第325話 フラペティ・バックス1
ドラゴンモドキを倒したものの、おいしいところを自警団に持っていかれた龍児。呆然として完全にやる気を失って気が緩んでいた。
とりあえず役目をおえたバスターソードを鞘に納めようとしたら何か引っかかって入らない。
「あれ? 何で入らないんだ?」
龍児は再び剣を抜いて刃を見て驚いた。真っ直ぐだったはずの剣が歪んでいたのだ。
「なんってこった。そりゃ入らないわけだ……」
ドラゴンモドキはそれだけ硬かったのだ。バトルアックスやツーハンデッドソードのような厚みのある剣なら耐えられたかも知れない。
だが龍児のバスターソードはそれらに比べれば細く長い代物なのだ。それを龍児のバカ力で硬いものに殴りつけたのである。当然曲がってしかるべきだった。
「それはもう限界だな……」
レイラからダメ出しを食らう。
「え? 打ち直して再び使えないのかよ?」
「無理だな。刃も酷いし……そこまで歪んでしまってはな……新しいのを作ってもらったほうが良いだろう」
使い始めて一年も満たずに限界となってしまった相棒。龍児の無茶無謀な力任せの剣劇により寿命を縮める結果となってしまった。
「そうか……すまねぇ、俺が未熟なばかりに……相棒……」
龍児が悲しそうに見つめた。短い間だったがこの剣はまごう事なき苦楽を共にした相棒だった。
そのときだ。辺りが急に騒がしくなった。
ドラゴンモドキを一目見ようと集まっていた連中が雲を散らすかのように逃げだしている。振り向いてみれば倒したはずのドラゴンモドキの上半身だけが体をもたげようと動いていた。
「まだ動くのかよしぶといぜ」
ドラゴンモドキは最後の力を振り絞るかのようにブルブルと体を小刻みに震わせながらも胸を張った。突如、胸の甲殻がバガッと開らくと空へと何かがが飛び出してくる。
それは空中でくるくると回転し、逃げ纏う団員の集団の真ん中に突っ込む。
瞬間、団員達の体が切り裂かれ、無残にもバラバラに飛び散る。
あまりの早業にいつ攻撃されたのかまったく見えなかった。落ちてきたそれはゆっくりと背を向けたまま立ちあがる。
それは人型をしているが全身魚ような鱗を有しており、尻尾も生えている。リザードマン……一見すればそう形容するにふさわしい風貌だ。
しかし頭だけは鱗に包まれていても人の頭のようであり、事実顔は人間そのものであった。
腕には蟷螂のような刃が生えており非常に鋭く、折り畳まれたアームは伸び縮みするように見える。恐らく団員たちはこれに切り裂かれたようで、見た目以上にリーチがありそうだった。
「くそッ! 分離とかテメーは合体ロボかッ!」
龍児は歪んだ剣を驚異の対象に向けた。相手は龍児の闘気を感じるとゆっくりと振り向く。
「――わたしの名はッ……フラペティ・バックスでぇす」
振り向いたそれは青白い顔にぎょろりとした目、そして唇は空のように青かった。体はトカゲ、腕にはカマキリのような刃、顔は人間……それが何とも形用しがたい不思議なポーズを取っている。
「イゴ、お見知りおっきをッ!」
ギョロリとした目が龍児を見つめた。
「……き、キモイ……キモすぎる」
龍児は嫌そうな顔をした。だがレイラはその顔をみてリセボ村を襲ったあの怪物と融合した教団員を思い出した。
「ボドルド教団なのか……」
「はいぃ。私こそ偉大なるボドルド様の忠実な信徒。我が主様に
「それ全部同じ意味じゃねぇか……」
段々と相手するのに疲れてくると脱力感に襲われてきた。
だが見た目や言動によらず先程の動き、攻撃がまったく見えなかった。脱力感に身を任せたらいつ殺られるか分かったものではない。
「あ、な、たッ! 佐藤ですねー」
「龍児だ!!」
指を差し向けられたことより名字で呼ばれたことに腹を立てる。
「そしてソチラノお嬢さん! リリア・ミルズですねー」
「…………」
指を向けられたリリアは杖を構えて警戒した。
「なんでリリアだけフルネームなんだよ! たく、いちいち変なポーズしやがってキメェ……」
「龍児! まともに相手するな。奴は例の薬で頭がヤられているんだ」
「あ、あれか」
それは合成獣を作るための教団が作った白い薬のことだ。自らの体に化物の体を融合する際の拒絶反応を抑えるためのものだが、自我の崩壊を防ぐために麻薬のような効果もある。
「確か精神崩壊を防ぐためだったか? 十分ぶっ壊れてようにしか見えんぞ」
「ぶっ壊れていたらあんなに喋れんよ」
「それもそうか」
教団の地下牢でみた廃人は「あー」だの「うー」としか言わなかった。そのような意味でコイツは会話がまだ成立している。
「あなたたたたたちぃ! ボドルド様に逆らう愚か者ッ! 反逆者にて反教徒! それは罪ぃぃぃぃ!
台詞の途中でフラペティは突然固まってしまった。まるでゲームのポーズボタンが押されたかのように微動だにしない。
「?」
「こ、これはっ、あたしとしたことガッ! どちらにせよあなた方は死刑でしたぁ!!」
「ふざけんな!」
龍児は剣を振りかざしたが、すでにフラペティはそこにはいなかった。
「なに!?」
忽然と姿を消した相手に龍児は動揺を隠せない。どこへ行ったのかと視線だけで左右を探すが見当たらない。
「龍児!」
レイラがとっさに龍児の背中を突き飛ばすと、上から落ちてきたフラペティの攻撃を細身の剣で受けた。
腕から生えている刃が交差する。だが思いのほか重くはない、むしろ重さを感じない。人ひとりの体重がまったく感じ得なかったのだ。
「あなたぁ……閃光のレイラ……デスねぇぇぇ」
「その名で呼ぶな!」
相手の刃を押し戻すと猫のように空中で体制を立て直す。だが次の瞬間、レイラの左肩の鎧が弾け飛び、鮮血が散った。
「ぐっ!」
レイラは苦痛を感じると膝をつき動きを止めてしまう。いつ斬られたのか全く分からなかった。
だが敵の腕から生えている昆虫よようなアーム、そしてその先についている鎌のような刃に斬られたのは間違いない。
フラペティの着地際、龍児がそのチャンスを逃さない!
振りかざしたバスターソードは奴を捕らえた。だが切り裂いたのは虚しくも空であり、敵はふらふらと動いていつの間にか間合いを取られていた。
「くそッ!」
龍児は一気に踏み込んで強引に自分の間合いに入れた。そして流れるような剣激を繰り出すが、かわす、かわす、かわす!
「ヒラヒラと
苛立ちにより技が雑になった瞬間、逆に間合いを詰められた。まるで暴風のなか、木の葉が流れに身を任せるかのようにするすると移動する。
そして気がつけば目の前である!
背筋にゾクリと悪寒が走る。
――しまった! 殺られる!!
フラペティが繰り出したカマキリの鎌ような刃が龍児を襲う。
――か、かわせねぇ!
咄嗟に剣を掴んでいた左手を離した!ガキッと体を切り裂く音とは異なる音がする。
「ぬうぅぅぅ!?」
偶然にも龍児は柄で敵の刃を止めていた。そして力任せに敵を押し戻すと上段からの一閃!激しい風圧により砂塵が巻き起こる。
――だが手応えはない。
「きゃああああっ!」
突如、リリアの悲鳴が聞こえた!
「リリアァァァァッァァァ!!」
龍児が振り向いたとき、すでにフラペティは自分の間合いにリリアを捕らえていた……
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