第303話 剣獣再び1

「撃て!」


 レイラの命令により一斉に矢が放たれた。


「即時撤退!」


 続けて罠の場所へ誘うよう指示する。


 放たれた矢はDWウルフに当たるものの鋼のような体毛に拒まれて弾かれた。突如の攻撃にDWウルフはレイラ達を一斉に睨んで追撃に入る。


 狩りの時間だ!


 荒れる大地を駆けてレイラ達は罠の位置へと撤退する。龍児とレイラ、他2名は殿を勤めているが彼らはやりたくてやっているのではない。


 一番足の遅いリリアの歩調に合わせた為にそうなった。リリアも必死に走ってはいるが普段から鍛えているわけではないのでこれが精一杯である。


 息を切らせながら彼女は振り向く。先頭のDWウルフが射程に入った!


「プロテクションウォール!」


 グレイトフルワンドから登録しておいた魔法の自動詠唱が発動する。杖の魔法石が輝くと魔方陣が描かれて魔法の壁が形成された。


 DWウルフは突如の目の前に現れた光の壁に追突して足を止めてしまう。そこに後ろから仲間に追突されて後続も足が止まった。


 しかし、魔法壁は群れ全体をカバーできず、両脇から追撃者が漏れた。足止めを喰らったDWウルフも障壁を迂回して再び追撃にはいる。


 リリアは続けざまに魔法壁を連続展開してそれを拒む。


 このような芸当ができるのはグレイトフルワンドのお陰である。もしこの杖がなければ彼女はいちいち立ち止まって長い呪文を詠唱しなくてはならない。


 そうすればたちどころに追いつかれて殺されるだろう。


 刀夜が大枚を支払って買ってくれたお陰だ。彼のお陰で自分は生きている。そう思うと感謝の気持ちと共にリリアの声に熱が籠る。


「プロテクションウォール!!」


 まだ14歳の少女がこれ程頑張っている。大人ですら慄然とするこの状況の闘いに……


 そう思うと先に逃げている兵士達は速度を落として彼女を守るように並走しだした。


 ――年上の男が彼女の前で無様な姿など見せられない!


 リリアはそんな彼らの心意気に感動するとさらに熱を込めて魔法を叫んだ。やがて彼らは罠が設置してある広場へと踊り出た。


「リリア殿、もう魔法はいい。全員一列体制で駆け抜けろ!」


 この広場で罠が無いところは真ん中にある人一人分の道しかない。それも見た目では道は分からないようになっている。事前に何度も練習しておいたお陰で彼らは道を外さずに済む。


 一列となって広場を突き進むと、周りからどよめきが起こった。現れたDWウルフの数の多さに驚くと同時に、よく無傷で帰ってこれたなと感心したのだ。


 囮を追いかけてきたDWウルフは広場の砂場に出ると、突如足を捕らわれた。勢い余って次々と転倒してゆく。


 広場はさらさらの砂が敷き詰められている。しかし足を取られるほど深くはない。


 転倒した元凶を見てみると自分の足にロープが縛りつき、それは地面から生えていた。足を引っ張っても外れる気配はない。


 頭の角でロープを切り裂こうとするが、何か硬いものがあり斬れそうにない。ロープにはワイヤーが仕込んであるのだ簡単には切れない。


 囮の先鋒隊が柵の間を通って抜けてゆく。柵は罠が仕かけられている広場を囲むように展開されて自警団が待機していた。


「ようし今だ! 撃て!」


 今回の遠征用に開発した小型のバリスタから鋼鉄の矢が一斉に発射された。


 足を取られて身動きできないDWウルフは四方八方から鉄矢の雨にさらされた。次々と血を流して一方的に命を散らしてゆく。


 仲間を呼ぼうとDWウルフは遠吠えをあげた。だが不思議なことに声にならならずDWウルフが唖然とする。魔術師たちがサイレント魔法を施して広場一帯は無音効果に包まれていたためだ。


 次々と鉄矢を受けて血まみれとなってゆくDWウルフ。自慢の剛毛も鉄矢にはかなわない。


 囮の先鋒隊の最後、龍児が罠のエリアを抜けようとしたとき、彼は急に背後から悪寒を感じた。


 振り向くと一匹のDWウルフが龍児を追いかけてきている。それも罠のない道をトレースして走ってきていた。


「マジぃ! このままではトラップゾーンを抜けられてしまう」


 DWウルフは一匹でも驚異的な戦闘力を持っているため、絶対にこのエリアから逃がしてはならない。そう判断した龍児は立ち止まってぎ払いの体制に入った。


 周りを囲っている柵では奴の跳躍力で越えられてしまう。リセボ村での戦いの経験が龍児にそう囁いた。柵を越えられたら甚大な被害がでる。


「龍児様!」


 振り返ったリリアが心配そうな顔をしている。


「大丈夫だ! 任せておけ!」


 龍児は丁度罠の途切れ目を陣取った。自分は前後左右に動ける、だがDWウルフは前後にしか動けない。その点で有利だと。最も敵の突進を止めれればの話であるが。


 龍児は突っ込んでくるDWウルフにバスターソードを振るった。


 だが次の瞬間、DWウルフは跳躍し龍児の頭上高くジャンプする。てっきり体当たりか直前で止まると思い込んでいた龍児は完全に虚を突かれてしまう。


「なにぃぃぃぃぃ!」


 非常にまずい展開である。自分を越えられたら仲間がやられる。しくじったと自分の浅はかさを呪った。


「プロテクションウォール!!」


 龍児の頭上で魔法壁が展開されてDWウルフは激突した。そしてズルリと龍児の頭上から落ちてきた。


「うおおおおおっ!」


 あわてて後へと逃げるとDWウルフは猫のように体を捻って着地する。


 龍児はチャンスとばかりにバスターソードを振うと長身の剣尖が弧を描く。それを今度はDWウルフがバックステップで回避すると剣圧により俄かに敷かれた砂が煙をあげた。


 DWウルフは一歩でも道から足を踏み外せば罠にはまることを理解している。互いに睨みあう形となると龍児はゆっくりと相手に剣先を向けた。


 DWウルフも喉を鳴らして龍児を見下ろす様に威嚇する……


「次は逃がさねぇぜ」

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