第315話 二刀流の使い手

 ブランが部屋に突入するとフードマントの男は剣を抜いて応戦にでる。ブランの強烈な剣を流すもその威力は凄まじく腕が痺れた。


「ブランか! 相手に不足なし!」


「なにぃ?」


 なぜ自分の名を知っているのかという懸念はすぐに露払いされた。


 ブランの攻撃に立ち回る男のフードが外れ、マントは大きくはためいた。薄暗い部屋であったが、そのマントの下に自警団の制服が見えたのだ。


 しかもブラン達とは異なる紺色の上着……その服が支給されている部署は一つしかない。


 キツネのような顔立ちの細い目が鋭く光ると攻防が一転した。細身の剣でブランの攻撃を流すと反対の手からナイフが繰り出された。


「おう!? 二刀流の使い手か!」


 ブランはその攻撃を間一髪かわした。二刀流の使い手は非常にまれであるがために、その攻撃は初めての経験だった。


 絶え間なく繰り出される見たことの無い攻撃にブランはいなすので精一杯となる。だがそれはブランの闘志に火をつけることとなる。


「はッ、拘置課なんぞには勿体ないな!」


「おほめに預り恐縮だ。だがこれでも元2警だ」


「ほう、おいたが過ぎて左遷されたか?」


「いや、望んで入ったのさ!」


「!?」


「今日、このような日を迎える為にだッ!!」


 目の細い男、ラミエルは軽くバックステップで間合いを取るとマントをブランに投げ広げた。


 マントで視界を奪われてラミエルを見失ったブランは焦る。どこから攻撃がくるかわからない!


 ショートソードでマントを切り裂くように薙ぎ払うとそこにラミエルの姿はない。


「ブラン! 横です!!」


 離れていたアイギスはラミエルの動きの一部始終を見ていた。ラミエルは薙ぎ払ったマントに合わせてブランの右に移動していた。そのためブランからは消えたかのように錯覚する。


 そしてブランの剣は振り切ったために戻すことができないでいる。それを見越したラミエルが一気に低空からブランの懐へと侵入した。


「ぬぅ」


 こいつはマズイとブランに冷や汗が走った。


 だがその次の瞬間、突如痛いほどの光がラミエルの目に突き刺さった。視界がホワイトアウトすると、すべてのものが見えなくなる。


 慌て転がるようにブランと間合いをとった。


 ブランが闘っている間に葵は光を遮っていた窓の木製の扉を破壊していた。太陽の光が差し込むと部屋全体を照らした。


「くそう……」


 横やりを入れられたラミエルが無念そうにする。これほどの著名で腕の立つ相手と折角やり合っているのだ。水を差されたまま終わっては悔やみきれないというものだ。


 葵とアイギスが剣先を向けてラミエルを囲んだ。


「かたじけない。だが、これ以上の助太刀は無用に願いたい」


「で、でも……」


「わかりました」


 躊躇する葵と違い、アイギスは即座にブランにしたがって後ろに下がる。それを見た葵は本当に大丈夫かと思いつつも同じく下がった。


 ブランはラミエルの狂剣が二人に向いた場合、最悪守れない可能性があるとみた。


 だが当のラミエルにはそのつもりはない。教団側には十分甘い汁をすすらせてもらった。


 だがその教団ももうすぐ終焉を迎えるだろうと予感を感じた。もう引き際だと、無様に生きるつもりはない。


 刀夜の件で教団への借りはすべて返したつもりだ。そしてこれが拾ってくれた教団へと自分の最後の手向けだと覚悟を決めていた。


「いくぞ!」


「おう!」


 突っ込んでくるラミエルに対しブランは間合いを詰められないようにする。そしてブランの強撃はラミエルを近寄らせない。


 リーチはブランのほうに分があり、これを有効に使う。だがそれでもラミエルの表情は優越感に染まっている。


「これだ、これだよ!」


 ブランはラミエルの言葉に耳を傾けつつも何も述べない。相手の一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくに神経を集中させていた。


「命がうち震えるぜぇー!」


 高揚したラミエルのギアがさらに上がった。ブランの強剣をいなすと、ついに懐に入られてしまう。


 間合いが潰れて互いのショートソードは死んだ!


 ラミエルの振りかざした左手のナイフがブランの脇腹を狙う。だがブランはニヤリと口元をあげた。


 その瞬間、ラミエルの体が大きく空中の後ろへと飛ばされた。まるで激走してきた馬に跳ね飛ばされたかのように……


 ブランはナイフを繰り出された瞬間、大きく前へ踏み込んでいた。巨体の体当たりをモロに喰らったラミエルは後ろの壁に叩きつけられた。


「――ふぐぅ」


 間合いを積めてくると最初っからわかっているのなら対処はある。ナイフを突き立てる前に吹き飛ばせはよいだけだ。


 だがそれはあまりにもリスクが高すぎて並みの神経ではできない芸当である。


 ラミエルは壁からずり落ちると床にお願いすかのように倒れ込む。苦しそうに顔だけ上げてブランを見上げた。


「――か、体が動かん…… お前の勝ちだ。殺せ」


 ブランは彼を見下ろしながら首を振った。


「ワシは自警団だ。犯人を殺すことはできない」


「ハッ、だろうな……」


 初めから分かっていた。そのような口ぶりだがラミエルは残念そうにブランを睨んだ。そしてラミエルは自分のナイフで喉を一気に掻き斬る!


 頸動脈から一気に大量の血が噴水のように噴き出した。やがて血が収まると力が抜けたかのように彼は倒れる。


 その表情はまるで満足したかのように。


 ブランは驚くこともなく、ただ静かに目を閉じた……

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