第339話 帝都到着
刀夜達がシュチトノの街を出て二日目の朝。
「ぶへっ!」
豚の鳴き声ような音で刀夜は目を覚ました。
生い茂った新緑の葉っぱの隙間から朝日が溢れる。実に清々しいはずの朝なのに豚の鳴き声が目覚まし代わりとはと嘆かわしく感じた。
刀夜は振り向いて声のしたほうをみるとアリスがハンモックから落ちて地面にのめり込んでいる。顔面から落ちたらしく鼻血をだしてビイビイ泣いていた。
それだけの元気があれば大丈夫だろう。事実、そのあとに彼女はすぐに自分でヒールを施していた。
とは言え、5メートルほどの高さから落ちたらさぞ痛かったことであろう。
「大丈夫ですか? 大丈夫ですね」
一応気遣って素っ気なく簡潔に心配してみるふりをする。
刀夜たちは大きな木の枝の間にハンモックで寝ていた。地面の上で寝ていると虫などに襲われるからだ。
あと申し訳程度のモンスター対策もかねている。とはいえそればかりは相手しだいだが……
地面で寝るならモンスター対策として本来なら交代で警戒して休むところだが、アリスが却下したのでこのようなことになった。
ハンモックから落ちたのは彼女の寝相が悪いからだ。自業自得と言えよう。
朝食を済ませて再び首都へ向けて突き進む。進めば進むほど敵とのエンカウントが増える。つど刀夜の銃から火が吹くと敵を血祭りにあげた。
やがてそんな刀夜達の目の前に帝都の姿が見えてきた。まだはるか先だが、それだけ巨大な都市ということだ。
ここから見てもピエルバルグの街の規模などとは比べ物にならない。
巨大な防壁に囲まれているので町並みは見えないが、中央の小高い丘に巨大な棟のようなお城が天高くそびえ立っているのが見える。
「お城……なのか!?」
某鼠王国のような天に長細い建物だが、デザインは未来的でその手のお城でもない。刀夜は何とも形容しがたいその建物を未来技術で建てた鼠城としか説明できなかった。
「なぜだろう、あれぐらいぶっ飛んでいる建物を見たら、『ああ、ここは異世界なんだな』とすごく実感して納得できる。そのことに妙に安心感が沸くのだが……」
「なんで、そんな変な目であたしを見んるっスか?」
「いや、別に……」
「むキー、なんか侮辱されたような気がするっス!」
「気のせいですよ。気のせい」
アリスをみて宇宙人っぽくないなどと口が裂けても言えない。
◇◇◇◇◇◇
さらに帝都に近づくと進行方向にゴルソンがたむろしている。
刀夜は脇のホルスターからリボルバーを取り出した。そしてモンスターをサクっと鉄鋼弾で片付ける。
ゴルソンの硬い甲殻も鉄鋼弾の前では紙くず同然であった。銃は遠距離攻撃を持たない敵に関しては無類なき威力を発揮する。
あのDWウルフやトレンチでさえ難なく倒してしまう。むしろ飛び道具を使ってくるリビッツやエアロクルーパーのほうが厄介なほどだ。
ただモンスターの大半は集団で襲ってくるので毎回油断はできない。馬の機動力と併用しての強さだ。その事を忘れては後でしっぺ返しを食らうと刀夜は肝に命じた。
視界に捉えていた防壁はどんどんと大きくなる。辺りは元々畑だったと思われるほど平坦でだだ広く、草が鬱蒼と生えていた。
そして防壁を見上げれるほど近づくと、それは今までの中で一番大きい防壁であった。
高さは10メートルをはるかに越えている。しかも他の街の防壁は石材ブロックを積んだものだが、ここのは防壁はまるでコンクリートのようだった。
「凄いな。明らかに他の街と技術力が違う。どうしてだ?」
「確か文献によると他の街は生き延びた人類が再生した街だからッスよ。元々はここと同じような壁だったス。戦争時に巨人兵に尽く壊されたらしいっス」
それならばなぜ帝都の壁は壊されていないのだろうか……
刀夜がそのように疑問を抱いたが、その答えは入り口に着くと理解できた。大きく開かれた入り口が壊れている。他の街の入り口はトンネルのようになっているが、ここの入り口は天井がない。
手間のかかる壁を壊すより、門を潰して侵入した方が早かったのだろう。
「ここからは、いよいよ帝都内部っスね!」
「そうだな、ここからは馬は連れてゆけないな」
「やっぱり返しちゃうんスか?」
「仕方がない。連れて行けば間違いなくモンスターに殺されるし、俺たちの足かせになってしまう」
「仕方がないっスね……」
馬に荷物を持たせるほうが楽ではあるが、刀夜のいうことはもっともなのでここで馬とはお別れとなった。
馬から装備を下ろして自分達で背負う。馬の尻を叩けば馬たちはシュチトノの街へと走っていった。
迷わず帰れると良いのだが……そう願いつつ刀夜達は帝都の門をくぐった。
いよいよ帝都探索の開始である。ここはこの世界が始まった中心地といっても過言ではない。
ボドルド達はこの地舞い降りて一体何をしたのか?
そしてその後に何をしょうとしていたのか?
それらが分かれば帰還への交渉の材料となる可能性はある。望むものがあるなら与える。やりたいことがあるなら手伝う。話が通じるなら交渉の余地はあるはずなのである。
だが気になるのはゾルディのいう真実とやらだ。相手は帝国を滅ぼして人類滅亡へと追いやるほどの性格だ。まともとは言えない。必ず理由があるはずだ。
なぜそのようなことになってしまったのか、これも正確に知っておく必要がある。
下手な交渉で帝国の二の舞になるのは御免被りたいものだ。ゆえに確実な情報が必要だった。
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