第302話 シュチトノ奪還作戦開始

 ピエルバルグ、ヤンタル、リセボ村のシュチトノ奪還合同部隊は草原を抜けて街道へと出た。すでにモンスターとは遭遇して何戦かこなすもののこれだけの大部隊となると瞬殺である。


 合同部隊は自警団は無論の事、魔術ギルドからも約半数以上の魔術師が駆り出されている。特に魔術図書館で惰眠をむさぼっていた連中は全員有無を言わさず駆り出された。


 自称魔法開発などと言っているがギルドにも街にも貢献していない連中だ。自業自得と言える。


 有能な人材は大抵街の要職についているので魔術ギルドとしては駆り出すことはできない。彼らが抜けたら街の運営に大きな支障が生じてしまう。


 そしてリリアも表向きは普段から街やギルドに貢献していないという理由で駆り出されてた。巨人兵討伐や教団壊滅に貢献したはずだがそれ以外では特に何もしていないからという言い分だ。


 そう口にしたのがオルマー派の弱体を狙たロイド上議員だ。自警団出身の彼は自警団の不都合なことをよく知っている。これには団長も口答えができなかった。


 そんな彼女のかたわらには常に龍児がついて守っている。刀夜のとの約束を果たすために。


 刀夜の手前、命の平等を訴えたが、実際にはリリアの側にずっと寄り添って彼女を守っている。龍児の本音を言えば部隊の中でもっとも若く、女の子であることが守りたい対象として最上位に位置付けた。


 しかも彼女は奥ゆかしく、回りに気を使い、気立てが良い。龍児にとって守ってあげたい女の子としてドストライクな存在だ。


 男の理想を描いたような娘。だけどそんな彼女はあの刀夜に首ったけなのだ。あんな陰湿な男のどこが良いのだろうか? パーフェクトのように見える彼女だがその一点だけは理解に苦しむ。


 とはいえ龍児にとって彼女は守ってあげたい存在であることには変わらない。無論刀夜に宣言したとおり、自分の部隊の連中も守る対象であることは龍児の中では揺るぎない。


 進軍にも飽きてきた龍児は周りの警戒もおろそかになり、そのようなことばかり考えいた……


 しかしシュチトノの街に近づくたびにモンスターとの遭遇は増えてゆく。先鋒を担っている部隊がこれを殲滅するが、先鋒は順次交代制である。


 龍児とリリアもすでにサーベルドワイライト相手に一戦交えてた。


 長く緩やかな丘を登りきるといよいよシュチトノの街が見えてきた。街の周囲には調査の時と同じくサーベルドワイライトやゴルゾンが徘徊している。


 まずはこれを排除しなければならない。排除せずに街へ入ると包囲されるため危険にさらされる。


「かねての計画通り、1警は左翼! 2警は右翼! ヤンタルは中央を! その他は背後の防衛を! 各隊は散開!!」


 この遠征の指揮はピエルバルグ自警団団長ジョン・バーラットが行っている。


 ジョンの号令により各部隊の騎馬隊が突撃して計画通り行動を開始する。各自大声をあげて自身や周りの者に気合いを入れると馬の蹄の音が轟音と変わる。


「じゃぁな、由美! やられんじゃねーぞ!」


 龍児も周りの声に駆り立てられ興奮している。


「誰かさんにたいみ無茶はしないわよ。自分のこと心配したら?」


 対して由美はいつものように冷静だ。


 龍児は1警、由美は2警なので真逆の方向となる。龍児は由美を心配したようだが彼女の武器は弓だ。龍児よりはるかに安全な後方からの攻撃となる。


 むしろ何かと突っ込んでゆく龍児のほうが危なっかしい。ゆえに由美とって龍児に心配されるなど心外であった。


 シュチトノの街の入り口は北東にある。まずはこの周辺を攻略しつつ街の中へと進軍する予定である。


 各部隊は一丸となって馬を飛ばして目標へと向かってゆく。巨大な防壁が視界一杯になると一斉に散った。


 防壁の門の広場には固い甲殻を持つゴルゾンが密集しており、ヤンタルの自警団は鈍重武器を主体とした兵士がこれを相手した。


 大きなハルバード構えて凸陣形をとると、ゴルゾンの集団に突撃する。馬の速度が相まってハルバードがゴルゾンの硬い表皮を貫いた。


 さらにやってきた後続が各々の重量武器を振りかざし、ゴルゾンをなぎ倒してゆく。圧倒的な数にゴルゾンはなす術もなく駆逐されてゆく。



 左右に散った龍児や由美はサーベルドワイライトを相手にした。背の低いモンスターは馬に乗っていては攻撃しにくい。先鋒である龍児は馬を降りてバスターソードを振るう。


 由美やリリアのような後衛は馬に股がったまま援護をかけた。


 一気に戦端が切り開らかれて街の外壁では獣と兵士の叫び声が轟いた。


◇◇◇◇◇


 龍児達がモンスターを殲滅して防壁の門へと戻ってきた。すでに門前の広場の敵は殲滅しておりゴルゾンの遺体が散乱している。そしてヤンタルの自警団は罠の準備に入っていた。


 次々と辺りに散開していた部隊が帰ってくると、ジョンが率いる本体も悠然と合流した。


「各隊は被害状況の報告を!」


 副団長のグレイス・バースが呼びかけると分団長クラスが集まって報告を始めていた。その間、殲滅を担っていた部隊は休憩に入る。


 由美もリリアも無事で、死者は出ていないようで何よりであった。


「よっしゃぁ。この調子でバンバン行くぜぇ」


 絶好調の前哨戦に龍児のテンションは上がりっぱなしだ。


「そうも行かないわよ。むしろ危険なのはこれからよ」


 そう、ここからは敵を罠のあるところまで引き寄せるもっとも危険な作業にはいる。一度敵の懐に入りこむので危険極まりない作戦が展開される。


 特に街中は瓦礫が多く足場が悪い。加えて死角も多いため龍児とリリアは危険にさらされる。


 その後数回ほどはぐれたモンスターと交戦があったが数は知れている。軽く撃退したのち食事を済ませた。そして食事が終わるころには罠の準備が終わる。


 ジョンの命令で作戦が開始された。先鋒の第1陣はレイラの部隊だ。率いる数は12名、万が一全滅しても大損害にならないよう絞られている。


 慎重に最初のコロニーを目指す。やがて彼らが目にしたのは一番相手にしたくないモンスターであった。


 大型の狼のような体に白と黒の斑模様。頭に巨大な剣のような角。すなわちDWディザートワーウルフの群集である。


 龍児が嫌な顔をする。あの顔を見るとリセボ村での決闘を思い出さずにはいられない。一匹でもあれほどの強さなのにそれが集団で密集しているのだ。しかも巨体にも関わらず動きは俊敏である。


「レイラさんよぉ。マジであれと殺るのかよ?」


 龍児はげんなりとした顔で指を差した。


「真っ向からやり合うわけじゃない」


 とは言うもののDWウルフが相手では逃げ切るのは不可能である。となると頼みの綱は予定通り彼女しかない。


「リリア殿、いけるか?」


「相手は12匹ですね。あれ以上増えないのであればなんとか……」


 と言いきったもののはっきりとした自信はない。何しろこのような戦闘経験今回の遠征が初めてなのだ。リリアはグレイトフルワンドを握りしめて喉をゴクリとならし緊張を漂わせた。


 だがDWウルフ相手にそう言ってのけることにレイラは凄いと思うのであった。龍児ほどではないが正直いってアレはあまり相手にしたくない。そのくらい強さが桁外れな相手なのだ。


「では始めるぞ。皆いいな!」


 レイラの激に合わせてクロスボウを構えた。

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