第329話 クローン
刀夜はまだ回復しきっていない体で自警団の研究室へと赴いた。アイリーンに許可をもらって葵と颯太と共に重々しい厳重な警備を抜けて研究所へと入る。
研究所内にはブランとアイギスそして3警副分団長クレイスが揃っており、今回の問題の調査に医療魔術師マスカーが担当していた。
刀夜は問題となっていた装置の前に立つと円筒の窓から中を覗いた。
舌打ちをして嫌悪感を顕わにする。
当然だ自分と同じ顔の生物と面と向かい合って良い気分になどなるはずがない。
「クローンだな」
刀夜は腹だしい感情を抑えてボソリと呟いた。確証はない。実在するクローンなど牛や羊ぐらしか知らない。それもニュースでやっているのをテレビで見ただけだ。
だが目の前に自分そっくりなものがあるとしたらそれしか思いつかない。ファンタジーものにドッペルゲンガーという怪物がいるがそれはあまりにも現実的ではない。
もっとも現実的でないといえばマナや魔法はどう解釈するのかという疑問もあるが、現実的に可能な解としてはクローンとしか断定せざるを得ない。
「だよなー目の前に同じ顔が二つもあればそうとしか思えんわ」
颯太は交互に指を差して同意見だと述べたが刀夜にとっては不快極まりないことだ。
「最も一方はCHになっちゃったけどな」
「颯太!!」
葵が怒ってカラカラと笑う颯太の頭をはたいた。それはもう後頭部へ見事な角度と速度の突っ込みであった。平手で無くスリッパであればなお良しと言いたいところだ。
「この間から言ってるそれは何だ?」
刀夜はどうにも不快感しかわかない謎の記号について尋ねた。
「知る必要ないよ。ろくでもなから無視して聞き流して」
葵はバカバカしいと腕を組んで無視することを刀夜に進めた。
「ふ、これは俺の海で男の海なんだぜ」
再び葵から突っ込みパンチが飛ぶ。
「あたしからも聞いていいか? そのクローンというのは何だ?」
クレイスからの質問だが、当然この世界の人々は知るはずもない。刀夜は面倒なのでざっくりとした説明で済ませた。
細かく説明すれば『それは何だ』『これは何だ』の応酬となり話が進まなくなるだろう。
「つまりこれは刀夜さんの生体組織から複製したものなのですね」
極めて勤勉で医療魔術師をやっているだけあるマスカーの理解は早い。
「そういうことだ。しかし、こんな短期でクローンを作れるものなだろうか?」
「可能かも知れませんね。私たちの使う回復魔法はその細胞を活性化させて自然治癒を加速させて治しているものならば……しかし個体まるごととは想像もしてませんでした。これは凄い技術ですよ……ってスミマセン」
マスカーは刀夜への配慮が足りなかったと謝った。だが刀夜は気にしていないとだけ返事をかえした。
「それより、これはまだ生きているのか?」
「はい、どうやら一定温度以下になると活動を停止するようですね」
「それがこの装置というわけか」
刀夜はしげしげと装置を見まわした。伸びている細いパイプは熱くなっている恐らく冷却媒体が流れているのだろう。
それが筒下に配管されており、フィンのようなものに繋がっている。そして今度は反対側から出てゆくと元の装置へと戻っていた。
「ふむ。気化冷却を使っているのか」
早い話がこれは冷蔵庫でありクーラーというわけだ。そして媒体の圧縮動力は魔法で補っているというわけだ。
刀夜の呟きに興味をそそられたマスカーからそれは何かと質問攻めにあってしまった。せっかくクローンの件を回避したのに元の木阿弥であった。
「これは今後どうするのだ?」刀夜が尋ねた。
「そうですね証拠品なのでこのまま保存ですかね。わたしとしては是非とも解剖して調査したのですが…………あ、スミマセン……」
またしても本人の前で失言であった。自分と同じ顔、同じ体の生命体を本人の前で解剖したいなどと言われては良い気はしない。
しかし合成獣といいクローンといい一体どこまで技術レベルが高いのかと刀夜は教団に、そしてボドルドに脅威を感じずにはいられなかった。
この世界に流されて出会うもの見るものすべてが中世や近代のミックス文化。
この世界はその程度の技術レベルかと錯覚していたがそもそも良く考えてみれば刀夜達はすでに出会っていたのだ。
転送された教室を囲んでいた金属のチューブ。破裂して壊れていたが明らかに現代技術レベル以上の技術で作られている。
刀夜はゾルディの言葉を思い出した。すべての真実は帝国首都ピエルバルグにあると。
「やはり……これは一度赴く必要があるな……」
刀夜は帝国首都ピエルバルグへと向かう必要があると感じた。そしてそのためには是非ともあの人に同行してもらわなくてはならなかった。
元の世界に戻る為にはボドルドに会う必要がある。そして話を有利に持ってい行くにはボドルドに関する情報が必要だ。
彼の過去を良く知っておく必要があるだろう。刀夜は帝国首都ピエルバルグへと向かうことを決めるのであった。
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