第318話 ドラゴン?
ズウゥゥゥン…………
龍児の脳裏に嫌な予感がした。
「この音……この感覚……まさか……」
廃墟に鳴り響く地響き……遠き記憶に深く刻まれた悪夢。
「龍児様、レイラ様……あれを!」
リリアが指し示した方向を見れば三階建ての崩れた建物からドラゴンのような顔がこちらを見ていた。
真っ赤な鱗に覆われた顔はトカゲのようだが頭には太い角が二本生えている。爬虫類のような尖った瞳をギョロリと動かして状況を確認していた。
その頭が大きく揺れ動くと再び地響きがおこった。
「きょ、巨人兵じゃないのか……」
龍児は安堵するが状況は決して楽観視できるようなものではない。その生物の全貌が露になると同時に彼らは硬直してしまった。
太い2本足に支えられた巨体。そこから伸びるトゲのついた凶悪そうな尻尾。一撃食らえば天高く飛ばされるか、押し潰されて原型を留めないか、そんな想像ばかりが過る。
偵察で大型生物はいないはずであった。実際龍児達が偵察に来たときにはこの化物はいなかったのである。
「ド、ドラゴン!?」
「竜にしてはずいぶん人型っぽいわね」
「しかもスゲェでぶい」
「羽もないからどちらかと言えばゴジラかしら」
「つか……何で鎧着てやがんだ……」
ドラゴンのような生物の体は赤い鱗で覆われているが、肩や胸、お腹から股間、膝辺りに鎧のようなものがある。
それを見た龍児はますます嫌な記憶を掘り起こされた。もしかして巨人兵と同じ絶対物理防壁なのではないかと危惧した。
もしその効果があったら魔法武器がなければ太刀打ちできない。今回の遠征で攻撃魔法が使える魔術師はいないのだから。
「龍児、あれは鎧じゃない」
「じゃあ何なんだよ」
「甲殻だろう。体の動きにフィットしすぎている」
確かにレイラのいうとおり、胸の部分などは呼吸に合わせて動いている。それに鎧であれば留め具が必要だが、そのようなものは見当たらない。
ドラゴンモドキは唖然とする自警団達を見回した。そして白い魔法装束が目を引いたのかリリアと目が合う。
リリアはハッとして杖を構えた。嫌な予感がした。狙われたような気がする。激しい悪寒に襲われたが彼女の勘は当たっていた。
ドラゴンモドキはゆっくりと彼女に向けて移動を開始する。
「各員散開! 奴の間合いに入るな! 遠距離攻撃で対応しろ!!」
全体を指揮しているジョン団長は赤いリボンで括られた金髪の髪を振り撒きながら左翼右翼後方への部隊に次々と指示出した。
「魔術師は防御魔法と回復を! バリスタを守れ!!」
的確な指示である。近接戦闘では一撃で死傷者を出していただろう。かといって鎧のような体は弓矢の攻撃が通じるようには見えない。
となれば強力な威力を発揮するバリスタしかない。鋼鉄の矢ならば鎧のような甲殻も貫けるだろう。だがその指示は適切ではあったがそれ以上ではない。
移動が困難なバリスタはすぐに蹴散らされるだろうとジョンは予測した。自警団は瓦礫の裏などに隠れて弓矢で狙いを定めた。
射程に入るとジョンからの攻撃命令が下された。
四方八方より飛来した矢がドラゴンモドキを襲う。だが多くの者が予測したとおりに矢は通らなかった。硬い甲殻の前に尽く弾かれてしまう。
「効かねーか、だが絶対物理防御を持っていないのは幸いだぜ」
最悪の事態は回避できたことで龍児の緊張感は解れた。しかし圧倒的な存在感を前に楽観はできない。
なによりドラゴンモドキはこちらに向かってきているのだから。
「後退だ! 散開して後退しろ!」
レイラから指示が出た。団員は扇状に広がって建物の影へと隠れるが、ドラゴンモドキは向きを変えてリリアを狙ってくる。
刀夜に頼まれいるので龍児も彼女のすぐ後ろを追いかける。
由美は龍児達とは別方向へと逃げた。廃墟となった家を駆けあがり、屋根に到達すると矢を放つ。だが頑丈な甲殻に包まれているため全く寄せつけない。
「ちっ」
あまりの腹立たしさに思わず舌打ちをしてしまう。ドラゴンモドキは喉をグルグルと音を鳴らして執拗にリリアと龍児を追っている。
「今だ! 撃てぇ!」
龍児達は自分達が追われていると分かると闇雲に逃げず、敵をバリスタの射程へと誘導していた。
鋼鉄の矢が放たれてドラゴンモドキに突き刺さってゆく。堅そうな甲殻をも貫くと血を吹き出した。
「やった! 効いてるぞ、どんどん撃て、撃て、撃てーッ!」
急いで次弾を装填しようとするが本家同様簡単には装填できない。強力な玄を引き戻すためトグルを二人がかりで巻き戻さなくては為らない。
その間にドラゴンモドキは体を大きく捻ると鞭のように尻尾をしならせた。そして自警団の隠れている廃墟を派手に薙ぎ払う。
まるでダイナマイトでも爆発したかのようにバラバラとなった岩と武器そして人が飛び散った!
その破壊力に他の団員は恐れおののく。
だがこのモンスターの本当の驚異はここからだった。その行為に誰しもが凍り付く出来事が起こる。
残りのバリスタを準備していた自警団員をギロリと睨むと両腕を大きく広げて前へと差し向ける。すると手の先に魔方陣が形成された。
「ま、魔法陣!」
「そ、そんなバカな……」
「モンスターが魔法を使うなんて!!」
その様子に龍児もリリアも足を止めてしまうほど動揺する。だが龍児はすぐに我へと帰った。
「何やってるんだ! 早く逃げろ!!」
龍児の声で金縛りから逃れた団員達は慌てて建物の奥へと逃げだす。魔方陣が輝きを放つと氷の刃がバルカン砲のように放たれ、辺り一帯を貫いた。
氷の刃が多過ぎて廃墟の壁などいとも簡単に衝撃で潰されてゆく。魔法が収まったとき、恐ろしいことにその場所は針のむしろとなっていた。
さらに氷の刃は着弾点周囲を凍結させて各種機材も使い物にならなくなった。
「こんなの……ありかよ……」
「勝てるわけねぇ」
早くも心を挫かれた者達から泣き言が漏れてきた。そのような中、ジョンは体制を立て直すべく奮闘する。
魔術師を防御に展開させつつ負傷者を救出。近接戦闘を仕かけるために兵を後退させてかき集めた。だがその判断には迷いがある。
近接戦ではかなりの損害を覚悟する必要がある。おそらく一撃で蹴散らされるだろう。
だがそうなる前に転倒させれば何とかなるかも知れない。そこに賭けるしかなかった。
ドラゴンモドキは再びリリア達を睨んだ。そして首を反り返らせて大きく呼吸を吸い込む。
「ブレスだ! リリアァ!」
龍児は咄嗟に彼女に飛びつき、抱きつくと壁の残骸へと倒れるように身を落として隠れた。
「火炎放射くるぞ!」
それは本当かわからない。もしかしたら魔法かも知れない。だがドラゴンモドキの仕草から龍児のカンがそう囁いたのだ。
リリアは一瞬どうしてブレスなのかと理由が分からなかったが、すぐに龍児の言うことを信じた。
「あたしたちを守って! プロテクションウォール!」
リリア即座に防御魔法を展開した。壁と地面の窪みを利用してプロテクションウォールの死角を殺すがすべては無理だ。
果たしてこれで耐えられるか……
もし壁が耐えきれなかったらアウトだが、それ以前に高温に体が耐えられるかが勝負である。熱に関してはプロテクションウオールは完全に遮断できない。
そして龍児の予測したとおり、ドラゴンモドキの口から火炎放射が放たれた。
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