第343話 二人だけの帝都宿泊
日が落ちそうなので刀夜はランタンに火を灯して寝室へと戻った。すると寝室は刀夜の予想を上回って綺麗になっていることに驚かされた。
「凄いな。アレだけあったチリが殆んど無くなっているじゃないか」
これならば喘息や病気にならずに済みそうだと刀夜は安心した。そして手を叩いて彼女を褒め称える。
「まぁ、あたしだってやればこんなもんッスよ」
アリスは照れながらも自慢げにする。
「しかし、なぜ離れていたはずのベッドがくっついている?」
「あれぇーどうしてかなー不思議ッスねっ!」
彼女は頭をかきながら目を反らしてごまかそうとするが、ごまかせるレベルではない。
400年もずっと置きっぱなしだったベッドを動かせば床にくっきりと後が残る。どういう神経でこれをごまかそうと思うのか、開き直ってくれるほうがまだやりやすい。
「ごまかすな!」
刀夜は寄せられたベッドを元に戻そうと押しにかかろうとすと、アリスがすがりつき引き留めた。
「いややー! うちを一人で寝かせるつもり!!」
「なぜ関西弁になる!?」
「あたしかて女性やで、こないなモンスターの巣窟で一人で寝るやなんて怖いやんか!」
「だから、なぜ関西弁!?」
捨てられた子犬のように瞳を潤ませて懇願する彼女に刀夜は心は痛める。
確かに彼女は年上ではあるが女性だ。なのに帝都に行くから来てほしいという無茶な要求に彼女は答えてくれている。男ですら躊躇するようなモンスターの巣窟のど真ん中へとである。
もし彼女が帰るなどと言い出されたら刀夜としては非常に困る。それに加えて彼女を守ると言った手前もあるので刀夜は折れることにした。
とても嫌そうな顔で……
「わかりました。でも変なことはしないでくださいよ」
一応念のために釘をさしておくとアリスはウンウンと頷く。その後、刀夜は早期警戒の罠を仕かけるとスープと干し肉だけという夕飯にありついた。
食後にのんびりしているとアリスはどこからとなく人形を取り出してくる。
「ん? それは?」
「どうも人形みたいッス。掃除していたら出てきたッスよ。多分だけどここは子供部屋じゃないスかね。もう一個あるッス」
そういって彼女は刀夜に人形を投げ渡した。
400年前のものにしては随分と綺麗だ。普通なら風化していても良いはずなのだが、これも帝国の技術力というところだろうか。
大きさは30センチほどの三頭身ディフォルメ人形だが、そのデザインはトカゲ人間にタコ頭とずいぶん変わっている。はっきり言って不細工だ。
「可愛いかこれ?」
「ずっと見てると可愛く見えてくるッスよ」
「ブサかわいいというやつか……」
アリスは気に入っているのか、より大きな人形を抱き締めている。いっそのこと自分の代わりにその人形を抱いて寝てくれないかと思うのだった。
「帝国の人形ならエイミィちゃん気に入るんじゃないっスか?」
「ん……? ふむ、ゾルディの影響受けてあの娘が喜ぶと?」
「いや、わ、悪い意味じゃないっスよ……」
「分かっているさ、でも確かに喜ぶかも知れない」
刀夜は自分のリュックに詰め込もうとするが……入りそうにない。毛布を取り出して空いたスペースに積めこんだ。
「ところで明日からの予定はどうするッスか?」
アリスとの事前の打ち合わせではここに来るまではそれなりに目標を決めていた。しかし首都の情報が無いため現地では現場を見てから決めることにしていた。
「中央にあるお城のような棟を目指す」
「やっぱりそっちッスか。目立っていかにもって感じッスよね」
「それもあるが、あそこはどう見ても帝国を治めていた統治機構の本部だろ。ゾルディがその手の研究機関出身であると自己紹介していたからな」
「なるほどッスね」
「よし、目標も決まったし明日に向けて早く寝るか」
「そうッスね!」
アリスはポイポイとあっという間に服を脱ぎ捨てると全裸となって毛布にくるまると早く隣にこいとベッドを叩いた。刀夜はそんな様子に白い目を送る。
「……なぜ脱いだ?」
「ええー? だって一緒に寝てくれるっていったじゃないッスか……」
「添い寝はするが服を脱ぐ必要はなかろう」
「えー、だってあたしは寝るときは何も着ないッスよ!」
「ふーん。じゃあモンスターに襲われたとき、アリスさんは全裸で逃げるんですね。俺は構いませんが」
「…………そ、それはいやッス……」
「じゃあ、早く服を着て下さいよ」
彼女の寝相が悪いのは先日の一件で明白である。またあんな姿を見せられたら耐えられそうにない。無論理性で手をだすようなことはしないだろうが、じっくりと観賞してしまうぐらいのことはしてしまうかも知れない。
アリスは渋々と先ほど着ていた服を再び着用する。刀夜は彼女が着替え終わるのを確認するとランタンの光を落とした。
ベッドに横になって毛布にくるまると、アリスに背中を向けるようにする。
女の人と一緒にベッドに入っている。そのシチュエーションだけでも心臓が爆発しそうなのだ。恥ずかしくて彼女の顔など見れない。
するとアリスが早速、背後から抱きついてきた。しかし、今回は釘をさしておいたせいかベタベタとさまぐってきたりはしてこない。刀夜は安心して睡眠欲に身を任せた……
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