第314話 フードマントの男

 葵達はフードマントの男の行方を探して街の裏で聞き込みを続けていた。しかし、裏道は人通りが極めて少ない。


 窓際の住人の証言が頼りなのだがそれでも情報は少なく、捜査は非常に困難であった。


 だがそれでも……


「それなら、向こうに……」


 道でうずくまっている小汚ない老人から。


「わ、悪かった。そいつなら向こうへいった!」


 尋ねたら絡んできたゴロツキから。微かに点から点へと目撃証言はあった。


「ああ、そんな奴なら先ほど見たぜ」


「ほ、ほんと? どっちいった?」


「向こうだ」


 葵達はたった今しがたそれらしき男と出会ったという人物と出会えた。三人は男に教えてもらった方向へと足を進める。するとブランが突如皆を引き留めた。


「待て!」


「なに? どうしたの?」


 ブランは建物の影へと身を潜めたので、葵とアイギスはそれに習った。もしかしたら男がいたのだろうかと緊張が走る。ブランはそっと覗いて様子を伺った。


「――やはりだ」


 彼は何かに気づいて確信したように呟いた。葵もこっそりと覗いてみるが誰もおらず、期待が外れたことにガックリとくる。


「何がやはりなの?」


「建物が見えるだろう?」


 三階建ての洋館が贅沢そうに広場のような庭付きで立っている


「あの三階建ての茶色い屋根の?」


「そうだ」


「それがどしたの?」


「あれは教団の拠点候補の一つだった建物だ」


 葵は驚いて再び建物を見る。煉瓦作りの三階建て、窓は各階に8つ。一階は玄関があるせいで6つだ。


 どの窓も閉められており、人が住んでいるような気配は感じ取れなかった。


 例え、裏通りとはいえ限られた空間のこの街だ。防壁近くならともかく、このような中心地は人が飽和しているためどの建物も大抵誰か住んでいる。だがここからは人の生活の気配がない。


「で、でも。それならすでに調査済みなんでしょ?」


「その当時ならな。特になにもないフェイクだと思われたいた。だが捜査情報が漏れていたのだ。恐らく一度撤収して調査後に戻ってきた可能が高い」


「なるほど。一度調べたところならまた調べようとしないものね。ずる賢いな」


「マントの男、ここに居る可能性があるな。応援が来るまで少し様子を見よう」


「わかったわ」


◇◇◇◇◇


 ほどなくしてアイリーン達が駆けつけてきてくれた。颯太は彼女の説得という困難な内容をこなしてくれたのだ。何しろフードつきマントの男が怪しいでは説得力がない。


 だが捜査内容に漏れがあるなれば話は別だ。彼女達の信用問題となるからだ。


 しかし、それでも信憑性に決定打がないのは確かなので、アイリーンは部下10名だけでやって来たのだ。その中にはアフロ頭の副分団長のクレイス・ドーンも来ていた。


「ったく、探したぜ」


「仕方ないじゃない」


 着いて早々颯太の口から文句がでる。葵達と別れた場所にアイリーン達を連れて戻ってみれば彼女たちはおらず、やもなく足取りを追ってきたのだ。


「状況はどうなのだ?」とアイリーンが訪ねる。


「事件後に刀夜殿と接触したフードマントの男はあの館に入ったのを目撃されています」


 アイリーンたちがくる前に葵とアイギスで辺りの住人に確認を取っていた。話によれば男は裏口から館に入ったとのことだ。


「踏み込みますか?」とブランが訪ねる。


「そうだな、わたしが正面から陽動を行う。クレイスはブラン達を引き連れて裏から侵入してくれ」


「はっ!」


 時間をかけて逃げられては元も子もない。その男が何者であれ教団の館に入った時点で逮捕されても文句は言えない。


 逆を言えば逮捕できる理由はそれしかない。ここ以外で捕まえれば事情聴衆でうまくしらを切られたらその場で解放せざるを得なくなる。アイリーンは駆け込んで建物を包囲した。


 その間にクレイス達は裏口へと回り込み、裏口の扉の前へとやってきた。そして彼女はポケットからピッキング道具を取り出して鍵を外しにかかる。


 彼女は元は泥棒家業かと思えるような見事な手つきで扉の鍵をあっという間に開けてしまう。この世界の鍵は現代ほど複雑ではないので、ある程度訓練を積めば誰でも習得できる。しかし、自警団でこのような技術を習得しているのは警察組織である3警、4警だけだ。


 屋敷に入ると薄暗いうえにかなり埃っぽい。建物の中は真正面に玄関ロビー、左右に通路となっている。部屋の扉が左右の通路それぞれに2つづつ存在する。


 ブランは床の積もった塵の中から比較的新しい足跡を見つける。足跡は右奥の部屋の扉へと続いていた。外にいるアイリーンたちから見れば一番左の部屋だ。


 クレイスはハンドジェスチャーで玄関を開けるように部下に指示をだす。仲間の一人が罠に留意しなごら慎重に玄関に向かった。


 その間にクレイスがショートソードを抜いて奥へと向かうとブラン達も見習う。葵も小太刀を抜いて後をついていった。光沢のある刃が剥き出しの刃がキラリと怪しく光る。


 いまアイリーン達が陽動に出ているので、慌てて逃げ出す犯人とばったり出会う可能性がある。極度の緊張に晒されて慎重に奥の部屋へと向かう。


 足音を殺して扉の左右に展開した。クレイス達はアイコンタクトで準備ができたと互いに合図を送ると突入の合図が下された。


 ブランが扉を蹴破り、一気に中へと突入する。次にアイギスがそれに続き、葵も後を追うように突入した。


 部屋には大きな装置ある以外は虚無というには大げさだが空き家のように何もない部屋だ。ブランのような大男が暴れるには十分な広さである。


 窓際で外の様子を伺っていたマントの男は、激しい音に驚いた様子もなく即座に剣を抜いて対応にでる。


 包囲された段階で突入してくるのは分かっていたが、それ以上に彼はこの戦いに本望であった。

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