第298話 復讐劇狂乱

「全員洞窟に避難だ! 柵を盾にして長物で対処するんだ!!」


 キュリエスの指示に皆は柵の間をすり抜けて洞窟へと逃げてゆく。同時に熊のようなモンスターが襲いかかってきた。


 最後の一人が柵を越えると閉めてグリズホッグが入ってこれないようにする。熊の跳躍力ではこの柵は越えられない。柵には相手を威嚇するようにトゲが向いている。


 だがそれでもグリズホッグは柵を破壊しようと仁王立ちとなると前足でトゲを破壊した。その衝撃で柵が浮く。


 このままでは柵が破壊されると恐怖したゴロツキが地面に落ちていた槍を手にすると、大声をあげて柵ごしに攻撃仕掛けた。だが槍に刺されても熊の勢いは止まらない。


 キュリエスを初め、他の者たちも次々と槍を手にして熊と対峙する。洞窟の入り口で防衛戦が展開される形となった。


 刀夜と団長と数名は洞窟の奥へと逃げる。


「こっちだ」


 刀夜は先頭をきって洞窟内を走った。まだ全力疾走はキツいものがあるので足をヒョコヒョコさせている。だがそれでも団長よりは早い。団長の部下は彼を守るように団長の速度に合わせていた。


 洞窟内はやや湿った感はあるが、所々天井が抜けているので通気性があり、濡れている個所はそう多くは無い。しかし逆にこけが生えているところがあり、それに足を囚われて転ける者もでた。


「この先はどうなているのですか?」


 息を切らせながら団長が問うた。


「確か行き止まりになっているはず」


「そ、それでは逃げられないじゃないですか!」


「大丈夫だ最奥は非常用の倉庫になっているという話だ。そこで武器を調達しよう」


 団長は本当に大丈夫かと半信半疑だが戻るわけにもいかない。刀夜はどんどんと走って団長たちと距離が開いてゆく。


 曲がりくねった洞窟を進み、さらに奥に進むと大きな広間へと出た。天井から差し込む光も減って少し薄暗いところだ。


 広場の中央は大きな穴が空いており、深さは5、6メートルはある。底には大きな岩がごろごろとして水が少し溜まっていた。


 刀夜はその穴を右回りに迂回してゆく。そのあとを団長達一行がヒイヒイいいながら着いてきていた。


 刀夜は最も道の細い場所を抜けたところで突然立ち止まる。そして団長達が刀夜に追いつきそうになると刀夜が振り向いた。


 その表情に団長達がどうしたのかと立ち止まると、刀夜は壁に隠してあったロープを思いっきり引っ張った。


 同時に団長達の足元で爆発が起こる。


 彼らは鼓膜が破れるかと思うほどの爆音を初めて経験して恐怖した。同時に足元が崩れる。


「うわあああああああああ!!」


 衝撃で崩れ去る地面と共に団長を含む8名が穴に落ちた。砂煙があがって硝煙の臭いが辺りに立ち込める。


 そのような中、難を逃れたゴロツキの三人は崩れ去った崖を前に何が起きたのか把握できず、ただ呆然と立ち尽くした。


 崩落した崖の向こうで刀夜がたたずむ。彼の眼光は先ほどとは異なり殺意をむき出しにしていた。


 左脇のホルスターから黒光りするリボルバー拳銃を抜くと彼らに向ける。団長の部下は拳銃を向けられても初めて見るソレが武器であると認識できない。


 ただただ刀夜の突然の行動に、その状況にまったく頭が追いついていなかった。


 トリガーを引くと同時に撃鉄が跳ねて雷管を強打する。洞窟に鳴り響く銃声と共に部下の一人の胸が破裂して血を噴き出した。


「ホローポイント弾だ。当たればまず助からん……といってもわからんか」


 さらに銃声が2発鳴り響いた。


 刀夜の使用している銃はトップブレイク方式の拳銃だ。拳銃を銃身を折り曲げてシリンダーを露出させると使用済みの薬莢を抜き捨てる。


 そして腰の弾倉から新たに弾を取り出して装弾すると脇のホルスターへと戻した。


 崩落した土砂に半分埋まっていた団長は銃声で目覚めた。


「う……うう……痛い」


「目覚めたか?」


 刀夜は穴の上から団長を見下ろして尋ねた。


「だ、旦那。一体何が……」


 団長は自分が穴に落ちた理由も刀夜が裏切ったことも分かってはいない。


 痛む体で土砂からはいずり出てくる。団長のみならず落ちた全員が死を免れたようだ。


「無事でなによりだ」


「そう思うなら助けてくださいよ」


 分かっていたが皮肉も通じない。それは仕方のないことと刀夜は深くため息をつく。それだけ団長は刀夜を疑わなかったのか、立場的に仕方が無いと思っていたという事なのだろう。


「簡単に死んでもらっては折角時間をかけて講じた策が泣くってもんだ」


「は? いったい何を……」


 じれったいと感じた刀夜は種明かしを始める。団長の裏切られて死を目前にした顔をみてやりたいのだ。


「わからんか? お前たちは俺の策にハマったんだよ」


「なんの……冗談ですか……」


「冗談? 冗談で人殺しをするとでも思うか? お前たちがリリアに何をしたか……彼女が味わった屈辱と苦しみを、それ以上の苦しみをもって償ってもらうぞ」


 ポーカーフェイスを決め込んでいた男の顔が本性を現した。悪魔のような表情に彼は本気で殺しにきてるのだと団長はようやく理解した。


「な、なぜです!!」


「お前たちは自分が何をしたのかも理解していないのか?」


 この期におよんでも団長は自分たちが殺されなければならならい理由に否定的であった。そのことが刀夜の怒りに油を注いだ。


 団長はなんとしてもこの不利な状況から脱することを考えている。だが力ずくも恐喝も出来ない状況では説得しか思いつかない。


「ど、奴隷は必要不可欠ですぞ。奴隷がいるからこそ商人が繁栄する。奴隷は飢えから解放される! 例え疎まれようともこれは救済ですぞ! だからこそ我々は世界から必要され、暗黙の――」


「黙れッ!!」


 刀夜の怒りの恫喝の前に団長は押しつぶされそな威圧感を感じた。団長の説得は刀夜の目的を理解しておらず、助かりたい一心で完全に頭が空回りていた。


「救済だと、性奴隷が同じだとでもいうのか!」


「そ、それは……」


 団長のいうとおりただの奴隷なら彼の意見もまかり通ったかもしれない。刀夜もただの奴隷を扱っているだけなら何の文句もなかったのである。


 だが性奴隷はその理から外れた存在なのだ。しかしそれとて本来ならば刀夜は干渉する気はなかった。


 自身の正義感を他人に押し付ける気などさらさらないし、無駄な争いは避けたいところだ。


 それに生き延びる術を持たない者がどのような運命をたどるとも知ったことではない。


 相手に敗北感を味合わせるために理屈はこねるが、刀夜の怒りはリリアのことに対してのみである。


「無理やり奴隷にしたあげく子供を産めない体にされ、最後は捨てられて死ぬ運命。それが他の奴隷と同じだとでもいうのかッ!!」


 そのような奴隷の入手方法は大別して2つある。一つは親が生活に困って娘を売る場合。もう一つは奴隷商人が襲って強制的に奴隷にする場合である。


 リリアは後者にあたるが共通して言えることは本人の意思を無視していることだ。リリアの体をもて遊び、心に深い傷を負わさせたことを刀夜は許せなった。

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