第316話 増えてしまった証拠
ラミエルとの戦いが終わる頃には表で建物を包囲していたアイリーンたちが部屋へと入ってきた。
先に入っていたクレイス副分団長と部下たちは部屋の済に置かれていた奇妙な装置を囲んでいる。
大きな筒は人が一人がすっぽり入れるほどの大きさがあり、そこから横に延びたアルミのような小さなパイプがいくつも連なる。それらは制御ユニットと思わしき装置に繋がっていて魔晶石が微かに光っていた。
「な、なんなのこれは?」
アイリーンは見たことのない装置を前に訪ねることしかできない。葵達の元世界より近未来感を感じさせるこの装置は、この世界の人々にとって奇っ怪な代物以外の何者でもない。
だが颯太は……
「なんだよコレ……コールドスリープ装置かよ?」
颯太は装置をみてSF映画に出てくるような印象を受けた。葵もそのイメージしか湧かず、黙って颯太の言葉に心の中でうなずく。
だがアイリーン達にしてみればまたしても異国人が訳のわからないことを言って納得しているといった感じで見つめていた。
葵は袖口で曇っていた窓を拭いてみる。そして中にあったものに驚きの声をあげずにはいられない。
「と、刀夜!?」
「えぇ!?」
颯太も驚き、中を覗けば確かに刀夜が筒の中で横になっている。見間違えてはいない。何度も顔をよく確認した。だがまごうことなき、そこに横になっているのは刀夜である。
そんなバカなとアイリーンもクレイス達も窓口に群がった。
「そ、そんなどうやって?」
刀夜は留置場に入っているはずである。抜け出したのなら今頃とっくに騒ぎになっていてもおかしくない。だが刀夜の最後を確認したのは拘置課に引き渡したとき、つまり2日前である。
ブランと死闘を演じたラミエルは拘置課の人間だ。であればあれから刀夜は彼らにここに連れてこられたのだろうか?
一体何のために?
やはりロイド上議員を殺したのは刀夜なのか?
不可解な状況に彼らは困惑するばかりである。
「と、とりあえず彼をここから出して事情を聞きだそう」
クレイスは装置の開ける方法を探そうとした。しかし見たこともない未知の装置を前にどうすれば良いのかわからない。
「どうやったら開くんだ?」
クレイスは筒の取っ手を色々な方向に引っ張ってみるがびくともしなかった。
「くっ、びくともせん!」
「こーゆーのって大抵は赤のボタンなんだよ」
見かねた颯太が装置の横にあった赤のボタンを叩いた。ガチャリと音を立てて円筒形の筒上半分が少しずれた。ずれた隙間から冷気が漏れる。
丁度刀夜の頭のある側の筒にロック機構があり、外れて隙間ができている。筒は上半分をスライドして開ける仕組みのようだ。
だがその後、誰も開けようとはしない。お互い目で誰が開けるのかと無言でやり取りが行われた。刀夜がこのようなところにいるという不可思議な状況、そして不気味な装着。嫌な予感しかしなかった。
「見合ってたって始まらねーよ!」
颯太がカバーを一気に開けた。
刀夜の全身が皆の前に晒されると、ひんやりとした空気が足元に流れてくる。エアコンで冷やしすぎた空気が部屋の扉の隙間から漏れたかのように。
みんなは冷えきった刀夜の体をみた。筒の中は颯太の言っていたコールドスリープにしては温度が高すぎるようである。どちらかと言えばエアコンを効かせすぎて冷蔵庫のようになった部屋のようになっていた。
「刀夜……」
葵が生きているのかと心配になって不安に刈られる。見たところ顔も刀夜であり、着ている服も刀夜が家でよく着ていた衣服だ。違いは感じられない……
「ちゃんと生きてるんだろうな?」
颯太は顔を近付けて呼吸を確かめようとしたときだ。
刀夜の目がカッと開き、ギロリと颯太を見た。まるでホラー映画のような展開にに颯太が驚き、慌てて顔を離そうとするが……
「シャアァァ――――ッ!!」
刀夜はまるで獣のような顔つきで颯太の首を両手で締めた。
「ぐ、が……こ、このちか……ら」
颯太が苦しむと慌てて周りの者が刀夜から颯太を引きはなそうと押さえつける。
「刀夜! それは颯太だよッ! しっかりして!」
かなりの腕力ではあったが、刀夜の下半身は動かないようだ。颯太から刀夜を引き剥がして装置の上で強引に押さえ込んだ。
だが刀夜は完全に正気を失っており、取り押さえつけている人を威嚇する。このままでは拉致があかない。
押さえつけたまま刀夜を再び装置に閉じ込める。筒のカバー最上位にまで上げて一気に押し込むとガチャリと音を立てて筒がロックされる。
しかし中で刀夜は獣のように暴れ、激しく筒を内側から叩く。
「ゲホ、ゲホ……」
颯太は呼吸を整えながら装置の緑のボタンを押すと、一度ウォーンと唸りをあげて音が小さくなってゆく。
筒の窓ガラスが雲りだすと刀夜は叩くのを止めて大人しくなった。
「ちくしょう、本気で殺そうとしやがった」
颯太がまだ苦しそうにする。彼の首には刀夜の手形が残っており、刀夜が本気で颯太の首を絞めていたことを物語っていた。
「これで確定だな。ロイドを殺したのは刀夜だ」
「そ、そんな……」
彼女は刀夜の冤罪を晴らすために動いたの逆に証拠を増やす結果となってしまった。
しかしなぜ? 刀夜は違うと言っていた。ロイドを殺していないと言っていたのに……
葵はへたりこんで現実を受け入れられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます