第338話 いざ帝都へ

 刀夜は宿屋に戻るとすぐさま荷物の準備を行う。内心かなり怒っているようで、彼は乱暴に荷造りをしている。


 アリスはそんな彼になんと声をかけてよいか分からなかった。


「ポータルゲートの設置状況は?」


 沈黙を破って刀夜のほうから声をかけてきた。


「……もう済ませてあるッスよ。家とはもう行き来できるッス。いったん戻りたいスか?」


「いや、確認しただけだ……」


 一度ここを出たら帝都でポータルゲートを作るまでは帰ってこれない。そして帝都はモンスターの巣窟である。街の地図もない、まったく未知の領域なのだ。


 緊張感が漂い、何度も持ち物をチェックする。それを馬に乗せて二人は砦を後にした。


 刀夜は一度振り向き、リリアに想いを馳せる。結局わだかまりを残したままシュチトノを後にすこととなってしまった。


 街を出て防壁に沿って迂回すると、進路を南へと向ける。


 街が徐々に小さくなってゆく……


◇◇◇◇◇


 刀夜たちはシュチトノをでてお昼を済ませると、さらに南へと向かう。


「刀夜っち? 今さらだけど護衛は本当に大丈夫ッスか?」


 アリスはリリアの一件がどうにも気になるのだが、刀夜を止めることもできなかった。こうなっては仕方がないと気持ちを切り替えることにした。


 これから先は死と隣り合わせのような世界だ。気を引き締めていかないとあっという間に天の人となってしまう。


 アリスは攻撃呪文を持ってはいるが、いざ戦闘となった場合は守ってもらわないと使えない。戦いに至ってはド素人なのだから戦力と思ってもらっては困る。


 刀夜は彼女を誘うに辺り、しっかり護衛することを約束していた。彼女の信頼を得るためにも銃器と火薬の説明はしてある。しかしアリスは実際にその威力を見たことがないので半信半疑なのだ。


「その火薬って武器はどれほど物なんスか? 説明じゃあ対巨人向けってことだけは聞いたっスけど、ピントこないっスよ」


 刀夜は背中に背負っていたショットガンを取り出してみせた。


「じゃあ、ちょと試してみようか」


「え?」


 刀夜がショットガンを進行方向右側、草原の向こうに向けて構えてみせる。つられてアリスがその先を見てみると小型のモンスターの集団がやってきていた。


「ちょ、あれはエアロクルーパーっスよ! 10匹以上はいるッス!!」


 アリスはいつの間に迫っていたのかと驚き、杖を構えて戦闘体制にはいる。中型犬のような大きさで茶色い毛並み、リスのように黒い縦縞が背中に流れている。


 顔は蟻食いの口が短い感じでひょっとこのように口を尖らしている。見た目はひょうきんで愛嬌があるが、この口からは溶解液を飛ばしてくるので大変危険なモンスターである。


 刀夜達をめがけて大地をかけて迫ってくる。先頭集団が大きくジャンプして手足を四方に広げるとまるでモモンガのように空を滑空してきた。


「きたッス!!」


 アリスが呪文を唱えようとしたとき銃口が火を吹いた。


 ガン! ガン! ガン!


 白煙を上げて対人用の30発弾の弾が飛び散る。モンスターとは距離があるので威力はかなり落ちるがその分飛び散る範囲は大きくなるので命中率は上がる。


 滑空することで表面積が小さくなってはいるが30発もの弾が目に見えぬ速度で飛んでくれば敵も回避できない。


 あっという間に先頭の三匹が血祭りになった。アリスは大きな音にも驚いたがその威力にも驚かされる。


 離れた距離から一撃で敵を倒したその事実にこれなら刀夜が一人で十分ともいうのも頷けると納得した。


 しかし、そんな銃にも欠点はある。


 刀夜は肩からかけているガンベルトから散弾を三発抜いて急いで装填した。


 そう、装弾数と装填時間である。


 刀夜は大量に弾薬を持ってきているので弾数は問題ない。問題なのは装弾数と装填時間である。


 ショットガンの装填可能数は8発。対して敵の数はいまだ10匹以上だ。隙あらば即装填しないと間に合わなくなる。


「アリスさん、馬の速度はこのまま、敵を回り込むようにして距離を保って下さい。そしてそのまま南へ!」


「わ、分かったッス」


 回り込んだせいで距離が縮まると刀夜のショットガンが火を吹く。次の集団の6匹が蜂の巣となる。


 即、装填! 2発装填できた。


 すかさず連続でトリガーを引くと弾切れとなる。しかしこの頃には敵の集団を回避して、馬は南へと向かい敵とは距離が開く。


 刀夜は慌てず装填を完了すると残った敵を血祭りにあげた。同時に馬を止めて一方的に虐殺された後を目にする。


「うひゃ~、豪語するだけのことはあるッスね」


 アリスはあまりの威力に目を丸くした。


「アリスさん……事前にも説明しましたが……」


「分かってるッス。みなまでいうなッス。確かにこれは秘密にしたほうがいいッスね」


 この武器がいかに人類の驚異になるか、攻撃魔法を扱えるアリスは理解した。


 攻撃魔法だけでも驚異なのに素質もなく訓練もなく誰でも攻撃魔法以上の武器を手に入れたら……想像しただけでも恐ろしい。


 つくづく刀夜や拓真は異世界人なのだと彼女は思い知らされた。


「じゃ、あたしは大船に乗ったつもりでいるから、そこんとこ宜しくッス」


「一応、警戒くらいはして下さいよ……」


 二人は再び進路を南へととった。


「しかし、刀夜っち。その武器には大きな問題があるッス」


 刀夜はどれのことをいっているだろうかと首をかしげる。何しろ刀夜から言わせれば問題だらけだからだ。刀夜が首を傾げたのでアリスは指摘した。


「音ッスよ。帝都の中でそんな大きな音を立てたら敵が寄ってくるッスよ?」


「ええ、ですから向こうに着いたらサイレントの魔法支援をお願いしますね」


「…………」


 分かっているなら先に説明をしておいてくれとアリスは膨れる。

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