第304話 剣獣再び2
由美は小高い
龍児とDWウルフが同時に動く。
龍児のバスターソードとDWウルフの角が交差すると火花が散った。軽やかなステップを踏むかのように動くDWウルフは龍児の剣を
「――こいつ……強い!」
龍児はリセボ村で一度DWウルフとタイマンを張ったことがある。あの時もDWウルフは強かった。だが今の龍児はあれから数段鍛え上げて経験を積んでさらに強くなっている。
しかも地理的条件は四方に自由に動ける龍児のほうが圧倒的に有利だ。
なのに攻めきれない。龍児は認めざるを得なかった。今、対峙しているこの相手は以前の奴よりはるかに強いと。
「……龍児様」
リリアは自分のせいで龍児が逃げ遅れてしまったと責任を感じてしまう。そして龍児の援護ができないかと必死に考えた。
しかし龍児がDWウルフと対峙するのは龍児の意思によるものであり、これはリリアのせいではない。DWウルフが罠エリアを抜けるというイレギュラーな出来事のためだ。しかし彼女はそれを自分のせいだと思ってしまう。
柵の隙間から龍児の攻防を見つめて妙案を思いつくとリリアは柵から飛び出した。龍児の背後に回って彼の邪魔にならないよう距離をとって詠唱に入る。
「この杖に光明となりて集えマナの子らよ。ライト!」
呪文を唱えるとグレトフルワンドの先端にマナを集中させた。
通常よりも多く、多く、もっと多く!
マナは強い光となって目が痛いほどに輝く。
強い光にDWウルフは視界を奪われて目を細める。対峙している龍児の姿を見ることが困難となった。
しかし龍児からは逆光となるので、さほど影響は受けない。背後から聞こえたリリアの詠唱で彼女が援護してくれたのだと即座に理解した。
そして相手が怯んだ隙を龍児は見逃さない。目を細めて龍児を警戒して一歩下がった。
静かに気合いを入れ、大きく踏み込んだ渾身の薙ぎ払いの剣圧により砂塵が巻きあがる。
DWウルフは僅かな空気の揺らぎを感じとると龍児が攻撃にでたことを感じとる。どこから攻撃が飛んでくるか分からず咄嗟に後ろへと飛び退いた。
だが反応が遅れたため、回避が間に合わない。バスターソードの獰猛な剣先がDWウルフの前足を容赦なく吹き飛ばすと足が宙を舞った。
激しい激痛にバランスを崩して罠のエリアに体が倒れたためスタンスを大きくとって踏ん張った。足が罠エリアに入るものの、ほんのあと一歩罠に届かない。
龍児は巻き上がてしまった砂塵のせいで相手の確認できず、見失うと追撃ができなくなった。
『手応えはあった、だがどこだ?』
龍児は手応えから致命傷には至ってはいないと感じとると反撃を警戒した。
罠を隠すための砂が裏目にでたことに一瞬イラつくが、それは相手と同じだと自分に言い聞かせ心を落ち着かせる。
DWウルフは片足を失っても渾身の力を溜めて一気に襲いかかろうと身を屈める。だがその様子は高台にいた由美から丸見えであった。
「龍児君!」
DWウルフと龍児との距離が危険であったが、由美は覚悟を決めて弓から矢を放つ。龍児の剣圧による風の影響を受けた矢はまるで魔球のような軌道を描いてDWウルフの目を貫く。
「ギャウンッ!」
由美はそこまで精密に狙ったわけではなかった。だが矢はまるで女神に祝福でもされたかのように相手の弱点を貫いた。
合成獣のときもそうであったが彼女は強運を呼び込む力が強い。
「そこかッ!」
龍児は再度大きく踏み込んで鳴き声のした位置に狙いを定める。バスターソードを天空をも貫くかのように高々と突き上げ、振り下ろされた剣はDWウルフの脳天にめり込む。
DWウルフはまるで巨大な石材で頭を強打さたような衝撃を受けた。一瞬で意識を持っていかれ、押しつぶされた頭が地面にめり込む。
DWウルフはかち割られた脳天から血が噴水のように噴き出してその命を散らした。
「ふううううううー」
勝利を確信した龍児は大きく息を吐き出した。
「龍児様、お怪我はありませんか?」
後ろにいたリリアが龍児の横から顔を覗かせると彼の具合を確認する。だがDWウルフからは一撃も喰らっていないので特に怪我は負っていない。ただ極度の緊張で精神は結構削られた。
「ああ、大丈夫だぜ。それより援護ありがとうな」
「い、いえ……元はあたしの足が遅いのが原因なのですから……」
リリアは申し訳なさそうに俯くが、彼女のせいでないことは龍児が一番よくわかっている。DWウルフが賢かっただけだ。
「そんなことはないぜ。現にこうやって誰も被害はないんだからよ。リリアはよくやってる。自信持てよ」
そう言って龍児は笑って彼女の頭を撫でた。
◇◇◇◇◇
最初の陽動作戦はいきなり強敵であるDWウルフに見舞われたが幸運にも無傷で勝利を収めることができた。
レイラや龍児達は次のチームと交代をする。自警団は順調に辺りのモンスターを次々と罠にはめて一掃してゆく。
ある程度一掃すると罠の位置を変更する。再び辺りのモンスターをおびき寄せては罠にはめる。これを幾度も繰り返すとやがて砦候補の場所の確保に成功した。
シュチトノの街の北側、しっかりとした防壁と煉瓦造りの建物が多く立っていた場所。その建物を利用して外壁に囲まれた内側にさらに小さな防壁を作成して安全地帯を確保する。
外壁の上からは川を渡るポイントが北東に見えていた。ここから監視をして攻略部隊の
川を渡るポイントにも簡易砦を作らなくてはならない。多くの人数や補給物質を送る船も必要となるため、モンスター工場への攻略はまだまだ時間を必要とした。
なにはともあれまずはここの砦を構築しないことには始まらない。ここからはギルド総会から派遣した技術者たちと傭兵、作業員達が主体となって砦を築く予定だ。
その間砦周辺に大掛かりな罠をしかけて近隣のモンスターを一掃をするのだ。
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