


 そう思うと急に胸が苦しくなる。


 発作ではないが息苦しくもなってきた。


 ――いや、なんか本当に重い! 苦しい!


 刀夜は目を覚まして頭をもたげるとアリスがのし掛かるようにして刀夜の上で寝ていた。


「あ、悪夢の原因はあんたかッ!!」


 しかしながら彼女と密着している辺りが妙に生々しく感じる。不審に思った刀夜は急に嫌な予感がしたのでシーツをめくる。と、そこに現れたのは全裸姿のアリスである。


 しかも自分もなぜか全裸に!


 刀夜のみた悪夢は実は正夢だったのではと青ざめた。


「ちよ、ちょっとアリスさん!!」


「んーーもうちょっとぉ~」


 彼女は寝ぼけた返事を返しながら、刀夜の胸に顔を埋めてスリスリしてくる。彼女の顔の感触がダイレクトに伝わってくる。


「寝ぼけてないで起きてくださいよ!!」


 これ以上はマズイと、刀夜はアリスを激しく揺って強制的に起こしにかかる。


「んーおはにょうッス」


 彼女は寝ぼけまなこで頭をもたげると刀夜の顔を見た。が、心地よい感触をもっと味わいたいとばかりに今度は体をくねらせてくる。


「おはようじゃないだろ! なんで裸なんですかッ! しかも俺まで!」


「えー?」


 アリスは上半身を起こして自分の体を見ると刀夜の言うとおり裸となっていた。そして刀夜のほうを見れば彼も全裸となっている。


 ようやく状況を理解したアリスは「やっちまった」とひきつった作り笑顔で誤魔化す。


「アハハ……あ、あたし寝相悪いから……」


 刀夜としては寝相が悪いとどうして互いに全裸になれるのかと突っ込みを入れたいところだ。


「百歩譲ったとしても、なんで俺まで裸にされてるんですか! 変なことしてないでしょうね!!」


「え!?」


 アリスもまさかといった顔をするので、刀夜は余計に不安に刈られた。アリスは毛布の中でも何やらモゾモゾとし始める。


「んッー」


 すっとぼけた顔で刀夜から視線を反らしながら確認した。


「うん、多分大丈夫ッスよ」


「多分!?」


 アリスは自分の指をクンクンと嗅いだ。


「うん。絶対大丈夫ッス」


「嗅ぐなよ! 生々しい!!」


 しかし、わざわざ確認したということは彼女はまったく覚えてないということになる。普通、やってしまったら分かるものじゃないのかと刀夜は疑いの目を向けた。


 無意識に既成事実など作られたらたまったものではない。


 刀夜は先日の一件で拓真の態度が疎遠になった理由を分かったつもりでいたが早々に訂正することにした。拓真がアリスを遠ざけた本当の理由を今知ったと。


「まったく、どう寝相が悪ければ相手を裸に剥けるんだ……」


 すでに朝日は昇っており、うっすらと開けていた窓から朝日が差し込む。外は調査にうってつけの晴天だ。


 ここでの調査にかけれる時間は有限なので二人は急いで着替えて準備を始める。


 こんなところをモンスターに襲われたらたまったものではない。なんのために装備を着けたまま寝たと思っているのかと不満が刀夜の口から漏れる。


 朝食もさっさと済ませて、早期警戒の罠を回収すると二人は家を後にした。


◇◇◇◇◇


 外に出れば早速、モンスターを発見する。背の低い餓鬼のようなモンスターである。リビッツの集団だ。恐らくここもシュチトノのようにモンスターは群れでコロニーを形成しているのだろうと刀夜は推測する。


 見つからないように隠れて様子を伺うと連中は食事中のようだ。見たこともない小型の獣を食べている。連中が手にしているあれもモンスターなのだろうか?


 モンスターがモンスターを食べるのかと刀夜の興味を引かれたが連中に見つかっては元も子もない。


「20匹以上いるッスね」


「ちょっと数が多いな……」


「でもその武器があれば無敵じゃないスか」


 アリスは刀夜のリュックの両脇に差しているショットガンを指差した。


 実際に使ってみたときのインパクトが良かったのか彼女はショットガンを気に入ったようだ。だがそれを過信されても困るのである。


「銃は強力だが無敵じゃない。弾の装填やジャム、弾薬数などの機構的な欠点は多い。過信するとひどい目に合う」


「そんなもんなんスか……」


 それらは事前に説明してあったが、彼女はもう忘れているようであった。


「だからできるだけ戦わずに、ここは迂回して進もう」


「了解ッス!」


 刀夜達は瓦礫に隠れて身を屈めて移動を始めた。


「ぶへッ!」


 豚のような奇っ怪な声が聞こえた。


 刀夜は突如の声のもとに振り向けばアリスが瓦礫に足を取られて転けている。なんというお約束かと刀夜はアリスを睨つつ呆れる。


 そしてリビッツ達のほうをチラリと見ると全員と目が合ってしまった。


「やむを得ない。戦闘体制!」


 刀夜はショットガンを構える。


「ご、ごめん刀夜っち」


「謝るのは後、練習したとおりお願いします」


「り、了解ッス!」


 一切にリビッツが走ってこちらに向かってくる。刀夜は引き金を引くと不思議な感覚に陥った。


 ショットガンからはいつもとおりの反動と硝煙の臭いはするが銃声の音がしない。サイレントの魔法が効いているからだ。


 音がしないと本当に弾が出ているのかと疑いたくなるのだ。だが放たれた散弾は広範囲に広がり、密集していた三匹が一斉に血祭りとなった。


 地面に当たった弾は跳ねて砂煙を上げる。


 刀夜は真っ先に密集している敵を狙ってトリガーを低く。刀夜達と違い隠れる場所のないリビッツたちが次々と倒れた。


 しかし、あっという間に全弾8発を打ち尽くしてしまうこととなる。


「リロードっ!」


 刀夜はアリスに使い終わったショットガンを渡してもう一丁のショットガンを構えた。近寄れないリビッツはこのままではなぶり殺しに合うと悟り、クロスボウガンによる反撃を試みた。


 とっさに瓦礫の壁に隠れるとカツンと壁に矢が当たる音がする。刀夜が隠れている間にリビッツは大きく展開して瓦礫に隠れようとする。


 させまいと刀夜がトリガーを引くと相手が吹き飛ぶ。


「チッ、逃げてくれればいいのに」


「装填できたッス」


 アリスは渡されたショットガンに弾を積めこんで刀夜の目の前の壁にたてかけた。


 刀夜はこのような数の多い集団戦となった場合を想定して互いに役割を決めていた。刀夜が攻撃、アリスが補給とケガした場合の回復役である。


 魔法は極力使わず万が一のために温存しておく方針だ。


「敵は散開して回りこんでこちらにくるつもりだ。ここを放棄して別ルートを探そう」


「了解ッス」


 刀夜とアリスは崩れた壁沿いにこの場から逃げた。

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