第300話 キュリエスVS刀夜2
「お頭ぁ~」
キュリエスの部下が泣きそうな顔で見つめた。なんとも情けないことこの上ないことだが、気持ちは分からないでもない。キュリエス自身も見たことのない武器の前に躊躇しているのだ。
しかし、ここでじっとしていてもじり貧である。逃げるにしても洞窟の外はモンスターに囲まれているのだ。
モンスター多数と刀夜一人、どちらが良いかなど答えは出ている。
「じっとしていても拉致はあかねぇぞ! 腹ぁくくれやァ!」
部下を焚き付けるには少々心もとない言葉であるが他に思いつかなかった。
「いいか奴を引きずり出して弓矢で串刺しにしてやるんだ!」
キュリエスはクロスボウガンを構えて意気込みを示してみせた。元より彼の命令には逆らえない。逆らえば後が怖い。
ゴロツキどもが覚悟を決めたとき、彼らの足元に筒状のものが空から落ちてきて転がった。筒の先端には短い紐が伸びており、バチバチと火花を散らして音を立てている。
キュリエスは長年の勘でそれが極めて危険だと感じ取った。背筋にこれまでに感じたことのないほどの悪寒が走る。
咄嗟に岩裏に隠れる。
と同時に
洞窟を揺るがすような爆発の圧力に体全身バラバラになりそうであった。
爆弾の近くにいたゴロツキの数名が爆発の餌食となる。辺りは砂煙が立ち込めて視界が奪われた。耳は鼓膜をやられて聴力を失う。辺りには嗅いだことのない硝煙と良く知る血の臭いが立ち込めた。
キュリエスは一体なにが起きたのか理解できなかった。ただ分かってるのはこれは刀夜の攻撃だということ。正体不明の攻撃に彼は恐怖に囚われてゆく。
やがて砂煙が少し流れると彼の目に飛び込んだのは見たこともない惨劇であった。
直撃を受けた者は人の原型をとどめておらず、辺りに肉片と血をまき散らしていた。直撃を回避できた者ですら大ダメージを受けて身動きができなくなっている。
チッ!
刀夜が舌打ちをした。彼が投げた爆弾は一見するとダイナマイトだ。だが洞窟内で使用することを想定して火薬の量を減らして代わりに金属片をしこたま詰め込んだ。
なのでどちらかというと手榴弾の類いだったのだが、想定より洞窟の岩盤は弱そうだ。先程の爆発の影響で天井からパラパラと土が落ちてきた。
折角用意したのだが、あまり使うと天井が崩れる可能性がありそうだった。あと1、2回使ったら止めておいたほうが良いような気がしたので刀夜は銃撃戦を主流に切り替えることにした。
「はーッ、はーッ、はーッ、はーッ!」
キュリエスは必死に平常心を取り戻そうと荒立てる呼吸を抑えようとした。だが冷や汗が次々と流れてくる。喉が渇きを訴える。そして彼の脳裏は刀夜を挑発したことを後悔し始めていた。
『ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ! ヤバすぎる! とんでもないヤツを敵にしてしまった! どうする? 奴のほうに寝返るか? いやダメだ奴は皆殺しにする気だ。その為の罠なんだ。俺でもきっとそうする。生き延びたいがために裏切る奴など即刻地獄ゆきだ』
キュリエスがどうするか悩んでいると再び銃声が轟く、再び悲鳴が聞こえた。まだ砂煙で視界がはっきりしないが銃声は違う場所から聞こえた。
『野郎、この砂煙を利用して移動しやがったな……』
そのときキュリエスは一つの案が浮かんだ。刀夜は元いた場所から岩づたいに砂煙に紛れてこちらに来たに違いない。ならばこちらも砂煙に隠れて広場側から回り込めば奴に気付かれずに背後を取れる。
さらに銃声が聞こえた。
迷っている暇はないと腹をくくったキュリエスは岩陰から飛び出し、まだ砂煙が残る広場に躍り出た。
足音を殺しながらすばやく移動する。そして砂煙から飛び出して元々刀夜が隠れていた岩陰に隠れた。
『やった。やってやったぜ。これで奴の背後だ。まさか背後から襲われるなど思いもよるまい』
先ほどまでの恐怖心が吹き飛ぶと勝利を確信する。再び複数の銃声が聞こえてると部下の悲鳴が聞こえた。
『くそが! お前らの
歯ぎしりを立ててクロスボウを構えながら銃声のする方向へと足を運んだ。すると岩影づたいに移動しながら長細い棒切れのようなもので仲間を攻撃している刀夜の背後が見えた。
『あれが奴の武器か。奴を殺したら俺が頂いてやるぜ。そうすれば俺は天下無敵だ!!』
はやる心でキュリエスは一気に刀夜との距離を詰めた。
だがその瞬間、足の裏に激痛が走る!
「ぐわぁ!」
一体何かと足元をみると何やらトゲトゲの鉄棘が至る所に落ちており、それを踏み抜いてしまった。トゲか靴底を貫き、足を貫通していた。
それは刀夜が仕かけた『マキビシ』である。背後からの攻撃を警戒して散らしておいたのだ。
思わず声を出してしまったキュリエスに戦慄が走った。
刀夜が振り向いて先ほどの筒をこちらに向けていたのだ。殺られると感じた瞬間、咄嗟にその場を飛びのいた。
だが銃声と共にキュリエスの左腕と持っていたクロスボウガンが吹き飛ぶ!
激しい激痛に見舞われたがキュリエスは肩ベルトに仕込んでいる投げナイフを刀夜に投げつけた。刀夜はまさかこの状況で反撃がくるとは思っておらず、それを肩で受けてしまった。
「ぐっ!」
うめき声を一つ立てるも痛みに耐える。幸いにも無茶な体制から放たれたため威力はなかった。傷は浅い。毒が塗られていないのは幸いだった。
攻撃してきたのは例の黒づくめの男だ。リリアをどうのこうの言ってくれた奴だと認識すると刀夜の標的はキュリエスへと向いた。
「うう……ちくしょう。俺の、俺の、俺の腕が……あの野郎ぅ、殺してやる!」
左腕を止血しながら腕を失ったことでキュリエスは恐怖よりも怒りが上回った。
ジャリジャリとこちらに向かってくる足音……
キュリエスは再び投げナイフを三本抜くと構えた。
――この一撃で決める。姿を現した瞬間が勝負だ。
極度の緊張感の中、全神経を集中する。額の汗がたらりと流れた。岩陰から棒を構えた男が現れる刹那、
ドスドスと刺さる音にキュリエスは手応えを感じた。
だが次の瞬間、彼が目にしたのは血まみれとなった部下の姿だ。投げナイフは部下の体に刺さり、刀夜はその背後に隠れていた。そして部下の脇からショットガンを
「あっ、ち、ちくしょう……」
キュリエスは敗北感に見舞われた。完全に闘志を奪われると覚悟を決めた。刀夜は無慈悲に引き金を引くと銃声と共に男の右腕が吹き飛ぶ!
「ぐおぉぉ……」
激痛に悶絶するキュリエス。
「てめぇ、わざと……」
「当たり前だ。誰が楽に殺してやるかよ」
刀夜から無慈悲な冷たい視線は決して許さないと強く訴えかけていた。
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