第291話 刀夜VS自警団1

 数日後、議会でシュチトノ奪還作戦が可決されて自警団を含む多くの者が準備に入った。それを見届けた刀夜は再び単独行動を起こそうとする。


 今度は7日間も家を空けると彼は言い出したのだ。だがこうなると舞衣達は刀夜の行動は火薬のテストだとは思えないと詰め寄った。


 しかし、刀夜は真意を明かせないとし、黙秘を貫いたままでかけてしまった。そして彼がいない間に事件が発生する。


◇◇◇◇◇


「ただいま」


 刀夜は重い雰囲気で家の扉を開けた。単独で行動をしたことでまた皆に攻め寄られるかと思うと気分が重かった。


「刀夜!」


「刀夜君!」


 晴樹と舞衣の大声で刀夜はそらきたと身構えるが、彼らの表情から異変を感じた。二人のあわてふためく姿は単独行動の件ではなさそうだと。


「どうした?」


「刀夜がいない間に大変なことが……」


 晴樹の表情からしてかなり深刻なことが起きたのだと伺える。


「リリアちゃんが遠征部隊に組み込まれてしまったの」


 刀夜が家を出てから四日後に魔術ギルドのアレスがやってきてリリアに出動要請の依頼を伝えた。依頼と言っても名ばかりで断ることはできない事実上強制である。


「……そんな事か」


 肩透かし食らったかのように刀夜は肩から力を抜くと素っ気ない言葉を返した。


 この遠征の話を持ち出したときからそのことは十分ありえることなで刀夜は初めから覚悟をしていた。なによりもリリアにも要請はあるだろうと話はしてある。なのでこの話は彼にしてみれば今さらであった。


「魔術ギルドの所属するかぎりそれは避けられないことだ。その為の地位と名誉なのだから」


 このことは舞衣たちにも話はしてあるはずである。ギルドに所属することがリリアを守ることになることも理解しているはずなのだ。


 だが舞衣の血相は変わらない。


「それだけじゃないのよ!」


「?」


 刀夜は舞衣が何を危惧してるのかと不思議そうにする。だが彼女の青ざめぶりからただごとでは無いことは伝わってくる。


「由美からの情報によるとリリアちゃんの配置は先鋒だって!」


 その言葉を聞いた刀夜はようやく彼らがなぜ焦っていたか理解した。そしてそのような話があるかと刀夜も血の気を失った。


「そんな馬鹿な……彼女はまだ14歳だぞ! そんな年端もいかない娘を一番危険な所に配置するのか!?」


 いくらリリアの魔法が凄くとも彼女の戦場経験はほぼ無いのと等しい。巨人兵戦で最前線に立ったことはあったがあの時とは事情が違うのだ。


 自警団と共に前線にたつのなら連携訓練が必要であり、リリアはそのような訓練もしていない。そもそもそのような年齢ではない。ゆえに刀夜は出動の要請があったとしてもせいぜい後方勤務だろうとたかをくくっていた。


 そしてこのような事にならないようアイリーンやレイラを始め裏で恩を売って根回ししていたのだ。刀夜にしてみれば裏切られたような思いであった。


「リリアは?」


「部屋にいるわ……」


 舞衣の返事を聞くな否や刀夜は部屋へと向かった。扉をあけるとリリアはベッドの上でエイミィと遊んでいる。


「あ、お兄ちゃんお帰り」


 エイミィが笑顔で刀夜を迎えてくれる。刀夜の顔ももう慣れて嫌な顔をされることもない。


「おかえりなさいませ。刀夜様」


 リリアはいつものように刀夜を出迎えた。そんな些細な言葉でも刀夜の心は温まる思いであった。


「……ああ、ただいま」


 刀夜は鞄からお土産を取り出してエイミィに渡した。


「はい、お土産だよ」


「わぁ、お人形さんだぁ」


 エイミィは女の子の人形を抱きしめて嬉しそうにした。


「ほら、エイミィ。もらったらなんて言うの?」


「お兄ちゃんありがとう」


 リリアは素直な彼女をみて微笑んでいる。刀夜はもっと落ち込んでいるのかと思っていたが、そうでもなさそうな彼女に少し安心した。


 巨人兵の戦いで多少は肝が据わったのかも知れない。


 だが刀夜が助言した自警団の作戦は敵を罠の場所まで誘い込む戦術を取ることになる。先鋒は一度敵の懐に飛び込む必要があり、当然一番リスクを負う場所である。


 リリアをそんな場所に置いておきたくはない。


 刀夜は険しい表情で部屋を後にすると家から出ていこうとした。


「刀夜様?」


「刀夜、どこにいくの?」


 刀夜の行動に嫌な予感がした晴樹が止めに入った。


「自警団だ。直談判にしにいく」


 いくら巨人兵討伐の功労者だからといって、14歳の娘を最前線に組み込んで良い道理はない。


 他に経験豊かで戦に長けた魔術師はいるはずである。そのような連中を差し置いてなぜリリアが先鋒なのか納得がいかない。なんとしても後方に再配置してもらう。


 刀夜は怒り心頭で家を後にして自警団本部へと乗り込むと、怒りの表情で受付嬢に団長への面会を申しこむ。


「大至急、団長にお会いしたい! アポはないが大至急だ!!」


 刀夜の険悪な表情と怒鳴り声に受付嬢はオドオドとしながら連絡を取った。一方で受け付けにいた別の団員に案内されて客室で待つこととなる。


 だが刀夜が通されたのは一般向けの小さな面会場で、そこに現れたのはレイラだったことに刀夜は不快感を露にした。


「俺は団長に用があると言ったのだがな……」


 刀夜の鋭い眼光にレイラは毅然と目を合わせているものの内心は冷や汗ものであった。この男がどのような用件で自警団に怒鳴り込んできたのか分かっているからだ。


「すまない団長以下分団長クラスは忙しくて時間がとれない。代わりにわたしが……」


 刀夜は彼女の態度から忙しいのではなく顔向けできないのではないかと思えた。それが余計に刀夜を苛立たせることとなる。


 巨人戦、教団戦、そして今回工場への情報と作戦への助言、さらには議員への根回しまでやった。これだけの恩を売っておいたのに刀夜の一番大事なものを危険にさらさせようというのだ。


「では聞くが、なぜリリアを先鋒に配置した? 彼女はまだ14歳だぞ。こんなやりかたが自警団の流儀か!!」


 レイラにしてみれば一番痛いところを突かれた。14歳ならばまだ聖堂院の学校に通っている年齢だ。


 本来なら15歳で卒業となり、エスカレータ式に魔術ギルドへ編入される。それでも一人前になるまで自警団のこんな戦争まがいな案件に依頼は出ないのが通例だ。


「許してくれ……」


 レイラはプライドをかなぐり捨てて頭を机に押し当てるほど下げた。


「これは我々の本意ではないのだ……すまない」


 彼女の肩は微かに震えており、本気で謝っていた。なにか屈辱に耐えているそんな雰囲気を漂わせている。一体自警団の中で何が起きたというにだろうかと、刀夜の怒りは疑問へと塗り替えられた。

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