第342話 いざ帝都侵入

 刀夜達は帝都の防壁の門を潜った。防壁は高く15mとピエルバルグの防壁より5メートルも高い。しかも石材ではなくコンクリートのような代物でできている。


 そして不思議なことに400年も放置されているはずなのに苔などで覆われている様子もない。時が経って多少は汚れてはいるが風化していようには見えなかった。傷が付いている場所は巨人兵との戦いの後だろう。


 掘りはない。ないというか、それらしい幅の広い大きな窪みが防壁に沿って都市を囲むように存在している。元々堀があったのかも知れないが今ではすっかり埋まってしまって只の草の生い茂った窪みと化していた


 刀夜は壊れた門へと近づいてみると、驚いたことに多重スライド形式で左右に開くタイプの門となっている。しかも高さは8メートルはあり、他の街の門とは大きく異なる。


 このような重たい扉をスライドでどうやって動かしていたのかだろうかと疑問が沸いた。


「すごいな。動力はどうなっている? まさか人力ではあるまい」


「魔法文明ってだけあって魔法じゃないんスか?」


 刀夜とアリスの興味は尽きない。その場を後にして首都の中へと歩いて侵入する。


「うひゃ~」


 アリスが驚くのは無理もない。中は広大であり、ピエルバルグなど比べ物にならない。


 面白いのは地形が存在する。今までの街はみんな平らな土地であったが、ここは中央の棟に行くにつれて少しづつ地面が坂道となっていて丘のようになっている。


 その緩やかな斜面に沿って壊れた家が建て並んでいいた。


「家? 家なんスよねこれ……」


 民家らしき家はこれまでの街とは異なっており、球体だの円盤型、キノコ型のような単純な形をしたブロックで形成されており、まるで子供が積み木の入った玩具箱をひっくり返したかのようになっている。


 芸術を求めるような現代建築家も卒倒しそうなデザインだ。しかも色はパステル調などと目が痛い。


「あたしの師匠の家も大概ッスけど、これはまた凄いッスね」


「まったくだな。また別世界へと飛ばされたのかと思えてくる」


 風景に圧倒されて呆然とする刀夜だが、そのときアリスが叫んだ。


「あ! 人ッス」


「なに!?」


 こんな廃墟の街に人がいるのかと疑問に思うが、本当に人がいるのなら大事件である。アリスの指差す方向に目を凝らせば確かに人影のようなものが複数蠢いていた。


 すかさず双眼鏡を取り出して確認する。


「…………残念だがあれはゴルゾンだな。人じゃない」


 刀夜の回答にアリスは残念に思うと項垂れた。やはり街にはモンスターが徘徊していたのだ。分かってはいたが、そうであって欲しくないという気持ちもあった。


「いったん建物に隠れてやり過ごそう」


「そうッスね」


 アリスは同感だと返事をすると刀夜は脇のホルスターからリボルバー拳銃を抜いた。建物の中にもモンスターがいる可能性はあるのだ。


 アリスは刀夜の拳銃にサイレント魔法を施す。拳銃の発泡音を殺すためだ。こうしないと音に釣られて他のモンスターが寄ってくる可能性があった。


 家の壁を触ってみると使われている素材は全く分からない未知の代物だ。見た目、表面はざらざらなのに触ったらつるつる素材である。


 扉に耳を当て中の音を確認したが何も聞こえはしなかった。扉を引き、静かにすばやく入ると銃を向けながら辺りを警戒した。


 続いてアリスが大事そうに杖を両手でしっかりと握りしめながら恐る恐る入ってきた。


 部屋は玄関ホールなのような場所だった。家の外見同様、文化が違いすぎて何の部屋なのか、置いてあるものがなんなのか想像もつかないものばかりだ。


 それらがまるで地震にでもあったかのように床に散乱している。壁もひび割れて穴が空いている所もある。巨人兵が暴れまわったせいなのだろう。


 各部屋を見て回ってみたが敵はいない。しかし、それぞれの部屋が何に使われていたさっぱり分からない辺り、これこそ異文明だと感じた。


 二階に上がる階段を見つけて上へと移動する。


 再び警戒して各部屋を見て回ると、どうやらこの辺りは寝室らしいことが分かる。窓から差し込む光はオレンジ色をおびて日が暮れだしていた。


「もう日が暮れる。今日はここに泊まろう」


「そ、そうッスね」


「とはいえこのチリホコリはどうしたものか……」


 部屋の中とはいえ400年も立てばその量足るや凄まじいものだ。


 刀夜は期待を込めて熱視線をアリスに送った。視線を向けられたアリスは『やはりか』と大きくため息をついた。


「まぁ、大雑把で良いなら2つ3つ魔法を組み合わせて可能っスよ……」


 無論、掃除系の魔法で部屋を掃除することをいっている。だが魔法による掃除はきめ細かい部分にまでは行き着かない。


「ではお願いします」


 元来魔法とはこのようなためにあるとはリリアの口癖だ。ここまで想定していたわけでは無かったのだが刀夜は彼女を連れてきて良かったと思った。


 刀夜は掃除が終わるまでの間、まだ日の光があるうちに各部屋を物色し始める。最初に確認したとおり寝室以外はよく分からない部屋をばかりだ。


 キッチンや風呂、トイレぐらいは分かってしかるべき形をとっていると思っていたがこれは予想外であった。


 それでもあちらこちら物色してみる。しかし調べれば調べるほど疑念が沸いてくる。図書館の文献によれば人類は一度滅亡している。正確にはしかけたが正しいだろう。


 マリュークスは生き延びた人類をまとめあげ今を築いた。彼は日本人だと思われるので街の様子が今のような文明になるのはまだ分からないでもない。


 だが元々の帝国の文明はここにあるように完全に異質だ。全滅しかけたことで文明ロストを引き起こしたとしても果たしてここまで前の文明を綺麗さっぱり忘れるものだろうか?


 その謎も帝国の魔女ゾルディのいう真実とやらに含まれるのだろうか?

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