第320話 渡された秘匿兵器
ドラゴンモドキは抵抗する自警団を追い払うと再び龍児のほうを向いた。まるで『これでゆっくりと相手できる』といわんばかりに目が笑う。
ゾっと悪寒が走った龍児は何か方法がないのかと考えた。だが逃げてもすぐに追い付かれる。遠距離の攻撃方法はない。ならば接近戦しかないが、それとて尻尾の薙ぎ払い一発であの世行きである。
リリアを守るためには自分が囮となる手段しか思いつかなかった。
龍児は覚悟を決めてバスターソードを抜く。
「俺が囮となる。今のうちに逃げろ!」
「龍児様!」
逃げるよう促されたが今の龍児に、いや例え誰であろうとドラゴンモドキに勝てるはずもない。時間稼ぎにもならないことは明白だった。
龍児の下した判断は離れていた由美でも手に取るように分かった。そしてそれを実行してもリリアは救えないだろうと彼女にも容易に推測できた。
由美は決断する。やるなら人目の少ない今ならなんとかなるかも知れないと。
「刀夜君ごめんなさい。でもリリアちゃんを優先して助けて欲しいと願ったのは貴方よ。バレても恨まないでね」
由美は腰に付けているやたらと長い未封された矢筒に触れた。
――それは奪還作戦実施日の一週間前の出来事だった。
刀夜の家で風呂を借りたあとのことだ。帰ろうとしていた由美を刀夜は呼び止めた。
そして龍児のときと同じく彼は由美に頭を下げた。龍児には『頼めるのはお前しかいない』というような素振りを見せたのは演出である。
そのほうが龍児をのせやすいと思った。だがリリアを本気で守って欲しいという願いは嘘ではない。
刀夜は万が一に備えてもう一手を打つ。それが同じ遠征にでる由美だ。刀夜は彼女にもリリアを守って欲しいとお願いをした。
それはとても身勝手なお願いだと刀夜も理解していた。身勝手すぎて断られても仕方がないことだと。
しかしプライドの高い刀夜が人のためにここまでするのだ。そんなにリリアのことが大事なのかと思うと由美は少し妬けた。
由美は自分のできる範囲でと条件付きで受けた。すると刀夜は作業台の上に長い矢筒を二つ置く。
色は黒に近い茶色の革製でできており、矢筒というにはやたらと長くて細い円筒形をしていた。
これだけ細いと入っている矢の数は少ない……それが2つ?
しかも完全に密閉されているので中の矢が取り出せないようになっている。
「この中には矢が一本だけ入っている」
「え? たった一本なの?」
由美が疑問を投げかけると刀夜は矢筒と同じ大きさの紙袋を数本持ってきた。
「中にはこれと同じものが入っている」
そう言って刀夜は紙を破って中身を取り出す。するとそれは由美にとってよく知っているものだった。いや、別世界からきた自分たちなら誰でも知っている。
「ロケット花火?」
「そう。正確には
「でもロケット花火なんでしょ?」
そんなものがなんの役に立つのかと由美は苦笑いをする。だが刀夜は彼女に真剣な表情で突き刺さるような視線を向けてきた。
「由美……これには火薬が大量に使用されている……」
頭の回転の早い由美はハッとして青ざめた。ロケット花火なら少量で済む。
「ちょ、ちょっと待って、まさかそんな物騒なものを持ち歩くの?」
「強制はしない。だが万が一想定外なことが起きた場合、あるのと無いのとでは大きな差がある」
「それはそうかも知れないけど……」
「判断は君に任せる」
由美は悩んだあげく刀夜の申し出を受けた。以来出発までに彼女はその武器の使い方の練習をお風呂前にすることとなった。
「由美。頼んでおいて矛盾したことを言うが、この武器はできるだけ使わないで欲しい。火薬の存在が漏れると厄介なことになる」
「保証はできないけど、言いたいことはわかるわ」
「すまない。リリアの事を頼む」
出発の前日、最後の訓練を終えた由美に刀夜は再び頭を下げた。
◇◇◇◇◇
燃え盛る炎と立ち込める煙、絶対絶命の二人を救うのは今、これを使うしかない。
由美は細長い矢筒を一つ腰から外した。そして封じてある革をバリバリと破く。中から紙袋を取り出し、そこから大国火矢を取りだした。
彼女は背負ったいた小さなリュックから袖の長い革手袋を取り出して手につける。さらに火傷対策の防護マスクを顔に装着した。そして背中のマントを引っ張って前にするとエプロンのようにする。
大国火矢は一見すれば大きなロケット花火である。だがこれは改良されてまったくの別物に仕上がっていた。
先端の厚紙でできた防護カバーを外すと矢が安定しやすいよう宇宙ロケットのように尖っている。刀夜から教わったように先端のプローブを伸ばす。
――これで準備完了。
矢を弓にセットして瓦礫の家の隙間からドラゴンモドキを狙う位置を定める。
颯太から借りた100円ライターにて導火線に火をつけた。
バチバチと導火線が燃える。
その間に狙いを定めなければならない。
ブレスの炎により空気の流れは複雑だ。煙の流れ、空気の歪み、感じとれるすべてを総動員する。
破壊力が桁外れなので外すことは許されない。ターゲットが大きいのは幸いだ。
やがて導火線が燃え尽きると本体から激しい炎を吹き上げて白煙が巻き起こる。それが推進力となって矢は自らの意思で飛び立とうと主張しだす。
硝煙の臭いが部屋に充満しだした。飛び散る火薬の炎が手袋と甲冑そしてマスクを襲う。
飛翔時間は僅か5秒!
集中力をあげた由美が矢を放った。
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