第326話 フラペティ・バックス2
「ボドルド様の脅威!
フラペティの両腕に宿る凶刃がリリアを襲う。
防御!
間に合わない!
――刀夜様!
リリアの脳裏に死が過った。だがリリアを襲ったはずのフラペティは突如大きな衝撃を受けて横へと飛ばされる。
「え?」
リリアは何が起きたのかと目を丸くした。あと数センチ、あとコンマ何秒で切り裂かれていた。彼女は思わず腰を抜かしてへたり込んでしまう。
「リリアには指一本たりとも触れさせねぇぜ! この変態トカゲ野郎!」
声の主は龍児だ。
だが彼は到底リリアの元には届かない場所で仁王立ちしている。両腕を腰に当てがい、してやったぜとばかりに鼻息を荒立てていた。
そして彼女は疑問に思う――彼の剣はどこ?
リリアは恐る恐る吹き飛んだフラペティを見ると彼は龍児の剣の下敷きとなっていた。
つまり龍児は間に合わないとみてバスターソードを投げつけたのだ。リリアの目と鼻の先に……
助けられたことにお礼を言うべきか、危ないと怒るべきか彼女は悩んだ。だがともあれ命は助かった。
「じ、じ、自分の愛剣を投げ捨てるとは貴方にはモノに対する愛でる心というものがないのですかッ!」
「やかましぃ! オメーに言われたくはないわっ!」
どうにも緊張感がそがれる相手に龍児の調子は崩されっぱなしである。しかし、この敵がいままで出会った中で2番目に強い敵であることには変わりない。
下手をすれば巨人兵よりも厄介かも知れない。何しろ攻撃がまったく当たる気がしない。このままではジリ貧であることは確実だ。
龍児は背負っている野太刀に手をかけた。
「遅いデェーーーーッス」
「げッ!?」
あっという間に間合いを詰めて刀を抜く暇など与えない。龍児はまだ速度が上がるのかとゾッとして血の気が引いた。
フラペティの振りかざした狂鎌が龍児を襲う。
「私を忘れてもらっては困るな」
レイラの剣が素早く割り込んで攻撃を
鋭い剣さばきに合わせて真っ赤な三つ編みが踊る。
肩の痛みを忘れるほど集中力を高めて的確に敵の急所を狙った。矢継ぎ早に襲ってくる剣にフラペティは防戦一方とならざるを得ない。
その間に龍児はチャンスだとばかりに野太刀を抜いてレイラの加勢に入ってゆく。
しかし、相手は防御一遍と押してはいるもののどうしても押し切れない。そしてフラペティが体制を立て直すと今度は逆に二人が押される。
「くッ、二人がかりでも押し切れない!」
「カッカッカッカッカッ
「くそ、調子に乗りやがって!
三人の戦いを側から見ていたリリアは龍児達に分が悪いと見た。力はほぼ均衡保っているように見えても二人同時であることを考慮すれば敵のほうが上手だ。
しかもスタミナ面では完全にこちらが分が悪い。すでに息絶え絶えとなっている二人に対し相手はベラベラ喋って割には息が切れていない。
事実、龍児もレイラも敵の攻撃が裁き切れず徐々に負傷を負い初めている。
――この戦い負ける!
敵はおそらくまだ猶予を持っている。リリアは何か手助けはできないかと周りを見まわした。
だが自警団の連中は三人の戦いに完全に呑まれており、あれでは助太刀に入ってもすぐに返り討ちにあうだろう。
――もう勝つ方法は一つしかない。
リリアは立ち上がりグレイトフルワンドを構えると集中力を高めだした。
「かの者の肉体に――」
まだ覚えたての難しい魔法を彼女は唱え出した。
「――マナよ集え、血へと、肉へと転成し力となりて神々の祝福を授けん。デバィンボディ!」
杖を掲げると龍児の体が魔法陣に囲まれる。そして龍児の体が輝くと黄金の粒子が放たれた。
「こ、この魔法は!」
龍児は全身に力がみなぎるのを感じとると、振りかざしている野太刀が急に軽くなり、全身が軽くなったのを感じた。
――うまく行った。
リリアは魔法の成功に手ごたえを感じると、更に龍児に強化の呪文の詠唱に入る。
「かの者の理への
龍児の体にさらに魔力が宿り目から赤い光を放つ。脳の処理能力を加速されて、あらゆるものをスローのように感じさせる。
賢者の弟子であるアリスより授かった古代魔法である。
「ぬうぅぅぅ! どこどこどこどこまでぇぇぇぇもえぇ小娘ぇ!! この悪魔めぇ!!」
再びフラペティがリリアを狙う。だが、振りかざす凶刃を龍児が受け止めた。
「ぬぅ?」
「悪魔だなんて、貴方に言われたくありません!」
「だとよ、フラれたな。トカゲ野郎!」
気合い一閃、受け止めた刃を龍児は押し返すと大きく間合いが開いた。
「龍児様! 長期戦は駄目です!」
「了解した」
リリアの強化魔法はアリスに比べて長時間持たない。呪文の詠唱に集中力を要したためにマナの量を十分回せなかった。
だがそれでも龍児には十分すぎる支援であった。
「もう好き勝手させねーぜ、トカゲ野郎。漢方薬の材料にしてやるからかかってきな」
野太刀を担ぎ指を掲げて相手を挑発する。
「くつくつくつくつじょオオオオオオック!
フラペティの怒りに任せた怒涛の高速剣を繰り出した。だが龍児の目にはフラペティの動きも、奴の刃の動きも手に取るように見える。
冷静に片手で的確にそれでいて力強く弾き返した。ことごとく弾き返されたフラペティは歯軋りを立てて屈辱にまみれる。
「認めない! 認めませーん!!」
フラペティは戦術を変えて腕の刃に加えて足や尻尾を使った多彩な攻撃に転じた。一気に手数が増えるので先程のように直立不動で刀だけでかわすのは無理である。
龍児も動いて相手の攻撃をいなしにかかった。
隙をみて反撃にでるものの相手も一方的にはさせない。二人の攻防は激しさを増して常人とは思えない高速戦闘へと突入した。
誰もがその様子に釘付けとなる。拳を握りしめて割り込む余地のない闘いにせめてもと
そんな中、リリアは極度の緊張に晒されていた。龍児に施した強化魔法がいつ切れるか気が気でない。彼女にとってこの2つの魔法はまだ納得のいくレベルで仕上がっていないのだ。
効果が切れる前に重ねがけすべきか? だがこの魔法は強力すぎる。ヒールのような魔法ですら重ねがけは良くないと言われているのだ。
それは術をかけられた相手の肉体に多大なる負担がかかるためである。だがそれでもリリアは龍児に加勢できないかと思考を巡らせた。
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