第294話 奴隷商人再び1

 そしてついにシュチトノ奪還作戦が開始される。1警2警の合同部隊に議会から派遣された傭兵部隊が加わり、これまでにない大部隊が編成された。


 さらにリセボ村、リプノ村からも援軍が合流することになっており、ヤンタルからは1警が派遣されて道中で合流する予定となっている。


 色々と問題がおきたがとりあえず刀夜の思惑どおりことは進んだ。


 多くの者がメインストリートに集まって彼らを送り出した。その人数は出口である門までの道のりを埋め尽くす。それだけ街の人はこの作戦に大きな期待を寄せていた。


 彼らにしてみれば街が一つ解放されて、モンスターの工場が潰されることにより外の世界が多少でも安全になるのを期待している。特に巨人兵が作られるかもしれないという懸念がなくなるのは大きい。


 そんな群衆の中に刀夜たちも混じってリリアの見送りにきていた。


 馬に乗った龍児が見送りにきてくれてくれている舞衣たちに手を振るが、刀夜と目が合うと彼はプイと進行方向を向く。


 続いてリリアがやってくると彼女は皆に頭を下げながらも刀夜を見つけると彼女の視線は最後まで彼を追った。


 刀夜はそんなリリアに、彼女に黙ってこれから成そうとしている事に後ろめたさを感じずにはいられなかった。


 ――そして2日後、ハンスの言ったとおり奴隷商人たちが街にやってきた。


 いつものように荷馬車が3台、豪華な馬車が1台、要塞のような馬車が3台。ピエルバルグの西門を潜って日のあるうちにセリ会場へ到着すると、その夜にセリが始まった。


 刀夜は前回と異なり、色街から会場へと向かう。胸元と太ももをあらわしにして色気のフェロモンを漂わせた幾人もの女性が男を勧誘している。


 中には露出がすぎて男とトラブルになっている者もいる。すると店から現れたゴツイ男から一方的に殴られるわけだが別に命までは取られるようなことはない。ケンカなどここではいつもの出来事と、だれも関心を示さない。


 刀夜にも妖艶ようえんなお姉さんが声をかけてきた。見開いた膨満な胸相手に若い衝動を抑えつつ、つど断って彼は先を進んだ。


 同じ春を売るでも彼女達と性奴隷は大きく違う。彼女たちはちゃんと仕事内容に応じて報酬をしっかりともらえる。それに加え店の売上にも影響があるから大事にされる。


 対して性奴隷は自由はなく、大抵の場合は子供を作れない体にされたあげく飽きたらボロ雑巾のように捨てられるのだ。


 それを思えばまだ幸せなことだ。いつでも自由に辞める選択肢があるのだから。


 刀夜は色街を抜けて裏街道に入ってゆくとすぐに奴隷商人の馬車を見つけた。


 薄暗い陰気な雰囲気の中、馬車の停泊している道を進む。さらに脇道に入っるとセリの入り口に続く道になる。


 そこは以前に刀夜がリリアを見つけた場所だ。だが感傷浸っている時間は無いので、早々に切り上げて思いでの場所を通り抜ける。するとセリ会場の入り口にたどり着いた。


 入口の前に燕尾服を着た二人の大男が立っている。実に懐かしい顔ぶれだ。彼らは刀夜と出会うと仏頂面がみるみると驚きの顔へと変わる。


「お、お前は!?」


 彼らは刀夜が生きていたことに驚いた。ボロボロになっていた刀夜を馬車の所で見つけたのが彼らだ。


 その時は古代金貨を持っていたことには驚かせたが、底辺の一般人にしか見えなかった。そんな彼がオルマー家といざこざを起こせば只では済まない。てっきりもう死んでいるものと思った。


「セリはまだやっているか?」


 刀夜は彼らの心情を察しつつも、不敵な笑みを浮かべて片手をあげて挨拶をした。


「あ、ああ……まだやっているが、男たちはもう終わりだ」


「そうか。今日は買いにきたわけじゃない。団長に会いにきた。だが折角だからのぞいていくよ」


 そういって刀夜は彼らに金貨の入った袋を見せた。ざっと軽く見ても100枚以上は入っている。その中から金貨を一枚取り出して男に渡した。


「終わったら団長に合わせてくれ」


「ステージ前に行けば普通に会えるさ……」


 そういって開けてくれたドアを刀夜はくぐって中へと入ってゆく。扉を閉めると男は慌てた様子で相棒と顔を見合わせた。


「ここを頼む。俺は団長に報告をしてくる!」


「わかった」


 大男は刀夜が生きていたことを報告をしに馬車へと向かった。しかしタイミング悪く丁度団長がステージに立つころである。


 刀夜がホールへと入るとメイド奴隷たちのセリが終わった頃であった。


 ライトが落とされて辺りが暗くなる。刀夜は暗闇の中で階段を降りると一番前の豪華な椅子に座った。そこはいつもカリウスが座っている場所である。


 指を鳴らす音が聞こえると赤い光が照らされて淫靡いんびな雰囲気を漂わせ始めた。キラキラの派手な燕尾服を着た団長が自慢のW字の髭を鋭利にとがらせてステージへと躍りでる。


「さぁ! お待たせしました皆さん。お待ちかねの商品の登場です!」


 団長が指を鳴らすと十代ほどの少女達が出てくる。身につけている衣装はピンク色のシースルーの布切れが1枚と前回と同じ衣装である。


 彼女たちはほとんど裸の露な姿をさらしてステージ中央へと赴く。そして足には痛々しい鎖がつけられており、歩く度にじゃらじゃらと不快な音をたてた。


 ステージに登場した女の子たちは全部で四人。うち二人の目に光は無く表情が死んでいる。すでに絶望に落ちた娘たちだ。


 後の二人はまだ目に活力が残っているが、そのうちの一人の表情は雲ていた。未来を見失った娘だ。


 最後の一人は慣れない感じで少しオロオロとしている。どことなくリリアを思い出す娘だ。


 今回は全員同族のようである。


 どの娘も粒ぞろいで特徴的であり、本来なら盛り上がるところだ。だが会場に居合わせている客の入りは悪い。


 シュチトノ攻略作戦のスポンサーを募った件が影響していた。団長はそれでもいつものテンションで司会を務めようとする。


「それでは最初の娘は――」


 彼はざっと客の様子を眺めながら紹介をしようとしたとき刀夜と目が合ってしまう。刀夜は不敵な笑みで指先だけで挨拶を交わした。


 団長の背筋に寒気が走る。


 忘れもしないそのゲゲゲヘアーかみがた。あの古代金貨男がなぜ生きているのかと。


 それもこれ見よがしにカリウスの席に座っているではないか。なのに毎回顔を出していたカリウスの姿がない。


 なぜこの男がそこに座っているのか? まさかカリウスはこの男に返り討ちにあったのだろうか? となると告げ口をしたのが自分であるとバレているのか?


 ――まさか……仕返しにきたのか!?


 そんな思いに囚われると冷や汗が止めとなく出てくる。相手は仮にもこの街の最高権力者であるオルマー家の息子なのだ。どのようなマジックを使えば生き延びれるのかと恐怖した団長はステージ上で硬直してしまった。

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