第310話 頼りになる協力者
葵は血相を変えて詰所へと戻ってきた。だが刀夜には『必ず助ける』と言ったもののどうすれば良いのかすぐに思いつかない。
あーでもないこうでもないと悩みながら廊下を歩いていると颯太と出会う。
「あ、颯太!」
「よう、葵、なんか顔が青いぞ。なーんてな」
「駄洒落言っている場合じゃないわよ!」
出会い頭にいきなり駄洒落をかまされて葵は激怒する。
刀夜が大変な目にあっていると言うのに何を呑気にしているのかと。ロイド暗殺などかなり重大な事件なうえに刀夜が犯人扱いされているのに。
しかし、彼の様子からして、もしかして話が伝わっていないのかも知れない。
「あん? なんかあったのかよ?」
さすがに葵の様子が変だと感じた颯太は一応訪ねてみた。
「何かって……噂でも伝わってないの?」
「噂? さぁ? 俺は自分の案件で手一杯だからよ。それに4警の連中は皆外回りだぜ?」
4警の面々は溜まりにたまった案件を処理すべく外回り主体で動いていた。お陰で詰所はいつもガラガラでこの一件の噂が流れてこなかった。
「呑気よねぇ……」葵がため息をついた。
「あんだよ……あ、そういや議員がどうのって噂は流れていたぜ」
そんなの知るかよと吐き捨てるつもりだったが、葵の話を聞いて少しだけ聞きかじった噂を思い出した。だが議員の話など自分には関係ないし、興味もないので内容は特に覚えていない。
「それよ!」
「な、なんだよ……」
「ロイド上議員を殺したのは刀夜だって容疑がかけられているのよ!」
「なんだって!? あいつ……とうとう殺っちまったか……やはりそういう奴だったか」
闇の深い男だけにいつかはそのような事件を引き起こすのではないかと颯太は思っていた。そしてそれがついに現実のものとなった。颯太は自分の先見の明は確かだったと自画自賛する。
「冗談言ってる場合じゃないわよ! このままじゃ刀夜は死刑になるんだよ!! あんた、刀夜に色々助けてもらっておいて薄情じゃないの?」
冗談が通じなかった。そもそも冗談が言える状況でないことに颯太は空気が読めなかった。もっともそれは今に始まったことではないが。
「わ、わかったよ。でもアイツのことだから、またなんか手立て用意してんじゃないの?」
「そんなのあったら、こんなに焦らないわよ!」
「ま、マジなのかよ……本気でやべーのか……」
いつも計算高い刀夜にしては驚くべき事態だ。一体何をどうしたらそんな事態になるのか……
「そう言ってるじゃない! もう刀夜助けれるのあたし達しかいないんだよ!」
「落ち着けよ。ともかく初めから話せよ……」
葵は先程から焦ってばかりで肝心の経緯についてまったく説明がなく、聞いている者としてはなんの判断もできなかった。颯太はまず彼女を落ち着かせるところから始める。
だがその時、背後から何やら威圧的な気配を感じた。振り向けばそこには龍児のような巨体の男が立っている。
「その話、我々も一緒してもよいかな?」
「ブランさん……」
「
「アイギスさんも……」
アイギスはブランの背後から現れた。
葵はアイギスがいつもブランの背後から隠れるように現れるのは何か意味があるのか、と思いつつも聞いたら負けのような気がしたのでここはスルーすることにした。
「刀夜殿には一度世話になったからな。是非とも恩返ししたい」
それは教団の本部を探すのに無理を言ってリリアを借りた件のことだ。残念ならが首謀者を死なせてしまったが悪事は明るみにでることとなり、ブランとしては一応
「ともかく最初っから話してくれよ」
颯太の言葉どおり、葵はこれまでの経緯を語った。だがその内容により彼女が焦る理由がよくわかった。冤罪であると信じてはいるが覆すのが極めて困難なのである。
「うーん、正直どうやって冤罪を晴らせばいいのか俺の頭じゃわからねぇや……」
颯太は腕を組んで頭を傾げた。
「それはあたしもだよ……」
葵も表情を落とす。
だが顎に手を添えて考え込んでいたブランは一つの方法を講じた。
「こういう場合はまず目撃者からもう一度当たったほうが良いだろう。細かく話を聞けば何か思い出してくれるかも知れないし、盲点も見つかるかもしれん」
「なるほど、さすがブランさん!」
「アリバイはだめなのか?」
「アリバイは本人が話そうとしないし、原因となっている目撃証言を何とかしないと捜査が伸びるだけだ。時間稼ぎにはなるが決定打にはならん。それに時間がかかり過ぎると目撃者の記憶がどんどん曖昧になってゆく」
「そ、そうか。そうだよな」
「すぐに目撃者の情報リストをもらってくるんだ」
自警団ではどこで誰が目撃し、その内容をまとめた情報ファイルが存在する。
「うん、わかった。あたし取ってくよ!」
情報ファイルの持ち出しにはアイリーンの許可が必要であった。この書類は仮にも機密あたる代物である。
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